第十二話 「決着」
群がる植物を火で焼き払った。辺り一面、焼け野原の様相となってしまった。だがそのお陰で、迫ってくる魔物はいない。
「モリヒトさん……」
その声に振り返ると、よろめきながらカリーヤさんが歩いて来た。
「無理をしないで下さい、怪我はありませんか?」
「はい、なんとか……助けて下さってありがとうございます」
「ああ、いや」
なんとなく言い淀んでしまう。カリーヤさんを助けたのはカールだが、素直に認めてしまうのは何故か癪だ。
「あ、そうだ、まだ残ってた」
「え?」
「カリーヤさんはここに居てください。最後の一仕事が残っているので」
「あ、おいモリヒト」
ブランが声を掛けてきたが、構っている暇はない。あいつにばかり格好をつけさせてたまるか。近くにいた防人から弓矢をひったくり、カールの元へ駆けた。
飛びかかるドリアドを空中で掴み取り、上空へ放り投げる。
「ガアアアアアアアッ!」
喚くドリアドの喉元に一閃、投擲したナイフが突き刺さる。
「グフッ」
そしてドリアドが地面に激突する。すかさずカールの追撃がドリアドの四肢を切り刻んだ。
「まだ再生しやがるか、しぶといな」
カールの言葉通り、ドリアドの肉体は斬ったそばから、周囲の植物を取り込んで再生する。度重なる再生により周囲の地面は禿げてきたが、ここは森、植物は無尽蔵にあった。
「アリエナイ、フザケルナ、ニンゲン如キガ……」
一方のドリアドはぶつぶつとうわ言を呟いて、戦闘どころではない。この戦いは最早、カールがドリアドを殺しきれるかどうかという、ドリアドにとっての地獄となっていた。当然、ドリアドは逃走を試みるのだが、カールは人外の速さでドリアドに追いすがり、胴体を両断するか、脚を掴んで地面に叩きつけるのだった。
「フフッ、アハハ、ハハハハ」
どうやって止めを刺そうかカールが思案していると、ドリアドが笑いだした。
「信ジラレン、信じられんが認めよう、私ハ人間に殺サレル」
ドリアドのローブが枯れ木色に戻り、肌に浮かんでいた青緑色も元に戻っていく。
「だが、お前も道連れだ」
ドリアドが両腕を天に掲げた。周囲が蠢く気配を感じたカールはその場から飛び退こうとしたが、地面から張り出てきた木の枝に遮られた。そして、大量の樹木がカ-ルに押し寄せた。カールは木の隙間を縫って避けようとしたが、そこにドリアドが迫った。
「逃がさない」
カールはドリアドを切り伏せるが、ドリアドはカールを掴んで離さない。そうこうするうちに、押し寄せてきた樹木がドリアドごとカールを覆い――
「ぐああああああああっ!?」
ドリアドの苦悶とともに、樹木がもがくように身を捩じらせた。カールは無傷で、きょとんとしている。
「無事か?」
モリヒトだった。
「どうなってんだ、こりゃあ」
「火だよ」
「火?」
「あれだ」
モリヒトは樹木に突き刺さった火矢を指差した。
「あれだけか?」
「どんな化け物にも弱点があるってことだ」
「……弱点、ね」
モリヒトは火矢をつがえ、悶絶するドリアドに放った。
「ああ、ああ……」
火矢はドリアドの胸を貫き、火がローブに燃え移った。
「止めを刺してやれ……」
「優しいね」
カールはドリアドに歩み寄り、剣を振るった。ドリアドの首が宙を舞い、その体が再生することはなかった。
「これで終わりか」モリヒトが呟いた。
「あっけないもんだ、俺の苦労は骨折りだったな」
「なんだよ、お前の苦労って」
「あいつを仕留める方法を何ヶ月探ったと思ってるんだ」
「それだけ考えていて火という選択がなかったのか」
「なかったなぁ……」
しばしの沈黙の後、二人は笑いあった。
それから、二人が後処理をする防人たちの元へ戻り、魔物を討ち果たしたことを告げると、勝鬨が静寂した森に響いた。




