第十話 「親玉」
ねじくれ曲がった木の枝の先、ドリアドは物憂げに腰掛けていた。視界には袋状の植物が立ち並んでいるが、ドリアドは特にそれを気にしている風ではない。
日は沈み、空は八分が黒い。
ドリアドが木から飛び降りる。枯れ木色のローブがふわりと舞った。
俺は剣を構えた。
「話しを聞いた時、そうじゃないかとは思っていた」
「なにが?」
「あんたが魔物だろうと予想したんだ。すっかり騙されていた」
「そう」
「なんのために自分の一部を退治させたんだ? いや、実際には止めをさせていなかったかもしれないが」
「街に出てみたかったのと、都合の悪い噂を払拭するため……それより」ドリアドはキッとモリヒトの周りを睨みつけた。
「あいつはどこ?」
「あいつ?」
「私がこの森で獲物を見失うなんてありえない。なにをしたの?」
「さあな」
「……もういいわ、あなたは夕御飯にするから」
ドリアドが手を振りかざした。周辺の木が一斉に動き出し、俺を囲む。
「一つ覚えだな」
突き出された枝を剣でいなし、体捌きで避ける。
「もう慣れた」
「そう」
ドリアドは興味なさげに、指揮者の如く手を振った。木だけでなく、地面の草もうねり始め、足に絡んだ。枝が次々に刺突される。前転と同時に足の草を斬り払い避けた。
「目障り」
ドリアドの攻撃はとどまることをしらない。絶え間なく移動して、全ての攻撃を避けきる。
「鬱陶しい」
声音や表情に変化がみられないドリアドだが、どことなく苛立った空気を醸し出していた。
攻撃は次第に速く激しくなる。だが、掠りもしない。
「単調すぎる」
その呟きは、ドリアドの逆鱗に触れた。
「死ね」
ドリアドが手を振り下ろすと、木は枝による攻撃をやめ、突進してきた。八方からの突進を、木々の隙間を縫うようにすり抜ける。木と木が衝突し、折れた枝が散乱する。
「ぐうっ」その時、ドリアドが呻いた。「どうやった」
「侵入して、斬っただけだろう、多分」
「餌如きが!!」
再び木が動き出し、襲いかかる。そこへ、前方から猛烈な速さで人影が近付いてきた。人影は木々の枝を切り落とし、俺の傍らに立った。
「済んだぜ」
カールだった。
「またお前か、忌々しい!」ドリアドが慟哭する。
「よく言われる」
「カリーヤさんたちは?」
「無事だ」
「何処にいる?」
「向こうの方に置いてきた」
「安全なのか」
「こっちよりはな」
作戦は単純だった。モリヒトがドリアドの注意を引く間に、カールがカリーヤさんたちを助ける。問題は、どうすればドリアドに気取られないか。これはカールがあっさりと解決した。
「この森は全体が魔物と言えるが、そうでないとも言える」
「どういう意味だ?」
「あの魔物には神経みたいなのが無数にあって、その神経を通じて植物を操り、植物に触れた物を知覚する。神経の通っていない植物はただの植物だ」
「そういう植物にだけ触れていれば敵はこっちに気付かないのか」
「そうだ、で、俺はその神経がどう張り巡らされているのか分かる」
「本当か?」
「ああ、あいつと一カ月近く戦ってたからな。規則性はなんとなく把握した」
「そんなに戦ってたのか」
「まあな、今回が決戦だ」
俺が剣を構え直し、カールが足に力を溜める。ドリアドとの決着をつけようとしたとき、ドリアドが不敵に笑った。
「待て、いいのか?」
「なにがだ」
「私の保存食はまだまだ残っているぞ?」
ちらりとカールを見ると、感情のこもらない瞳で俺を一瞥した。
「姉ちゃんたち以外は残ってるぞ、必要ねえだろ」
「ふざけるな!!」
そう吐き捨てて、殆ど無意識のうちに駆け出していた。目指すのはドリアドの背後、袋状の植物が立ち並ぶ場所だ。
「あ、おい」
「行かせない!」
振りかざしたドリアドの手が、カールが投擲したナイフに貫かれた。
「お前ェ!」
「やれやれ、俺が悪かったかねえ」
その間に、ドリアドの横を抜け、目的の場所まで一直線に進む。
「食ってやる食ってやる食ってやる……」
ドリアドは植物に閉じ込められている人々を殺そうと手を上げる。だが、またもカールの剣がドリアドを貫いた。
「戦ってる最中に食事できるほど余裕ねえだろ」
「殺ス!」
半ば半狂乱となったドリアドが、カールに飛びかかった。




