第七話 「逮捕と捜索」
果たして、俺は次の攻撃を切り抜けられるのだろうか。胸中にあるのは不安、絶望。残された使命感だけでここに立っている。どう足掻いても敵わない敵を、どうやって倒せばいい?
「俺の使命は皆が来るまで耐えること……」ぽそりと呟いた。
その時に浮かび上がったある疑念を無視して、きっと男を見据える。
「通さん、か。いやはや参ったね」
男はへらへら、腕をぶらぶら、隙だらけに見える。もしかすると、わざと隙を見せているのかも知れない。
「こないのか?」
男の視線がこちらに向いた。剣を強く握り直す。目を見開き、男の動きを捉える。呼吸から血管の脈動まで感じられるように、全身全霊をもって注視する。
「見過ぎだぜ」
言葉と共に男が動いた。瞬間、俺は全力で踏み込んだ。だが、男は微妙に体を動かしただけで、元の位置のままだった。
「しまっ!!」
フェイントと気付いた時には遅い。俺は顎を撃ち抜かれ、天地の区別もつかないまま、地面に打ち付けられた。
「ぐっ」
俺の意識は、そのまま沈み込んでいった。
「うん、んん」
ぼんやりと顎に痛みを感じる。寝返りを打ち、目を開くと、枕があった。首をちょっと上げると、どこかの部屋だ。
「ここは……病室か」
兵舎の病室であると気付き、胸に悔しさが湧いてくる。
「駄目、だったか」
悔しさが湧くだけ、自分は凄いと思った。あれほどの力量差があれば、負けて当然なのだから。
病室の扉が開き、鎧を身に着けた副隊長が入ってきた。
「起きていたか」
「ついさっき、です」
「良く闘ったな」
「あしらわれただけです」
「卑下するな、あれはもう人間の領域じゃないよ」
「あれはって、闘ったんですか?」
「いや、俺は闘っていない。俺と同行した者が4人やられた」
「間に合ったんですか」
「ふむ、すんでのところでな。ちゃんと逮捕したぞ」
「え、できたんですか!?」
副隊長は近くの椅子に腰掛けた。
「ブランがな、運良く外に出ていた防人に会ったんだ。そいつに言伝をして、お前のところに戻った」
「じゃあ、ブランが時間稼ぎを?」
「そうなるな」
「凄いな、あいつ」
「本人曰く、二撃でやられたそうだ」
「俺と同じか」
「しかしどうやら、その前に色々と姑息な手段で足止めしていたようだな。俺たちが着いた時には、辺りに色々と散乱していたから」
「はは……」
姑息な手段というのがなにかは分からないが、正攻法で立ち向かうよりは正しい手段だったろう。
そこで、俺は戦闘中に押し込んだ、ある疑念について思いだした。
「正直、ここの防人全員であいつに掛かっても、倒すどころか触れられる気さえしません。一応、応援が来るまで時間を稼げたわけですが、どうやって逮捕したんです?」
「うむ、その後、さっき言ったように4人が倒され、こちらは俺を含めてあと6人だった。お前の言う通り、何人で掛かっても多分、返り討ちだな」
副隊長の声には、若干の悔しさが滲んでいた。副隊長は自分の強さに貪欲だし、防人という仕事に対しても腐らずに、誇りを持っている。だからなのだろう。
「だがそこで、あの狩人を名乗る男が投降したんだ。いきなりな」
「何故?」
「あいつはこう言っていた。俺の世話になった人が魔物に襲われたかもしれん、それを確かめにきた。俺一人では助け出せん。時間があまりない。手伝ってくれ」
「世話になった人か」
その言葉で、俺はカリーヤさんたちのことを思い出す。
「そうだ、副隊長! それよりカリーヤさんです! 宗神院の皆が!」俺は飛び起きた。
「落ち着け」
「皆がいなくなってしまったんです! 魔物が原因かも……!」
「それはブランから聞いた」
「ブ、ブランから、そうですか。それで、どうなったんです?」
「一先ず街で捜索している。情報が入り次第、連絡があるはずだ」
「そうですか……」
ベッドを降り、まだ少し痛む顎を擦りながら、部屋の扉に向かう。
「何処に行くんだ」
「俺も、捜索に参加します」
「すまないが、モリヒト、君には当たってもらいたい任がある」
「任務ですか?」振り返る。
「例の狩人の監視だ」
俺は副隊長とともに、取り調べ室へ向かう。
「実は、まだ街の役人にあの狩人のことは伝えていないんだ」
「え、なぜです?」
「悪人ではないかも知れんからだ」
「む、無実でしたか」
「まあ、防人6人をのしたんだし、刀剣も盗品の疑いがある以上、まるっきり無実ではないんだがな。男の情報が気になる」
「と言うと?」
「あいつが世話になった人と言うのが、どうもカリーヤさんらしいんだ」
「え!?」




