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零シティ・改  作者: 観月
第一部
19/37

Ready -1-

 六日前


 その日、レッドスコーピオンの面々の零シティへの潜入は滞りなく行われた。

 アルフレッドが零シティにおいて頼みとしたのはウルフ・リンバルド枢機卿。アルフレッドの亡き母の、遠縁にあたる。

 リンバルドはもうすぐ七十に手が届こうかという年だったが、背筋は伸びていたし恰幅がよく大柄だった。その威圧的な見た目に似合わず穏やかな男であり、ヴェルヌ派の中では穏健派と目されている。

 レッドスコーピオンのメンバーは、アウトサイドより搬入される物資を運ぶ商人の警護として潜入した。つてがなければ、アウトサイドから零シティに潜入することは至難の業だったが、リンバルド家ほどの後ろ盾があれば、そうむずかしいことではなかったらしい。リンバルト家の警備兵の服も、身分証明カードもすべてリンバルトより支給された。身分証明カードは、警備服に装備していれば、いちいち提示する必要もなく零シティへのゲートを通り抜けることが出来た。レッドスコーピオンのメンバーはアウトサイドと零シティを結ぶ巨大な鈍色のゲートに一瞬緊張したもののあまりにもすんなりと通り抜けてしまい、「これでいいのか?」と、門を守る警備兵に詰め寄りたくなったほどだ。


 アルフレッド以外のメンバーはリンバルト家の警備兵として、屋敷の中の一角に部屋も与えられた。

 彼らは到着すると、早速警備兵用のの訓練所へと足を運ぶ。


「新入りさん。お館様より指示は受けてるよ」

 訓練所で待ち構えていたのは壮年の体格の良い、いかにも兵士然とした男だった。浅黒く日焼けした体躯に短く刈り込まれた髪。そこにはちらほらと白いものが混じっているようだ。厚い胸板と、盛り上がった筋肉は、彼が肉弾戦においても誰にも引けは取らないと物語っている。黒っぽい飾りのない制服。一番上までしめられた上着のボタンが、見ているだけでも窮屈そうだ。彼の後ろには、反対にずいぶん小粒な警備兵が控えている。

「俺は警備兵隊長で、あんたたちの世話を任されている」

 大柄な方の男が言った。

「まずここで、あんたたちにはこれらの武器を使いこなせるようになってほしい」

 周りを塀に囲まれた芝の生えた広い空地。屋外の施設で頭の上にはぽっかりと青い空が浮かんでいる。

 その隅にの屋根のある一角にレッドスコーピオンの面々は集まっていた。そこには細長い机の上に置かれた武器の数々が並んでいる。

 レッドスコーピオンのメンバーは武器の扱いには慣れてはいた。だが、アウトサイドで使われるような武器は旧式の武器ばかりだ。目の前にそろえられた武器は彼らが使い慣れた、武骨な雰囲気の武器とは違い、どこか軽く玩具めいているように彼らには映った。

「零シティで最新式のものだよ。君たちが使っていたものと、仕組みは違えど扱いにそうたいした差はない。要するに、セーフティロックを外し、引き金をひけば撃てる。すぐ慣れると思う。反動もないから、逆に扱いやすいかもしれん」

 小さいものから大きいもまで、並べられている。

 皆、物珍しそうに手を伸ばした。

 リョーマがその中の一つを握ると、皆が立つ場所と反対側に設置されている的に向かって銃を構えた。そのまま、ためらうことなく片手で引き金を引く。

 パシュ!

 と、音すら溜息のように軽く、玩具めいて聞こえる。

 リョーマの放った弾丸は、的の中心を的確に打ち抜いていた。

「たしかに、同じだな」

 リョーマは挑戦的なまなざしを警備兵隊長に向けながら言った。

 なんといっても、レッドスコーピオンにスカウトされている時点で、戦闘に対しての勘や興味は人並み以上の者達である。みな並べられた銃を嬉々として扱っている。

 その様子を確認すると、警備兵隊長は、そっとリョーマとエヴァンジェリン、そしてレベッカの三人を呼んだ。

 残ったレッドスコーピオンの連中の世話は隊長の後ろにいた小柄な兵士がするということらしい。

 三人は案内され、リンバルト家の奥深くに足を踏み入れた。

 屋敷の奥にあるの広間の中に一本の大きな白い柱がそびえていた。その部屋はガラス張りでどこかから見られているようで落ち着かない。よく見ると、その柱自体がエレベーターになっているのだった。

 そのエレベーターに乗せられて、地下界へと降りていく。

 アウトサイドではエレベーター自体珍しかった。一握りの高級なホテルや施設にあるのみで、一個人の屋敷にエレベーターなど考えられないことだ。

 が、驚きはそれだけではなかった。地下へ降りてエレベーターの扉が開いた時、リョーマとレベッカは息をのんだ。

 驚く二人に、案内してきた男は得意そうな顔をして「ま、これが零シティだ」と、振り返る。

 降りた先は小さなステーションになっている。

 目の前にある発光する操作盤。天井からはそれ自体が発行しているような柔らかい光が降っていて、つるりとした無機質な空間を照らし出していた。二人にとっては人工物でおおわれた、今まで見たことも感じたこともないような空間だった。

 砂だらけのアウトサイド、クラシカルな零シティ地上部。そのどちらとも違う。

 今、彼らが足を踏み入れた零シティの地下部分には、零シティ内でも限られたものしか入ることは出来ない。しかしこの地下部分こそが、零シティとこの惑星の心臓部分であった。

「どこへいくんだい?」

 エヴァンジェリンがは、警備兵に尋る。

 警備兵は目の前の操作盤を叩きながら「あんたは、驚かないんだな?」と言うと、エヴァンジェリンを流し見た。

「私は、零シティの出身だ」

「なるほど。じゃあこれがなんだか知ってるわけだ」

 四人の目の前に小さな箱型の乗り物が止まった。

「通称マイクロトラム。零シティの地下空間を結ぶ乗り物」

「その通り」

 しゅん、と音を立てて開いた扉から四人は乗り物の中に滑り込む。

「さっきの操作盤で、行先と人数を入力すれば、無人のマイクロトラムが来てくれるわけだ。地下空間にはそこここにステイションがあるから、そのどこからでも乗ることができる。人によっては降りることのできないステーションもある。よそのうちの所有のステーションには許可なく降りることはできないしな。ここは、リンバルト家専用のステーションになる。渡された身分証明カードを、身に着けていないと警報が鳴る」

 ゆっくり音もなく走り出した箱が、少しずつスピードを上げていく。

「俺たちの行先はリンバルト家専用宇宙船ドックだ。王家と枢機卿はそれぞれ専用の宇宙船を持つことを許可されている」


 四人が降り立った先には全長70メートル程の小ぶりな宇宙船が目の前にその姿をさらしていた。

「リンバルト家所有の最新宇宙船だ。表向きはな。実際資金提供はブラッドベリ。お前さん達の船さ」

 そう言った警備兵隊長は、ニヤニヤとしてレッドスコーピオンのメンバーを眺めた。

 エヴァンジェリンですら呆けたように目を見張っている。彼女も、これほどまでに零シティの中枢へ入り込んだことはない。ガーディアンであったころですら宇宙船を間近に見たことはなかったのだ。宇宙へ。そういったアルフレッドの言葉が急に現実味を帯びて感じられた。

「船長はそこの男だ、ほれ」

 呆けた三人に案内してきた隊長は顎をしゃくって前方を示した。

 三人は、宇宙船の傍らにたたずむ小さな人影を見つけた。

「……ラムダ!」

 三人の声が、思わず重なった。

 そこに立つ人物は、レッドスコーピオン立ち上げからのメンバーであり、常にアルフレッドと行動を共にしていた男。アルフレッドとレベッカとともにエヴァンジェリン救出に向かった男でもある、コードネーム、ラムダだった。本名をレッド・マンスフィールドという。

 彼は、白髪をオールバックにし、しわの刻まれた頬に穏やかな笑みを浮かべて、そこに立っていた。


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