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零シティ・改  作者: 観月
第二部
26/37

アウトサイド -2-

 不意に始まった戦闘によって、着座式の会場である移動式ドームは、混乱の中にあった。

 ドーム内の控室で、ジュールはガーディアンに囲まれていた。

「ガーディアン フェネック、セイカ、キメラ、ソード。以上四人に私の護衛を頼む。他のものは現在地にて待機。不要な戦闘は控えろ。今現在、アダマスに緊急援助要請を出した。今にもこちらに到着するだろう。私が戻らなければ……ロッシ枢機卿、もしくはヴェルヌの指示に従え」

 徹底的に訓練されたガーディアンであったからざわめきもしなかったが、ヴェルヌの名が出た時、確かにその部屋の空気は揺らいだ。今現在ヴェルヌは零シティ内の王宮で、監禁状態にあるはずだからだ。

 その場に居合わせたガーディアンは八名。まだ、会場内で応戦しているものもいる。

「ガーディアン ブラン」

「はい」

 白金の鎧に身を固めたガーディアンの中から一人が進み出た。

「これを」

 差し出されたジュールの右手には、人差し指と中指に挟まれるように小さなプラスチック片がはさまれている。記憶媒体のようだった。

 ガーディアンブランは手を差し出すと、恭しくそれを受け取る。

「これを、ロッシ枢機卿、もしくはヴェルヌのどちらかに渡すように。その二人以外にはだれにも渡してはならない。頼めるか?」

「はい」

 ジュールが目の前の人物の仮面の下の瞳を静かに見つめていた。

「ありがとう」

 そういうと踵を返す。

「フェネック」

 別のガーディアンが歩み出る。

「私を零シティ、大聖堂へ連れて行ってくれるか」

「ジュール様?」

 フェネックはいつにないジュールの様子に、胸騒ぎを覚える。しかし、王のガーディアンは唯一王の命に従う。先王ドゥシアスは今はなく、ジュールはまだ着座式は終えていないから教皇ではなかったが、戴冠式は終えた、王である。

 フェネックは己の中の葛藤と戦っていた。

「頼む、ガーディアンフェネック」

 頼む。そう言いながら、ジュールの瞳はじっとフェネックを見つめたまま、まるきり揺らぐ様子がない。

「御意」

 跪き、首を垂れる。

 ガーディアン・フェネックには結局、それ以外の選択肢はない。

 すぐさまフェネックをはじめ、ジュールに護衛の命を下された四名のガーディアンが作戦を立てる。

「零シティへは?」

「スピードを取るなら、エアカーでしょう。残念ながら、戦闘を前提とした乗り物は今回無い」

 簡単な言葉を交わし目を見かわすと、動き始める。それと同時に、待機を言い渡された四名のガーディアンが扉の前へ進み出た。

「何をしている、お前たちはここに待機だと……」

 ジュールが扉に手をかけたガーディアンたちに声をかけた。

「わたし達がまず出て、反乱軍(解放軍)を引き付けます」

 扉の前で後ろを振り返った数名のガーディアンを代表してガーディアンブランが言った。

「もちろん、無用な戦闘には陥らないように行動します」

 ジュールはしばらく無言だったが、小さく「頼む」と発する。

 それが、作戦開始の合図となった。


❋ ❋ ❋


 王宮地下のマイクロトラムステーション。

 ステーションに立ち、トラムを待つレッドスコーピオンの群れからリョーマは離れた。

 細長いステーションから出ていこうとするリョーマにカイが気づく。

「マジで行くのかよ?」

 声をかけた。

 カイは、古くからリョーマと組んで仕事をしていた男だ。

 リョーマが首だけで振り返った。

「ジュール・テルースに会ってくる」

 そこに居合わせた、カイ、レベッカ、そして黒髪の大男ダンダが息を飲む。

 リョーマは視線を外すと、仲間に背を向けた。

「……リョーマ! フォルトゥナに入ったら、情報を回すわ! 通信を切らないで!」

 レベッカが数歩リョーマに引きずられるように前に出ながら叫んだ。

 ひょいと眉を跳ね上げて、リョーマはレベッカを振り返る。

 目が合った。リョーマの薄い唇に笑みのようなものが浮かび「頼んだ」と一言つぶやくと、あとはもう振り返らすに地上をめざし、走り出していった。


 ❋


 リョーマは地上へ出ると、手近にあったエアカーを無断で拝借(強奪)して、ぐんぐんとスピードを上げていた。

 零シティから出ていくことに関しては、検問はさほど厳しいものではない。そのうえ、リョーマは今日はリンバルド家が用意した身分証明カードも携帯している。

 難なく、零シティを後にしたころ、宇宙船フォルトゥナに乗り込んだレベッカからの連絡が入った。

『リョーマ! わたしよ、聞こえる?』

 身に着けたゴーグルが通信の機能も有している。

「聞こえている」

 リョーマは運転しながら答える。

 零シティからファーストシティへ延びる道はリョーマが運転するエアカー以外、行くものも帰るものもない。

『今、ジュールは会場にはいないわ! アダマスが会場に到着したみたいなんだけど……動きが変なの』

「変?」

『ロッシがアダマスを下りたわ! アダマスをはじめすべての治安部隊の指揮権をヴェルヌ王子に譲ると宣言して……でも、ジュールの身柄確保には至ってないみたいなの』

「で? ジュールはどこだ」

『それが、零シティ方向に向かってるらしいの。四人のガーディアンがついてる。会場からはエアカーを使って離れたようよ』

「ふうん。わかった」

『ねえ、ばかなことやめてよ、ガーディアン四人相手に何ができるのよ』

「無理だな……もう来ている」

 リョーマはゴーグルの耳の脇にある小さな部分をひと撫でし、通信を切る。

 エアカーとは、もともとは車輪で走ることも、変形して空を飛ぶこともできる車を指す言葉だったのだが、最近のものは空中に浮いて走るのが基本仕様となっている。そこから変形して、完全に飛行形態となれば、時速約五百キロを出すことが出来る乗り物だ。実際、もっと早く飛ぶことも構造上は可能なのだが、一般に流通するものはそれが限度とされていた。

 リョーマの乗るエアカーの前方から、二機の飛行形態となったエアカーらしきものが迫る。


 ジュールは四人のガーディアンと零シティへ向かっている。


 おそらくは……。


 リョーマが通常形態のまま、機体を旋回させる。

 その脇を、ほぼ最高速度で二機のエアカーが爆音を引き摺りながら通り過ぎていく。

 リョーマの機体が旋回し終えると、飛行形態に変形し、辺りを衝撃音で震わせるながら先の二機を追った。


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