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僧侶のエルフが優しすぎて逃げ出したい

 これ以上エリスと会話を続けて薬について聞かれると面倒だ。話題を変えるかこの場から離れないと。


「ところでエリスさんこんな結婚だの何だの聞くために来たんですか?しっかり休息をとらないと姫様にお説教されちゃいますよ」


「ん?ああ、そうだそうだなんでもアリシアがトナリに用があるんだってさ。あっちでみんなの治療しながら待ってるから行ってあげてくれない?」


 エリスの指をさした先には先ほどのオーガとの戦闘で負傷した団員の治療を行っているアリシアの姿があった。


「まったく結界の展開だけでも相当な消耗があるだろうに治療までするとか相変わらずお人好しというかあの自己犠牲の精神はある意味さすがね。いくらエルフで魔力があたし達より多いとは言ってもね……肝心なときに倒れなきゃいいけど。トナリ、あなたの魔力回復薬まだ余裕ある?できれば話す前に渡してあげてくれないかしら」


「そうですね。私のほうからも無理はしないように言っておきます」


 私がアリシアに近づくと丁度団員の治療も終わったのか私に気づくと近づいてきた。


「トナリさん!丁度よかったですーあのですねー……あれーなんでしたっけ?」


「いや私に言われても……それよりアリシアさん、ただでさえ結界の展開と維持に魔力を使ってるんですからあまり無理はしないでください。団員の皆さんには治療薬を配布済みなんですから。はい、魔力の回復を助ける薬です。飲んでください」


「えーこれ苦いじゃないですかー嫌だなーなんて」


「だったら無理はしないでください。笑って誤魔化そうとしても私には分かりますよ」


 青い液体の満たされたビンを出して半ば無理やりアリシアに受け取らせる。

 実際アリシアは笑みを浮かべているが疲労の色を隠しきれていない。こんな性格でよく今まで戦場を切り抜けられたと思う。これもエルフゆえの魔力の高さなのかそれとも案外根性があるのかもしれない。


「うーん、トナリさんには敵いませんね。ありがとうございます」


 アリシアは受け取ったビンの蓋を開けてそのまま一気に飲み干した。苦い顔をしているが疲労の色は先ほどよりはマシになった気がする。


「うー……やっぱりすごく苦いですー。もうちょっとなんとかならないんですか?」


「あとで味をつけることもできなくはないですが量を作るとなると難しいんですよコストや手間がすごくかかりますからね。それより私に話とは?」


「その……ですね、ヴァネッサ様のことを嫌いにならないであげて欲しいんです!今は騎士団長様があんなことになって周囲を気にする余裕があんまりないんだと思うんです!きっとヴァネッサ様もトナリさんと仲良くしたいと思ってます!だからですね!その……」


「ああ、なるほど」


 要するにアリシアはさっきの私とお姫様のやり取りを聞いて私がお姫様に対してよくない感情を姫様を嫌いになってないか心配だったわけだ。で、お姫様のフォローをしようとしてると。

 まあアリシアは単に私と姫様に仲良くしてほしいだけなんだろうけど。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよアリシアさん。私は姫様のことを嫌ってなどいませんので」


「そ、そうなんですか?本当に?」


「ええ、今は戦争中ですから姫様も気が抜けないのでしょう。そのことは私も充分理解しておりますのでアリシアさんの心配するようなことは何もございませんよ」


「やっぱりトナリさんはすごいです!私の心配してることも全部お見通しなんですね!」


「何でもというわけではありませんけどね」


単にアリシアが分かりやすいだけなんだけどわざわざそれを口にする必要もないだろう。


「あ、それともう一ついいでしょうか?トナリさんは戦争が終わったらどうするおつもりなんですか?多くの国々を支配している教国ですが帝国が勝利して国が解放されたら故郷に戻るんですか?」


あーそういえば帝国が勝ったら教国を解体してもとの小国の復活を支援するとか言ってたな。


「普通の国ならそうしてたんでしょうが私の出身国は国土ごと沈められてしまいましたから。アトラっていう島国だったんですが」


これは本当だ。私の故郷は教国が侵略を始めた当初に抵抗する小国群への見せしめとして教国の大規模な魔法攻撃によって島ごと全て沈められたため生まれた土地はもう地図から消滅している。

まあ、出身というだけで暮らしていたころの記憶も幼かったためにほとんど覚えていないのだから怒りや悲しみといった感情もないんだけど。

なんせお姫様が産まれる以前の話である。覚えていろというのが無理な話だ。


「っ!そうでしたか……申し訳ありません」


「いやいや、私自身記憶のないころのお話ですので。そうですね、戦争が終わって無事だったならどこか静かな土地で薬師でもしながらゆっくり暮らしたいですね」


まあ私にとって無事に終わっても次に侵攻する国へ仕事に行かなきゃだろうし帝国が勝ったら私は死んでるか捕まってるかだろうからそんなことはありえないんだけどね。


「そうですか!じゃあそのときにはもう少し飲みやすいお薬をおねがいしますね!」


「ははっ……努力しましょう」


うーん、このお人好しのエルフに言ったとおりになれたら楽なんだけどなあ……

もう何もかも投げ出して逃げ出したいなあ……



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