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零シティ・改  作者: 観月
第一部
6/37

レッドスコーピオン -5-

 大きな窓から見える街は、次第に紫色に暮れていく。

「あの時のアルフレッドが、目の前にいるお前なわけだな、アルファ」

 エヴァンジェリン(ベータ)は、不機嫌そうに顔をしかめた。

「君を、レッドスコーピオンに引き入れた時、気付かれるんじゃないかと思ったよ」

 アルフレッドの方はにやにやと笑っていた。

「に……似ているなとは、思ってたんだ……!」

 頬を染めたエヴァンジェリンにアルフレッドはくつくつと、喉を震わせて笑った。ひとしきり、笑うと、アルフレッドはテーブルに両肘を載せ、手を組んで、エヴァンジェリンの方へ身を乗り出した。

「エヴァ、これからのレッドスコーピオンは、今までと違った形になる。本拠地も移すつもりだ。もう他のメンバーにはあらかた話をした。方向性に同意できないというものはこれを機に組織を抜けてもらっている。残ったものは、素顔と名を明かしてもらう。君は嫌うかもしれないが、俺個人としては出来れば残ってもらいたい」

「本拠地を変える? アウトサイドの中で、ファーストシティ以上に情報の集まるシティはないだろう?」

 エヴァンジェリンが首をかしげて、口元に手を当てながら問うた。

「数日のうちに、零シティ内に潜入する。もう、手配は済ませてある。そして、その後は……」

 アルフレッドは口の端をわずかに歪めると、右手の人差し指を上へと向けた。

宇宙そらへ」

 がたん!

 エヴァンジェリンが腰を浮かせて身を乗り出す。

「アホか!?」

 と一言発する。

「いや、真面目な話なんだけど」

 アルフレッドは困ったような顔で頭をかいた。


「テラ教は宇宙との交易を禁じているし、テラ人が宇宙へ自由に行き来することも禁じている! 宇宙へ行く手段があったとしても、飛び立った途端に攻撃される」

 零シティは見てくれこそ恐ろしく古臭いクラシックな町並みを残しているが、一皮むけば、最新の科学によって制御され、鉄壁の守りと攻撃力を持っていた。

「ファーストシティ辺りでうろうろしてる組織が出し抜けるわけない!」

 エヴァンジェリンはそう言い放つと、テーブルの上で握りしめられたこぶしがギュッと、握りしめた。

「まあ、それはそうなんだけど……実は、ドゥシアス三世の容態が、危ないんだ。近日中に崩御するのではないかと言われている」

 教皇ドゥシアス三世は、八年前より筋肉の委縮と低下を引き起こす原因不明の病理に侵されていた。最近では癒しの力をもってしても、自力での呼吸すらままならないとのうわさだった。

「それで……まだ公にはなってないが、宇宙連合中央大学へ特別待遇で留学していたヴェルヌ王子が帰郷する。まあ、そこでジュール派とヴェルヌ派の対立がまた、表面化するかと」

 エヴァンジェリンが首を振る。

「今さら?」

 教皇が発症して八年。すでに権力の中枢はジュールが握っている。

 もともと、ヴェルヌは兄との衝突を望んではいなかった。

 六年前、ジュール派とヴェルヌ派の争いが激しさを増そうとした時、ヴェルヌはテラを離れることを選んだ。それは、自分がこの地を離れることによって、無用な兄との衝突を避け、兄に敵対する意思のないことを示すためでもあった。

「起こすのさ。今、テラには激しい外圧がかかっている。宇宙連合から交易を求める催促が矢のように来ている。枢機卿の中には、このまま連合を回避し続けることは不可能と考えるものもいる」

「そいつらが動くと踏んでいるわけ?」

 エヴァンジェリンが腰を下ろし、腕組みをすると先を促すようにアルフレッドを見る。

「そう。水面下ではヴェルヌ派の枢機卿と、我々のレッドスコーピオン、アウトサイドで最大の反テラ教の軍事集団テラ解放軍の間で、そのためのシナリオも作られているところだ。今だから、混乱が起こせる。混乱が起きれば、隙もできる」

「そうすれば、宇宙連合が出てくる。内乱が起きたともなれば、嬉々として、テラに手を伸ばすだろう」

「だから、短期決戦で片を付ける」

「本気……なんだな?」

 エヴァンジェリンは空気がひやりと温度を下げたように感じた。背筋がゾクリと粟立つ。

「生きるか死ぬかだぞ?」

 声がいつもより低くかすれてしまう。

 アルフレッドはエヴァンジェリンの方へさらに身を乗り出し、その瞳を見つめる。

「俺は生きる。生きたまま死んでいるのは終わりにしたいんだ。テラにいる限り、結局俺は死人だ。宇宙そらへ行く。アルフレッドとして生きた先が死であったとしてもだ。……そう簡単に死ぬつもりはないけれどね。ヴェルヌ派につく。エヴァンジェリン。もう一度言う。俺は君についてきてほしいと思っている」

 アルフレッドの青い瞳から放たれる視線が痛くて、エヴァンジェリンは目をそらしそうになる。

「エヴァンジェリン、俺はレッドスコーピオンを立ち上げるとき、仲間に選ぶ者たちは基本ジュールに敵対心や復讐心を持つものを選んできた」

 エヴァンジェリンはハッとして、逸らしそうになっていた顔をアルフレッドに向けた。

「私もだな。私もそうなんだな!」

「そうだ、君はヴェルヌがテラを出た後の、ジュールのやり方に不満を持っているはずだ。だから、死を覚悟で王のガーディアンから脱走した」

 アルフレッドの答えに、エヴァンジェリンは自分の中に湧き上がった感情を押し殺そうと首を一つ振った。



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