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暗殺対象のお姫様に嫌われていて逃げ出したい

 スパイとは間諜、工作員とも呼ばれ政治・経済・軍事・技術などの情報をいち早く入手して味方に知らせつつ、敵の活動を阻害することが主な任務とされる。阻害の方法は数多くあるが私の任務はとある要人の暗殺だ。

 暗殺対象は帝国の姫君でありながら騎士団に所属している変わり者でなんでも国民からの人気が高く、象徴的な存在であるため始末すれば士気を削ぐのに最適であるらしい。可能であれば彼女の兄である騎士団長も排除することが好ましいとのこと。

 現在、私の所属国である教国は帝国と戦争の真っ最中。私は教国のスパイとして帝国の騎士団に戦争の始まる数年前から潜入し、周囲の信用を獲得しながら暗殺の準備を整え、ついにい暗殺対象の所属する小隊に所属した。以前から好印象を与え、私を目的の部署に推薦してくれた騎士団長はすでに私特性の毒薬で死にこそしないものの騎士団の指揮もままならないところまで弱らせたのだが……


「どうしてこうなった……」


 私はそう呟かずにはいられなかった。騎士団に所属しているとはいえ私より五つも若い小娘が騎士……それも剣士としてまともに戦えるわけが無い。所詮国民の心象をよくするためのお飾りと思っていた。

 しかし目の前のお姫様は鉄より硬く、しなやかな皮膚を持つオーガをまるでそこには何もないかのように剣を振りぬき、容易く切り刻んでいた。

 いくら聖水で清められて切れ味が上がっていたとしても普通の人間なら刃をめり込ませるだけで精一杯だし熟練した剣士でもオーガ一匹に対して複数人で戦ってなんとか互角騎士団長でも団員の援護無しでは苦戦していたというのにだ。


「どうして騎士団長より強いんだよ……」


 実はお姫様は人間の皮を被った別の何かなんじゃないか?

 こんな化け物どうやって殺せっていうんだよ。騎士団長に使った毒薬は一緒に私が飲んでも死なないように男にしか効かないようになってるし何よりあれは殺すための毒じゃない。

 新しい毒なんてそうそう作れるものじゃないし作れたとしても真っ先に疑われるのは魔術師である私だろう。騎士団長の時は私も一緒に毒入りの紅茶を飲んだし他に怪しまれる奴がいたから私に疑いがかかることはなかったがそいつはもう捕まって今は地下牢で尋問という名の拷問中だろう。


「トナリ殿、目に見える敵は一掃しました。この辺りにまだ敵がいないか魔術による探索をお願いします」


 いつの間にかオーガをすべて倒していた姫様は私のすぐそばまで来ていた。考え事をしていて気づくのに遅れたのがいけなかったのか姫様は鋭い目つきで私を睨んでいた。


「は、はいっ!申し訳ありません姫様!」


 どうもこのお姫様は未だに私のことを信頼してないみたいだ。戦闘中はともかくそうでない時は常に警戒の視線を感じる。ただでさえ想定外の強さなのにこんな調子では暗殺とか絶対無理だよなあ……


「敵が弱いとはいえどもここは戦場です。そんな調子で味方を危険に晒すことになっては困ります」


「まあまあヴァネッサ様、私も周囲を探ってますしトナリは魔法による索敵以外にも戦闘時の援護、武器の強化に修理とよくやってくれてるじゃないですか。いくら愛しの団長をとられそうだからってそう邪険にしなくてもいいんじゃないでしょうか」


 私が姫様に睨まれていると軽装の女性が笑いながらフォローをいれてくれた。

 彼女の名前はエリス。騎士団の中でも随一の腕をもつ斥候で彼女の調査、探索は精密で姫様の信頼も厚い。かつては騎士団と敵対関係にあったらしいが、今ではその働きでお姫様の右腕として部隊になくてはならない存在だ。どうやって姫様の信頼を得たのかご教授願いたいもんだ。


「エリスっ!今お兄様は関係ないだろう!」


「そーやってムキになるところがかわいいですねートナリにもそのくらい素直に接してあげてもバチはあたりませんよ」


「だから違うと言っているだろうが!」


 若干顔を赤くしながら姫様は声をあげるがその瞳には先ほど私に向けた冷たさはなくむしろ仲のいい姉妹がじゃれあっているようにさえ見える。

 ああ、ヴァネッサというのはこのお姫様の名前だ。部隊に所属する者も最初は姫様と呼んでいるものが多かったが親しみやすい態度と彼女自身が望んでいるということで今ではほとんどの団員が彼女を名前で呼んでいる。私が名前を呼ぶと馴れ馴れしいとか言って怒鳴られるんですけどね。


「ふふっ……そうですよヴァネッサ様。トナリさんばかりいじめてはかわいそうですよ?」


 エリスと姫様がじゃれついていると別の女性も私をフォローしてくれた。修道服に身を包み柔らかな笑みを浮かべる彼女の名前はアリシア。慈愛に満ちた健気で優しい性格の持ち主で困っている人を放っておけず、私を含めどんな人にでも救いの手を差し伸べることのできる人格者で癒しの魔法を使い騎士団を支える役目を担っている。彼女もエリス同様に姫様を含めた団員からの信頼は厚い。


「アリシアまで……」


 姫様は二人から私を庇われてバツの悪そうな顔をしている。このまま見ているのもいいがそうなるとお姫様の私に対するヘイトが高まってしまう。さっさと話題をそらした方がいいな。


「ああ、アリシアさんちょうどいいところに。周囲に敵はいないので今の内に休憩を取るために魔物除けの結界の展開をお願いしたいのですが……」


「相変わらずトナリさんは魔法の展開速度が速いんですね。ええ、もちろんです。すぐに取り掛かりますね」


「おい!勝手にそんな指示を……」


「まあまあ連戦続きじゃヴァネッサ様はともかく他の団員はもちませんってトナリの言う通り休憩にしましょうよ」


「クッ……仕方ない、ここで一時休憩を取る!各自しっかり身体を休めるように!」


 案の定姫様は噛み付いてきたがすかさずエリスがなだめてくれた。

 こんなに疑われてたんじゃ暗殺なんて無理だよなあ……戦争もこのままじゃ兵の質も量も劣る教国の負けが濃厚だしこの仕事やめて逃げ出したいなあ……


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