エピローグ 「狩人と防人」
それから、事の処理は滞りなく終わった……とは言えず、死者と行方不明者があの魔物によってどれだけ出されたのか調査することになった。消化されかけて原型をとどめていない遺体も多く、かなり嫌な気分にさせられた。
それと、魔物が街に侵入していたと分かって、街の警備が強化された。隊長が「仕事が増えるな」とぼやいていたが、殆どの仕事を副隊長に丸投げしている。当然、副隊長はカンカンだ。
「デイリ隊長、俺と決闘しましょう。俺が勝ったら首を括ってください」
「なんでそこまで!?」
というやりとりが記憶に新しい。
そして俺の方では以前と大差なく、仕事が終われば宗神院へと通う日々だ。ただ二つ変わったことがある。一つ。
「さて、モリヒト、今日も宗神院に行くぞ!」
「娼館じゃないのか?」
「バッカ、お前、今の俺はもっと大事なことに目覚めたんだよ」
「大事なことって?」
「面白いこと」
とまあ、ニヤニヤしながらブランが宗神院についてくるようになった。居ても構わないが……こいつの目的が分からない。カリーヤさん目当てというのも考えたが、特にカリーヤさんと親しくしようという素振りが感じられない。なんなんだろう。
そしてもう一つ変わったこと。
「おう兄ちゃん、本当に毎日来るんだな」
カールが宗神院に住み着いたことだ。
カールに命を救われたことを知ったカリーヤさんが、なにか礼をしようとしたところ、カールが宿なしであることを知り、宗神院の一室を貸したのだ。元々、カールがふらふらと街に流れて来たとき、水と食料を何日間か世話した仲であるらしい。カリーヤさんらしいが……。
「モリヒトさん、なんか怖い顔してるよー」
子供たちにも怪我はなく、こうして元気にしている。
「モリヒトさん、ちょっと買い物にでかけなくちゃならなくて。しばらく子供たちを見ていてもらえませんか?」
カリーヤさんもいつも通りだ。
「ええ、構いませんよ」
「良かった、じゃあカールさん、荷物をよろしく頼みますね」
「あいよ」
そう言って、二人は街へと繰り出した。
「ぶくっくっ、ど、どうしたモリヒト……面白くなさそうな顔して、アッヒャッヒャ!」
何故か大笑いするブランに制裁を加える。
「ちょ、お前、もろ腹に入ったぞ、うぐぐ」
「知るか、さあ、皆、なにか本でも読もうか?」
「じゃあこれ読んでー」
「これもー」
と、こんな調子で、日々が穏やかに過ぎていく。
俺は防人として、これまでどおりこれからも、街の人々を守っていくのだ。故郷に帰るその日まで。それが今の、俺の幸せ。
月の無い夜。静寂した森の中に、暗く光る双眸があった。双眸の主は、人骨を噛み砕き、血を啜った。およそ牛ほどの大きさがある、狼。魔物だった。
狼は次の獲物に狙いを定めた。相手は目の前に立つ人間。逃げもせず、ただ立っている。
狼は飛びかかった。刹那、狼の首が撥ねられた。血飛沫を巻き上げながら、狼の首が回転して墜ちる。
森に風が吹き、木の葉のざわめきが、森に木霊した。
狩人は返り血を、近くにあった小川で落とし、新たな居場所へと戻っていった。




