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プロローグ 「人喰いの森」
鬱蒼とした森林は満月に照らされてなお、夜の闇に渦巻いていた。
骨と骨を擦り合せたような、不気味な鳴き声が木と木の間を擦り抜ける。
地面に茂る雑草は涼風を受けて規則的に戦ぎ、うたた寝をしているかのように、揺れている。
「ハァッ……ハァッ……」
人間の足音が、森の暗黒を突っ切っていた。
足音の主は息を切らしながら、草に足を絡められながら、木枝を踏み折り、時には石に躓きそうになりながら、懸命に走っていた。
「ここまで来れば……」
木に寄りかかり、足を休めた。
息切れと早鐘を打つ心臓の鼓動以外に聞こえるものはない。
いつの間にか森が深閑としていることに、人間は気付いていない。
「ッ」
寄りかかっていた木が縦に割け、深淵よりも深い、闇が姿を現した。蔓が触手の如く人間に絡みつき、人間を闇へ引きずり込んだ。
割けた木は元通りに闇の口を閉じ、そこにはなんの変哲もない木が森に生えているだけだ。
悲鳴が聞こえた気がするのは、気のせいか。
森は骨と骨を擦り合せたような声で鳴き、夜はまだ深まったばかり。
森はまだ飢えていた――――。




