プロローグ
昔語りを聞かせようか。
時は、我々人類が宇宙と言う名の大海原へ漕ぎ出して、間もない頃。
昔はなんと呼ばれたものか……宇宙のいたるところに進出した我々人類の、唯一のふるさとの星。今ではテラ、と呼ばれている。
爆発的な人口の増加により宇宙へと手を延ばさざるを得なかった私たち。だが、宇宙へ飛び立ったことにより、科学技術は飛躍的な進化を遂げた。初めは小さな宇宙ステーション。次第に人口惑星や人口要塞の建設。テラと似た環境の星を見つけることはなかったが、それでもなんとか人類の住める星を探しての、居住区の建設、居住区内のテラ化。
一方、我々のふるさとは、砂漠化、異常気象、各地で頻発した小競り合いのために瀕死の状態で喘いでいた。宇宙へと飛び出した私たちの大部分はそれへ目をくれることもなく、新しい世界に目を奪われ、テラのことを忘れたかのように新天地開発が推し進められていた。要塞や惑星ごとに国家を作り、大きく宇宙連合を形作る。一方、テラに残った人々は、技術と頭脳を一点に集中させることで何とか命をつないでいた。その都市を人々は「零シティ」と命名した。最先端の技術と理想的な環境に保たれた零シティ。いつしか、それ以外の地域はアウトサイドと呼ばれるようになっていった。
そんな中、宇宙に散った人類の間に、奇妙な宗教が流行り始める。『テラ教』テラへの回帰を求める宗教だという。テラこそが我々の力の源。Terra Marter、母なる大地への回帰。細く、だが確実に支持を得ていたが、教皇ドゥシアス一世の時代に爆発的に信者を増やした。なぜならば、彼には癒しの力があったのだ。傷ついたもの、病に侵されたものを、古代の宗教の神さながらに手かざしで治していく。そして彼はその信者と七名の枢機卿を引き連れ、ふる里テラへと降臨した。
彼は零シティを、ひいてはテラをその手に掌握した。
我々が外へ外へと目をむける間に、テラは一つの宗教、一人の王に支配される専制君主の星となっていたのだ。
え?前置きが長いって?
──── 一つの星の歴史を語ろうというのだ、そう焦るものではない。
さて、いよいよ物語の始まる時代だ。奇しくも初代王と同じ名の、ドゥシアス三世の時代。
彼には三人の王子があった。兄はジュール。兄弟や実母の殺害など、黒いうわさに縁どられ、後に闇の王子と呼ばれる。弟はヴェルヌ。兄との確執を避け、一時期を宇宙連合中央大学へ留学する。のちに兄と対峙し光の王子と呼ばれる。 兄は、先の王と同じ専制君主、そして宇宙連合との交易の極端な制限を敷くことを継承した。弟のヴェルヌは幾人かの枢機卿と共にひそかに緩やかな立憲君主制を模索し、宇宙連合に一惑星として参加する道を選んだ。また、零シティのアウトサイドへの開放も推し進めた。
そして、今一人、姿なき王子アルフレッド=テルース。
妾腹であった彼は、幼いころに殺されたとも言われるが、一方でこの大きく動く歴史に深くかかわっていたという説もある。また、小さなテラを飛び出して、宇宙の海賊になったとも……。
さあさあ、役者は出そろった。我々のふるさと、テラと三人の王子。わたしたちの祖先が宇宙と言う大海原に漕ぎ出して間もない時代のお話だ。