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奴隷商会ルガール

 俺とミリアは走るアイリスを追いかけていた。


「アイリス。君のお母さんを狙っているのは何者なんだ?」

「ルゴール商会のっ! 人達っ!」


 苦しそうに息を吐きながら、アイリスは敵の名前を口にする。


「ミリアは知ってる?」

「知らない」

「……そか」


 何でミリアはまだ不機嫌なんだろう。

 もともと愛想が悪い子ではあるのだが、やけに素っ気ない。


「っ! ルゴール商会の人達っ!」


 アイリスが叫ぶ先に黒いローブに身を隠し、剣を携えた四人組がいる。先頭の背の高い男が、薬屋の看板を掲げた店の扉を蹴っている。

 閉まっている店に無理矢理踏み込もうとしているようだ。

 商人の挨拶にしては度が過ぎている。異世界でもさすがに非常識だろう。


「ん? さっきの無し。あの黒服と紋章どっかで見たことあるかも」

「ミリアも見たことあるのか?」

「んー……ダンジョンで何度か襲われた気がする。ま、いいや。気付かれる前に、奇襲を仕掛ける」


 ミリアはそう言うと腰の剣に手をかけた。


「止めろおおおおお!」


 アイリスの叫びが街中に轟いた。

 アイリスの声で男達はこちらに気付くと、顔を見合わせ瞬時に剣を引き抜いた。


「お、お前らなんか怖くないぞ!」


 アイリスの声も剣を持つ手も震えている。


「お父さんの店もお母さんも僕が守ってみせる!」

「アイリス待て!」


 俺が止めるのも聞かず、アイリスは単身で四人組に向けて走り出した。

 アイリスは弱い上に、魔法を使える武器を持っていない。正真正銘ただの鉄の剣だ。

 それに対して敵の剣は炎を帯びていて、魔法による遠距離攻撃も出来そうだ。


「あのバカ。ロキ。やるよ」

「分かってる」


 ミリアが一瞬で俺の横を通り過ぎ、言葉を残していく。


「ふん。死に損ないがわめいておるわ」


 先頭の男がつまらなそうに呟き剣を振るうと、翼を広げた鳥の形をした炎が放たれた。


「うわあああ!?」


 巨大な火の鳥がアイリスを飲み込もうとする。

 その直前、黒い風が吹いた。


「さっきから五月蠅い。そのせいで奇襲もできない」

「ミ……ミリアさんっ!?」


 アイリスを肩で担いだミリアの周りには、黒い霧が出ている。


「すぐ片付けるから。大人しく隠れて」


 ミリアは素っ気なく告げると、アイリスを後ろ側へ放り投げた。

 不機嫌なのは違いないが、依頼通りアイリスを守ろうとはしているらしい。


「その黒い霧……間違い無い。A級探検者、霧刃ムジンのミリアだな?」

「だったら何?」

「そなたの首には三百万ガルドの賞金がかけられている」


 男はそう言うと、手で合図を出して、男達全員の剣を後ろに向けさせた。


「この場でその首。我らが貰い受ける!」


 そして、決闘を告げる怒号とともに切っ先が爆発し、四人の男がもの凄い勢いでミリアに同時に飛びかかった。

 魔法による超加速。

 さすがのミリアも反応が遅れたようだ。逃げる気配が無い。

 助けなきゃ! そう思って前に飛び出した時、俺はミリアを見て寒気を覚えた。


「おもしろいね」


 ミリアの声で幻聴が聞こえたと錯覚するほどの表情と行動だった。

 ミリアはわずかに頬を吊り上げて、自分から男達に向かって飛び込んだのだ。

 差し違えてでも二人は殺す。そんな捨て身の攻撃だ。


「くそっ! 間に合わせる!」


 四人の男の刃とミリアの刃が交差する瞬間、俺も腕を前に突きだした。


「晶槍、螺旋龍尾!」


 俺の叫びに応えて、ミリアの周りに四本の二股の螺旋槍が現れる。

 現れた槍は男達の剣を受け止め、ミリアの刃を遮った。


「なっ!?」

「ロキ! なにするの!?」


 突然現れた槍に驚いた男達が飛び退き、ミリアも不満そうに俺の隣へと退いた。


「ミリア無茶し過ぎだ。らしくないぞ」

「そんなことない。今のだって、私が勝ってた」

「怪我してたかもしれない。いつものミリアなら、こんな戦い方はしないはずだ。頭を冷やせ。俺がやるから。俺はミリアの剣なんだろ? だったら、信じて任せろよ」

「むー……今日のロキは意地悪。私が主人なのに」


 俺は睨み付けてくるミリアの頭を撫でてなでめると、ミリアは頬を膨らませながらそっぽを向いた。

 顔が真っ赤になっている辺り、かなり怒っているなぁ。後でルカさんにクッキーでも貰ってご機嫌を取らないと。


「霧刃は常に一人と聞いていたのだがな。仲間が出来たという情報、真であったか。そして、武器を自在に具現化、消去する様。まるで奇術師だな」

「褒められても武器くらいしか出せないぞ?」

「ふむ。面白い。どれだけ褒めれば、そなたの武器の在庫は尽きるのかな?」

「そう簡単に秘密を教えると思うか?」

「なるほど。ならば過剰在庫を抱いたまま、人生に終わりを告げると良い」


 どこか時代劇めいた喋り方をする相手だと思っていると、いつの間にか俺は四方を囲まれていた。


「皆の者、かかれ!」


 敵の合図で一斉に俺に向けて刃が振り下ろされる。


「現れろ。炎帝の剣」


 その刃を見つめて、俺は剣の名前を呟いた。

 すると、俺の周りに四本の剣が出現し、敵の剣を同時に防いだ。


「なっ!? これは我らの剣!? 馬鹿な。こやつ一人で同じ幻獣武器を四本も!?」

「だから言っただろ。褒めても武器しか出ないって。出ろ螺旋龍尾」


 もう一度槍を作り出した俺は、槍の柄を持って思いっきり円を描くように振り回した。

 回転する槍が男達の脇腹を捉え、四人まとめてなぎ払う。


「ぐおっ!?」


 道路に重なるように倒れる男達が咳き込み、苦悶の声をあげる。

 その男達の前に立った俺は槍の穂先を、男の頭に突きつけた。


「まだやるというのなら構わないけど?」

「くっ……降参だ。何でも言うことを聞くから、命だけは……」


 ここまで脅せば大丈夫だろう。大した事情で動いている訳では無さそうだし。

 後は何故アイリスの家が襲われていたのか、アイリスがルゴール商会に使われていたのか分かれば、衛兵に突き出せば良いだろう。


「いやー。やるやる。綺麗にやるもんだ。これは驚きだよ。下僕のお手伝いに入るのがもったいないと思ったぐらいだ」


 ふと背後から拍手の音と一緒に、浮かれた声音の声が聞こえた。


「若様っ!?」

「若様?」


 若様と呼ばれた男は黒いコートに身を包み、金の杖をついて歩く男性だった。

 歳は三十ぐらいだろうか?

 病的に白い肌とやせこけた頬、切りそろえられた髭に、黄金で出来たモノクルをかけている。口元は笑っているものの、瞳は狂気を孕んでいるかのように鋭かった。

 痩せた狼のようにも見えるその男は俺とミリアの前に立つと、深々と一礼をしてきた。


「僕はテュール=ルガール。ごめんねぇ。僕の下僕達が君達に迷惑をかけて」

「下僕? こいつらのことか?」

「そうそう。今君の足下で可愛らしく命乞いをしているクズどもさ」


 テュールは言い放つ言葉は、目を閉じてニッコリと笑う彼の表情にとても合っていない物だった。


「せーっかく僕が玩具を貸してあげたのに、仕事の一つも出来やしない。役立たずのクズだからさ。許してやってはくれないかな?」

「襲ってきたのはそっちだぜ。そんな調子の良いことを――」

「調子が良いのは君だよ。君はうちの商品を盗んだんだ。それも首輪タグまで壊したとあったら、買い取りどころか、君の命で賠償を求めたい所だよ」


 俺の反論に、テュールは顔をぐっと近づけて、その鋭い目を見開いてきた。

接近に全く気がつかなかった。気付いたら目の前にいたとしか言えない。

 言葉尻はドスの効いた声で、今刺されなかったのが不思議なぐらいの威圧感も感じる。

 テュール=ルガールは今倒れている男達より遙かに強い。

 そんな男が一筋縄に交渉するとは思えない。


「フフフ。それをそこのクズどもの命と交換で良いと言っているんだ。悪い商売じゃないはずさ」

「断ると言ったら?」

「この辺一帯が消し炭になっても良いと言うのなら、止めはしないよ? むしろ僕は君とそして、愛しのミリア君と殺し合えるのなら、大歓迎だよ」


 テュールが目線だけをミリアに向けて、少しうわずった声を発している。

 さすがのミリアもこの強烈な殺気に当てられたのか、すぐさま剣を構えていた。

 尋常ならざる殺気が、本気であることを語っている。

 俺達は街の人を人質に取られたようなものだった。


「分かった。交渉成立だ」

「君は物わかりが良いね。大好きだよ」


 俺が槍を納めて男達から離れると、テュールは満足そうに笑って答えてきた。


「では。またいつかダンジョン内で会えることを祈っているよ。ダンジョンなら思う存分殺し合いが出来るからね」


 爽やかな別れの挨拶のつもりなのだろうが、肌を刺すような殺気は消えていない。

 ミリアが剣を納めたのはテュールの姿が完全に見えなくなってからだった。


「……酷いのに目をつけられたなミリア」

「テュール=ルーガル……。あの魔力は尋常じゃない。ダンジョン最奥の魔神クラスだった」

「今日のドラゴン以上ってこと? 俺が言うのも変だけど、完全に人間止めてる領域じゃないかそれ?」

「……うん。私でも真正面からじゃ勝てない。ロキなら勝てると思うけど、あいつの言った通り街が消えるかも」


 ミリアの拳が震えている。ダンジョンでずっと生きてきたミリアだからこそ、力の差を肌で感じたのだろう。

 それにしても、ミリアも怯えることもあるのか。


「良く耐えたな」


 労いの意味も込めて頭を撫でると、ミリアはふんと小さく鼻を鳴らし、そっぽを向いた。


「ん。アイリスみたいに私はバカじゃ無い」

「誰がバカだ! 人を道具みたいにぶん投げて!」


 ミリアの言葉に、アイリスが怒鳴りながら駆け寄ってくる。


「ん? 戦いにはお荷物だったから、荷物らしく投げた」

「道具以下の扱いだったの!?」

「うん。でも安心して。テュールみたいにクズだとは思って無い」


 何故か分からないが、ミリアはアイリスに対して厳しかった。


「ミリア。それ全然フォローになってない。ってか、アイリス。お母さんは良いのか?」

「あっ。そうだ。こんなことしてる場合じゃなかった。お母さん大丈夫!?」


 アイリスは大慌てで鍵を取り出すと、扉を開いて建物の中へと飛び込んだ。

 続いて俺も建物の中に入ると、隣にミリアがいないことに気がついた。


「ミリアどうした?」

「ん……何でも無い」


 何故か入り口で立ち止まっていたミリアに声をかけると、ミリアは小さく首を振って家の中に入った。

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