第十一話 「狩人そして防人の力」
カールはドリアドと真正面から対峙した。ドリアドは両の掌に突き刺さったナイフを操った枝で引き抜いた。
「イツもいつもドウして貴様は食事の邪魔をスル」
ドリアドは無表情にそう言った。枯れ木色のローブに葉脈の筋が広がり、脈打つように、徐々にローブは鮮やかな緑に染まっていく。それと同時に、ドリアドの白い肌にも、うっすらと青緑色が浮かんだ。
「俺に残った最後の良心なのかもしんねえな」
カールはいつものように、飄々と答えた。
「今日は邪魔をサセナイ。オ前が晩餐ダ」
ドリアドがつま先で地面を蹴ると、一瞬でカールに迫った。無造作に振り上げた腕がカールに当たり、カールは遥か後方に吹き飛んだ。飛ばされながらも、カールは宙で身を反転させて、四つん這いになりながらも着地する。見上げるとドリアドが見下ろしていた。頭がドリアドに踏みつけられる。頭が地面にめり込んだ。
「このまま踏みツブシテやる。爆ゼルがいい」
尋常ならざる力がカールを圧迫する。しかしカールは笑っていた。
「植物如きが、ちょこまか動いてんじゃねえよ」
カールはドリアドの足首を掴むと、そのまま握り潰した。体勢を崩したドリアドは、尻餅を搗いた。カールは、ゆっくりと起き上る。
「ああ、くそ、痛ってえな」
踏まれた頭を擦りながら、カールは土を払った。
「バ、馬鹿ナ、アリエナイ、フザケルナ、ドウナッテイル……」
ドリアドはカールを見上げたまま、呆然自失となっている。カールに握り潰された足首に草が絡みつき、再生が始まっていた。
「ふん、周辺の植物で負傷が治るのか? 流石に親玉なだけはあるな、手間取りそうだ」
カールは不機嫌そうにドリアドを見下ろした。
「さて、決戦だ」
迫りくる蔦を斬り払いながら、植物が群がる中を駆け抜ける。袋状の植物から一本、地面に繋がっている茎を切ると、中に閉じ込められていた人間が飛び出てくる。植物に満たされていたねばっこい液体が体に纏わりついていて、大抵は気を失っていた。
大半は無事だったが、中には消化途中の人もいた。程度に差はあるが、体が半壊しているのだ。むごたらしく赤い死体を目にして、俺まで気を失いそうだ。
カリーヤさんたちは一本の大木の下に寝かされていた。全員、無事なようだ。大木には剣が何本か突き去っており、さらに周囲の地面にも剣が取り囲むように突き刺さっていた。おそらくは例の神経とやらを切断したのだろう。どのくらい効果があるのか知らないが、時間稼ぎには十分なようだ。だが、
「数が多い……」
斬っても斬っても植物が立ち塞がる。しかも段々とその数を増しているようだ。既に日は落ち切り、夜の闇も深くなってきている。
人を閉じ込めている袋状の植物は、まだ三十以上あった。
木が俺の周りを囲み、輪を狭めるようにじりじりと近付いてくる。
「絶体絶命か?」
剣を脇に構える。深く息をして、気持ちを落ち着ける。大丈夫、この程度の窮地を切り抜けるくらい誰でもできるさ。
地面を蹴り、正面の木に真っ直ぐ駆ける。蔦や枝が飛び交うが、姿勢を低くして潜り抜ける。正面の木まであと3歩。俺は跳ね上がった。剣を突き立て、木にしがみつく。
突き立てた剣を足場にして一気に頂上まで登り、木を乗り越えた。そうして木の背後に着地し、包囲網を突破したのだが、剣は木に突き刺さったまま。
「さてどうするかね」
補助武器の短剣もあるが、それ一本でどこまでやれるか。そう考えた時、一条の赤光が木に突き刺さった。火矢だった。火矢が突き刺さった木は激しく身をよじらせた。
「モリヒト、手は足りてるか!?」
背後の離れた所から、副隊長の声がした。振り返ると、松明に照らされた防人の集団が火矢をつがえた弓を構えていた。
「放て!」
掛け声とともに矢が一斉に放たれる。木の魔物はもがき苦しんだ。その隙に、剣や槍を携えた防人たちが突撃し、木の魔物に止めをさしていく。
俺が軽く呆然としていると、ブランが駆けよってきた。
「前に森に入った時、ドリアドさんが森で火は危ないって言ってただろ、だから良く効くかなと思って試したんだが、効果は抜群だ!」
「お前……間に合ったのか」
「見ての通りだ。と言っても、部隊を正式に動かしたわけじゃない。副隊長の力で無理やり人を集めて出撃したのを、隊長が上手く誤魔化すって流れだ」
「そうか、よくやってくれた。おかげで命拾いした」
「おうよ、感謝しろよ? 敬えよ? 見張りが気絶していてお前とあの狩人がいなかったときは生きた心地がしなかったぜ?」
「悪かったよ」
俺とブランは魔物に向き直り、剣を構えた。
「さて、あとは片付けるだけだ」




