アウトサイド -3-
今回、短めです。しばらくしたら、アウトサイドの章をもうすこし、バランスよくなるように整理しようと思います。内容を変更する予定はございません。(今回アップの部分は「旧、零シティ」には描かれていなかった部分になります))
「追ってきます」
操縦席のガーディアンフェネックが、ちらりと後部座席のジュールを振り返りながら言った。
「さっきすれ違ったエアカーか……」
後部座席に足を組みゆったりと腰をおろしていたジュールが考え込むように口元に拳を当てた。
「零シティまでついてこられると面倒だ……」
ジュールの言葉を聞いて、ガーディアンフェネックは速度を落とす。
「どうします?」
フェネックは主の返事を待つ。
「とりあえず、捕獲してもらおうか……」
ジュールの言葉にフェネックはもう一台のエアカーに乗るガーディアンにもその旨を知らせると、ゆっくりと速度を落とし、飛行形態のまま着陸させる。
エアカーが着陸した地点は遠くに零シティが見えるものの、辺りには何もない砂漠地帯だった。かろうじて一本の道が零シティからファーストシティまで伸びている。その、道の脇にジュールたち二台のエアカーが止まる。
すると、跡を追ってきたエアカーも、二台のすぐ後ろに止まった。
フェネックは助手席に座るガーディアンセイカに頷いていせると、扉を跳ね上げた。
追っていた二機の飛行形態のエアカーが速度を落とし、ゆっくりと着陸する。
リョーマも、そのすぐ後に自分の乗っていたエアカーを停止させると、ゆっくりと息を吐き出した。脇に置いてあった、銃を手に取るとエアカーのドアを開け、前方を伺いながら外へと這い出した。
❋
リョーマはざりざりとした砂の上に転がっていた。武器も取り上げられ、拘束用のロープでがんじがらめにされ、まるで芋虫になってしまったようだった。目の前には、白いシャツの裾が見える。その裾から、白い男性用のストラップシューズが覗いている。
リョーマの放った攻撃をあっという間にかいくぐり、押さえつけ、武器を取り上げ縛り上げた四人のガーディアンは少し離れた場所からこちらをうかがっているらしいが、転がされたリョーマの視界には入ってこなかった。
目の前に立つ白い聖職者の衣を着たジュールの顔を見上げようともがくが、きつく戒められた体は自由にならず、ただのた打ち回っているだけだった。
ふいに影が落ちて、目の前に立っていたジュールが砂の上に膝をつき、リョーマの顎に手をかけた。そのまま、上を向かせる。顔を覗き込み「君か……」と、つぶやいた。もう片方の手には小さな短剣が握られていた。
「レッドスコーピオンのリョーマだな?」
かけられた言葉にリョーマは眉をひそめる。
「……知っているのか」
出来うる限りの気を込めて、リョーマは目の前のジュールを睨みつけた。
「知っている。レッドスコーピオンのメンバーは全て。……ぼくを、殺しに来たか?」
リョーマは何も言わない。
しばらくジュールはリョーマの言葉を待ったが、返答がないと判断したのか「ふふ」と、笑った。溜息のような笑いだった。
「ぼくの命を君にくれてやるのはやぶさかではないんだが……」
ジュールはまるで詩でも口ずさむかのように静かに呟く。
「やっぱりぼくは、自分で自分の始末をつけたいと思うんだ」
相変わらずリョーマの眉間にはしわが寄っていたが、あふれるばかりだった殺気が幾分凪いだ。
「すっかり準備もしてしまったし……」
そう言うと、リョーマの顎から手を放す。とすんと、リョーマは再び砂の上に転がる。そして、ジュールの膝しか見えなくなる。う、と小さな呻きが上からおりてきた。ぽたぽたぽた、と、リョーマの目の前に血が滴る。
「……え?」
リョーマは驚愕に目を見開いた。身を捩り、仰向けになる。
リョーマの上で、ジュールは右手に血にぬれた剣を持っている。左手は胸の前で上向きに握りこまれていて、そこから血が流れている。
「なに、を?」
リョーマの頭の中は真っ白だった。何も考えられない。
ジュールは相変わらず笑んでいる。
「これで今のところは許してはもらえないかな? ひとつだけやり残したことがあるんだ。リョーマ、縄を解くから、ぼくのガーディアンに見つからないようにしばらくはここに転がっているんだよ?」
目の前にいる男は誰だ?
リョーマは瞬きすることすら忘れていた。
「なにを、する、つもりだ」
目を見開いたまま、乾いた声が思考よりも先に飛び出す。
「アルフレッドに、兄に、伝えてくれる? ぼくがこれからしたことを……」
リョーマは目の前の男に魅入られたように見つめながら、こくりと頷いていた。




