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斥候のお姉さんが鋭くて逃げ出したい

 なんとかお姫様のお説教から抜け出して休憩してる団員達から少し離れた場所に腰を下ろす。


「どうにかしないとなあ……」


 このままでは暗殺が不可能どころか少しでも隙を見せれば他の潜入している教国の人間に粛清されてしまいそうだ。同じ教国のスパイといっても協力関係とかは一切ないむしろ自身の成果のために他者を踏み台にしようと狙い合う関係だ。

 騎士団長に毒を盛ったときも別のスパイがその場で私ごと始末しようと襲ってきたし先ほどのオーガの群れも私がこの先に用意している魔術研究の拠点の装置を誰かが勝手に使用して召喚したものだ。魔物を召喚するための魔法陣や召喚の素材も諜報活動と部隊の仕事の合間に寝る間も惜しんで必死に用意して最終決戦になったときにまとめて召喚しようとずっと溜め込んでいたのに別の誰かに横取りされてしまったなんて本当に笑えない。

 今回の遠征の理由を聞いたときは本当に頭を抱えたくなった。自分が準備を進めていた場所で心当たりのある魔物の大量発生が確認されて発生源もおおよそ特定済み。確認された魔物の量だけでも召喚に必要な素材は私が今まで数年かけて溜め込んだ実に八割が必要だ。どうせ残りも拠点防衛のために全部使用済みだろう。拠点の場所も発見済みじゃ運よく素材が残っていても再利用は不可能だろう。


「はぁ……困ったなあ」


「そんなため息ばっかりだと幸せが逃げちゃうんじゃない?」


 私が今後を考えて落ち込んでいるとエリスが快活な調子で笑いかけながら話しかけてきた。


「エリスさん、ため息をついたら幸せが逃げるんじゃなくて幸せが逃げてるからため息が出るんですよ」


「まあ、そうかもな愛しの団長さんが倒れてちゃあため息も出るわな。ヴァネッサ様はいい顔しないかもだけどトナリお得意の魔法でなんとかならないの?」


「団長は関係ありませんよ。それにできるなら多少無理してでもやってますよ」


 まあ実際は毒を作った時点で解毒薬も同時に作っているから治すのも簡単だがエリスの言うとおり姫様が使用を許さないだろうし団長が復帰してしまったら教国の敗北へ一直線だ。


「またまたー隠したってトナリが団長のいい人だってことはみんな知ってるよー。この戦争が終わったら結婚するんでしょ?」


 またその話題か。確かに団員内でそんな噂があるのは知っているがどうしてそうなるんだか。第一私が騎士団長と直接会ったのはこの騎士団に配属されたときと毒を盛ったときだけだぞ。それしか接点のない奴がどうやって王族と結婚なんて話になるんだよ。


「なんですかそれは……帝国出身じゃない私が王族の方と結婚なんてできるわけないじゃないですか。私なんかよりエリスさんこそ司祭様を待たせすぎですよ」


「うぇっ!?マ、マルクと私はそんなんじゃないって!」


「私は司祭様とは言いましたがマルク司祭とは言ってませんよ」


 同じような話題ならこのエリスにだってある。なんでも若手ながらすばらしい才能と技量を持つエリート神官様と恋仲らしい。同じ教会出身のアリシアが教えてくれるから信憑性は高い。現にエリスは顔を真っ赤にして照れている。


「うー、なんで知ってるのよ。アリシアくらいしか気づいてなかったのに……」


「そのアリシアから教えてもらいましたからね」


「もー!誰にも言わないでって言ったのに!……ところでさ、本当に団長の病気なんとかならない?休日にも色々集めたり調べたりしてるみたいじゃない?」


「っ!よく、気づきましたね」


 素材集めに気づいてたのか……相変わらず勘が鋭いな。まあうまい具合に誤解してくれてるみたいだし下世話な噂には感謝だな。


「随分慎重に行動してたみたいだけどこのエリスさんの目は誤魔化せないわよ。まあ、普通の人ならまず気づかないだろうしトナリは斥候の仕事も向いてるのかもね!なんなら私がコーチしてあげるわよ?」


 むしろそういう仕事が本職なんだがなあ……やはりエリスの方が技量は上なんだろう。時間をかけたりボロを出したらすぐに私の正体に気づきそうだ。ここは情報を小出ししてより信頼を得た方がいいな。


「一応ですが症状を参考にして作った試作の薬は完成しています。しかし毒のサンプルがないために効くか分かりませんし悪化する恐れもありますから渡すわけにはいきません。何より毒が原因かすら確定していませんので」


 そう言いながら私は解毒薬の入った小瓶をエリスに見せる。


「なんだ、やっぱりできてるんじゃないか。確かに多少の危険はあるだろうけど本当に必要なときに間に合わなかったらまずいだろ?私からそういう場合に団長に渡せるようにしておきたいんだけど」


「分かりました。しかし本当に最終手段ですからね?私もできる限り完成を急ぎますのでくれぐれも安直に使用しないでくださいね?絶対ですよ!」


「わかったわかった。まったく普段冷静なトナリも団長のことになると必死だな」


「団長の生死には騎士団全体の士気にいえ、帝国の未来がかかっているんですから当然です!」


 これだけ言っておけばそうそう薬が使われることもないだろう。それにしても信頼されていなかったらとっくにエリスに正体を見破られているだろうな。これからも気をつけないと。

 これから向かう拠点には痕跡は残していないつもりだけど万が一気がつかれるようなことがあったらまずいよなあ……

 正体知られる前に逃げ出したいなあ……

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