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他のスパイが自分勝手すぎて逃げ出したい

 休憩を終えた後何度かオーガの群れと戦闘を行いながら予定通り私の元拠点だった小さな石造りの塔へと到着した。


「ここがオーガの発生源か……トナリ殿、内部の様子は分かるか?」


「そうですね、塔の詳しい内部構造は分かりませんが塔内には多数のオーガらしき気配とその中に少数ですがオーガの上位種と思われる気配が複数それにオーガ達とは異なる気配が三つほど確認できます。二つは塔の一番上に残り一つは地下のようですね。連戦で団員の疲労も軽くはないですし内部も全員で攻めるには狭いと思います。ここから少し下がった場所で夜営をして明日に部隊をいくつかに分けて攻め込んだ方がよさそうです」


 探索魔法で内部を探ったが予想通り全ての召喚素材を使用されているとみて間違いない。内部構造も本当は全て理解しているがそれを伝えたところで信じられても信じられなくても私に不利になるから黙っていた方がよさそうだ。

 何より地下にあるオーガとは異なる反応は間違いなく塔を用意したときに作った防衛用の魔法陣と管理用の魔力生産用の生物炉だ。あれが起動しているということは今うかつに近づくとまずい。全滅こそしないが団員の大半は戦闘継続が困難になるだろう。半端に戦力を削って撤退となってはお姫様も騎士団長同様安全地帯に下がって暗殺のチャンスがなくなる。最悪エリスが解毒薬を団長に飲ませて完全復活までありえる。あとはそのまま地力の差で教国の敗北だ。それだけはなんとしても防がないといけない。


 生物炉は一定時間ごとに休眠が必要なためその隙を突けば突破できる。あとは分断した部隊をオーガロードが率いたオーガ部隊で潰せばいい。さすがにお姫様は倒せないだろうがそこは最上階の私の拠点を奪った奴と切り札のキメラに背後の私の援護があればなんとかなるだろう。いや、なんとかするしかない。


「何を言っている!敵の拠点は目の前なのだぞ!それにオーガならいくらいようと私の敵ではない!皆、私に続け!」


「ちょっ待ってください!塔内部は敵の手の内ですよ!罠や追加の兵がいないとも限らないんですよ!」


「罠など切り伏せる!」


 なに考えてるのこのお姫様は!普段はもっと冷静でしょ!なんで今そうなるの……って速い!もう迎撃範囲の目の前じゃない!


「っ!間に合えっ!」


 普通に走ってもお姫様には追いつけない。自分の後ろで風魔法を圧縮、解放して自分をお姫様のもとに吹き飛ばす。そのままお姫様を押し倒して迫ってくる様々な迎撃魔法の攻撃から庇うように覆いかぶさる。

 背中に降り注ぐ多数の魔法で服に備え付けの防御魔法もあっという間に突破されていくつか背中を直撃する。すごく痛いけど気にしている余裕はない。すぐに風魔法で突っ込んだときと同じようにお姫様ごと後方へ吹き飛ばす。なんとか迎撃範囲から脱出することには成功したようだ。


「トナリ!」


「トナリさん!」


 動揺している団員達の中からエリスとアリシアが駆け寄ってくる。エリスよりも先に罠に気づくとか今回はさすがにやりすぎたかもしれないなあ。


「すぐに治療を!」


「いい……く、薬……背にぶっかけてくれれば……それで……」


 さすがに叫ばないようにすると声だしにくいなあ。あとアリシアさん魔力回復薬の方が在庫が少ないんだから節約しなきゃでしょ。


「分かった!おい!誰か薬を!」


「と、トナリ殿……私を……庇って……」


 そんな顔するなら最初から話を聞いてくださいよ本当に。あ、背中に薬かかってる。すっごい沁みる!痛い!

 あ、痛くなくなってきた。よし、これでなんとかなったかな。なんとか立ち上がれそうだ。


「はー、よし!あ、姫様は大丈夫ですか?魔法でけっこう派手に吹き飛ばしちゃいましたけど。一応薬飲んでおいてくださいね」


「わ、私は平気だ……それよりトナリ殿!なぜあんな無茶をした!」


「いやいや無茶は姫様でしょ。いくら姫様でもあの量の魔法はまずいでしょ。私の防御魔法の壁ぶち抜く量ですよ?仮に突破できても無傷ではないでしょうし他の皆さんは無理ですって」


「そ、それは……」


「まあごらんの通りなので今突入するのは無理です。おそらく地下の反応があの罠の動力だと思います。あれだけの魔法を待機状態で維持するのはかなりのコストがいるはずですしその内休眠に入ると思いますのでそれまで下がって待機してましょう」


「わ、わかった……すまなかった」


 お姫様も流石に今回は言う事聞いてくれるみたいね。よかったよかった。


 その後は特に何事もなく夜営の準備が進み団員もそれぞれ休息をとっていた。


「ふいー、一時はどうなることかと思ったけどなんとかなりそうかなー」


 ん?誰か近づいてくると思ったらお姫様じゃないですか。


「トナリ殿……少し、いいだろうか?」


「おー、姫様からお話なんて珍しいですね!もちろんです!どうぞこちらへ!」


 とりあえず魔法で地面を隆起させ椅子の代わりにし、座るよう促す。


「ああ、すまない。感謝する」


「で、どうしました?地下の反応ならまだ健在ですよ」


「いや、その……先ほどは本当に申し訳なかった!言葉だけの謝罪では到底足りないだろうがこの始末は帰ってから必ず!本当に申し訳なかった!」


 うおっ!姫様が私に頭を下げるなんてなあ。さっきの行動が効いてるのかな?


「頭を上げてください。そりゃ気にしてないわけじゃないですけどお互いに無事だったしいいじゃないですか」


「しかし……そうだな、この失態は次の行動で挽回してみせる」


 うんうんこれはお姫様からの評価もよくなってきたしあとは塔の奴がうまく……って!この気配は!なんで!なんで今攻めてくるの!違うでしょ!

 せっかくお姫様を上手く誘導できそうだったのに空気読まずに魔法による奇襲とか教国のスパイの辞書に協力の文字はないんですかね!


「トナリ殿!」


「姫様!」


お姫様も難なく魔法を防ぎ近づいてくる影に対して構えている。

影から現れたのはシルクハットとタキシードに身を包んだいかにもな細身の男だった。いや、もうっちょっと別の服装あったでしょ。そんな目立つ格好とか間抜けすぎるよ。


「おやおや、はずしてしまいましたか……流石騎士団長の後を任せられているだけはありますね」


 ああもう本当に教国は勝つ気がないんじゃないでしょうか……

 もう目の前の奴を倒して逃げ出したいなあ……

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