第五話 「消えた彼女たち」
明くる日、俺とブランは宗神院へと向かった。ドリアドからもっと詳しく魔物の情報を集めるためだ。
「訓練は免除でドリアドさんにまで会えるなんてついてるなぁ」
「黙れ」
ブランは朝からにやにやしていて気色悪い。こいつの髪に火が付かないかな、とか考えつつ歩いていると、宗神院に着いた。
礼拝堂の扉を開ける。
「ごめんくださーい」
返事がない。礼拝堂には誰もいなかった。
「ここだと思ったんだがな」
「うらにわには?」
「にわにわにはにわにわとりがいるだけだ」
「他にいそうな場所は?」
「宿舎だな」
礼拝堂を出て宿舎にも顔を出す。だが、ここにも誰もいなかった。
「気配も感じられない。おかしい」
「部屋を一つ一つ見て回ろうぜ」
「それはちょっと……」
「緊急事態かもしれないだろ」
「まあ、そうだな」
宿舎の部屋を一つ一つ見て回った。大体が4人用の子供部屋だ。争った形跡が所々にあったが、多分、子供同士の喧嘩でついたのだろう。
「さて、次はカリーヤさんの部屋だな」
「おい待てやめろ」
「なんだよ、いまさら」
「いやさすがに妙齢の淑女の部屋を漁るのは犯罪臭がする気がする」
「見るだけ、ちょこっと見るだけだからさ」
「いや、でも」
「ダイジョブダイジョブ、ばれないばれない」
「う~ん、しかしなあ」
「はいどーん」ブランが扉を開けてしまった。
「うわあ」
ベッドと本棚、タンス、机があるだけの簡素な部屋だった。
「あ、なんだか日向の香りがする」
「モリヒト?」
「いやなにも言っていない」
「そうか」
「結局、誰もいなかったな」
その後、宗神院全体を隈なく探してみたが、カリーヤさんもドリアドさんも、子供たちも見付からなかった。
「分からん、宗神院の皆がそろって出掛ける用事なんてないはずだ」
「考えられるとすれば、ドリアドさんの誘いで森に入ったとかか?」
「いや、それにしても全員で行くとは思えないな。子供の中には3歳の子もいるんだ」
「森は危ないか」
「なにか事件に巻き込まれた可能性もあるな」
「虱潰しに訊いてまわるしかないか」
「そうだな、急ごう」
宗神院を出て、先ずは周辺の住民に訊いてみることにした。
「宗神院の子供たち? 見てないな」
「カリーヤさんは昨日から見てないよ」
「緑髪の美人かい、知らないね」
…………。
そうして日が一番高くなる頃まで聞き込みを続けても、カリーヤさんたちの情報は一切、入ってこなかった。
「くそっ、どこに行ったんだ」
街を歩き回りながら、嘆息交じりに呟く。
「こりゃあ、ほんとにまずいかもな」ブランもいつになく神妙な面持ちだ。
「手掛かりがない、なさ過ぎる」
「人の手によるものじゃないさそうだな。誰にも気づかれず、十数人を一晩で連れ去るなんて、人間には無理な芸当だ」ブランの意見に考えを巡らせる。
「魔物、か」
「その可能性が高いと思う」
確かに、一番ありそうなことではある。
「だが、魔物がどうやって街に侵入したのか気になるところだな」
「ともかく、隊長に報告だろ?」
「ああ、そうだな」
歩調を早め、兵舎へ向かう。途中、ある男とすれ違った。
乱れた頭髪、無精に伸びた髭、薄汚れた顔、そして獣臭。ボロボロの外套を羽織っており、その下に覗く衣類も、つぎはぎで、所々破けている。
なにより、すれ違う瞬間、外套の隙間から光った、血糊の付いた短剣。
善人には見えなかった。
「おい待て」
その男を、反射的に呼び止めていた。




