表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

不機嫌なミリア

 何処の誰かが不意を狙って攻撃をしかけてきた。

 この広間には俺とミリア以外のパーティはいないし、魔物もいない。狙いはどう考えても俺達だ。


「守れ。ペール!」


 ミリアを抱きかかえるようにかばい、剣の名前を叫んだ。

 背中越しに何かが弾かれる音がして、振り向くと矢が宙を舞っていた。

 狙撃された? 狙いは晶龍のアイテムか、それともミリアの装備か?

 ミリアの安全を確保した俺は、連続で飛んでくる弓矢を弾き飛ばしながら敵の位置を探った。


「そこか。いけっメール!」


 そして、矢が飛んでくる方に向かって魔剣メールを飛ばす。

 これで逃げてくれると良いと思っていたが、剣を持った人影がこちらへ突っ込んで来た。


「うわあああああ!」


 泣き叫びながら突撃してきたのは、一人の少年だった。

 鎧はつけていない。よれよれになったシャツの上に、当て布だらけのコートを羽織っている。

 両手で握っている剣も、ただの鉄製の剣で魔法の力は感じられない。


「冒険者狙いの盗賊にしては貧弱。でも、容赦しない。ペールもメールもロキも渡さない」


 ミリアが双剣を抜いて、今にも飛びかかろうとしていた。

 無表情ながらも、目には確かに殺気を帯びている。

 このまま行かせたら、本当に殺しかねない。


「ミリア。ここは俺に任せてくれ。俺はお前の剣なんだろ?」

「ん。分かった。そう言うならロキに任せる」

「ありがと。行くぞ。ペール・メール」


 ミリアを止めた俺は両手を広げ、二刀の魔剣を自分の周りに配置し、戦闘態勢に入った。


「うわああああ!」


 少年は目を瞑りながら叫び、真っ直ぐ俺に向かって走ってきている。

 剣筋はすぐに読めた。これなら下手に傷つけることもない。

 意識を少年の剣の根元に集中させ、切り払うイメージを具現化させる。


「そこだ!」

「ひぃっ!?」


 少年の剣はあっさりと宙を舞い、少年は衝撃で地面に転がった。


「やっぱ、まだ子供だな。ミリアと同い年くらいじゃないか? 何でこんな所に」

「最強の剣のロキ相手とはいえ、この盗賊弱すぎ。切られてないのに気絶してる」


 少年は完全にのびていた。

 このまま放置すれば、魔物のエサになって人生を終えるだろう。


「放っておく訳にはいかないよなぁ……」

「放っておけばいい。今まで沢山の人が襲ってきた。何度も返り討ちにしてるのに全然減らない」

「……ごめん。ミリア。やっぱり連れて帰るよ。で、犯罪者だったら衛兵に突き出せば良いんだからさ」

「なんで?」


 ミリアが不満そうに俺を睨み付けながら、理由を尋ねてくる。

 俺よりも小さな子を殺すのは気が引けるし、放って魔物のエサになられても夢見が悪くなると思ったんだ。

 それに、ミリアが何故襲われたのかを知りたいと思ったんだ。

 沢山の人が襲ってきたというのなら、何か理由があるはずだ。

 もしかしたら、そこに彼女が最強の剣を求める理由があるのかも知れない。


「これからミリアを守るためには、どんな相手が来るのか知りたいしさ」

「むぅ。それなら……良い。お願いを聞いてあげるのも主人の役割……」


 俺が適当に思いついた嘘を口にすると、ミリアは少し不満そうに頷いた。

 渋々ながら剣を納めるミリアは、冷たい目で少年を見下ろしている。

 帰る方法を探すためなんて言ったら、絶対聞き入れてくれなかっただろうなと思う反応だ。


「それにミリアと同じ歳ぐらいの子みたいなのに、ダンジョンの奥まで来ているんだ。助けたら何か手伝ってくれるかもよ?」

「そんな人はいらない。私にはペールとメールがいるし、ロキもいるから十分。素材集めたら帰る」


 ミリアはつまらなそうに言うと、俺に背を向けたまま晶龍の素材を集め続けた。



 宿屋に戻ると、開口一番ルカが毒舌を吐いてきた。


「ロキ君。ルカ姉様といえども人は買い取れないよ? こんな年端もいかない女の子を奴隷として売り払おうなんて、何て非道な人なのかしら」


 ルカはわざとらしく全身を震わせて、少年を抱える俺に人差し指を向けてきた。


「何勘違いしてるんですか……」

「あれ? 反応が薄いなぁ。ちょっとは焦ってくれると思ったんだけど」

「ルカさんならそう言うと思っただけです」

「ちぇっ、つまんないなぁー。んじゃ、とりあえず事情を聞こうか。ミリっちは不機嫌そうだし。ロキ君説明してね」


 ルカに言われてミリアの方に目を向けると、目が合った瞬間そっぽを向かれてしまった。

 襲ってきた相手だから、警戒するのも無理はないか。

 もし、また襲いかかってくるようなら、もう一度すぐに気絶させよう。


「あの、ミリア――」

「ふん。ロキがやったんだから、ロキが説明して」


 万が一襲ってきても俺が止める。と言おうとしたが、ミリアに声をかぶされた。

 困ったご主人様だよ。


「ねー、ロキ君まだー?」


 ルカも急かしてくるし、ミリアとは後でちゃんと話をしよう。


「えっと、実はこの子にダンジョンで襲われて」


 椅子を並べて作った簡易ベッドに少年を乗せて、俺は事情を説明し始めた。

 晶龍を倒したら弓矢を放たれたこと、その後に剣を持って襲いかかってきたこと。

 ルカはふむふむ。と頷きながら聞いている。


「ねぇ、ロキ君。この子は剣しか持ってなかったの?」

「えぇ。それも別に魔法がかけられている訳でも無さそうでしたし。これです」


 俺が抜き身の刃を机に置くと、ルカは眼鏡をかけて視線を滑らせた。


「ふーん。確かに特に魔力を込めた形跡が無いわね。不思議ね」

「えぇ、なんでこんな剣だけで俺達を襲おうとしたのか」

「不思議なのはそこじゃないわ。矢を放ったんでしょ? なら、弓と矢筒はどうしたのよ? 剣の魔法で魔力の矢を放つなら分かるけど、この子を鑑定しても、矢を使った形跡が一切見当たらないのよねー」

「ん? だったらあの矢は一体……この子の仲間なら、助けに入ってもおかしくないのに、誰も来なかった」

「なら、この子に直接聞くしか無い訳ね。疲れるけど仕方無いかなー」


 ルカは眼鏡を外すと、腕を前に伸ばして左右に身体を捻り始めた。

 さすがのルカの眼鏡も全てを見通せる訳ではないようで、何か魔法を使う準備をしているらしい。かなりの気合いを入れているように見える。

 癒やしの魔法でも使うのだろうか? どんなアイテムを媒介に発動するのか? 初めてみる魔法に俺は期待が高まっていた。


「よしっ、起きろっ!」


 ルカの元気の良い声とともに、彼女の手が綺麗な弧を描いた。

 乾いた音が部屋中に鳴り響き、俺は思わず自分の頬を両手で押さえてしまった。

 思いっきりビンタをしやがった。

 さすがのミリアも驚いたようで、目を大きく見開いて固まっている。


「いったあああああ!?」


 少年が悲鳴をあげながら飛び起きる。

 ルカは間髪入れずに少年の頭を右手で掴むと、笑顔で詰め寄った。


「さて、これで二人を襲った分はチャラ。話を聞かせて貰うわね。アイリスちゃん?」

「ひっ!?」


 声にならない声を出して驚くアイリスは、助けを求めて視線を俺に向けてきたが、自分が襲った相手だと気付いたのか、もう一度小さな悲鳴をあげた。


「あ、あなたは……」

「余所見しちゃダメよアイリスちゃん。いくら優しいルカ姉様でも、私の質問に正直に答えないと、ひんむいて恥ずかしい思いをさせるかもしれないわ。お返事は?」

「はい……」

「聞こえないわね? もっとハッキリとした声で答えなさい」

「はっ、はいっ!」


 ルカの甘い口調と緩んだ笑顔に反して、彼女の目は鋭かった。

 殺気と言えば良いのだろうか。雰囲気だけで背中に寒気が走った。


「あなたが矢を放ったの?」

「は、はい……」

「あなたがミリアとロキを殺そうとした理由は?」

「……金になる物を持った有名人だと聞いたからです。それと晶龍の素材や武具は高く売れるので奪おうとしました」

「誰に聞いたのかしら?」

「……風の噂です。どこかの冒険者ギルドだったと思います」


 アイリスは所々詰まりながらも、ルカの質問に答えていた。

 ルカはアイリスの答えにため息をつくと、手を頭から離して椅子に勢いよく腰を落とした。


「ぷっ、あははは!」


 そして、突然笑い出したルカに、俺とミリアそして囚われの身のアイリスが顔を見合わせる。

 誰一人ルカの真意を理解出来た者はおらず、俺は首を横に振り、ミリアは首を傾け、アイリスは俺とミリアをキョロキョロ見回すだけだった。


「いやー、良い怯えた顔だった。ルカ姉様の嗜虐心をくすぐる顔だったわ」

「ルカさん……あんたって人は……」

「あはは。ロキ君、そんなガッカリしないでよ。必要なことだったの。アイリス、あんたにかかった呪いは解除したし、外で聞き耳立てている奴の気配もない。自由に喋って良いよ」

「え? どういうこと?」


 ルカは相変わらずケタケタと笑っている。その意味が分からなくて俺はアイリスに顔を向けて何が起きたのかを尋ねた。


「そんな。だって僕には――」

「あんな魔法の呪いなんて、このルカ姉様がさっきぶん殴って砕いてやったの。あんたの居場所や声を記録する呪いも消えたことだし、さっきみたいに誰かに聞かれる心配はないよ」


 アイリスが戸惑っていると、ルカが親指を立てながら答えた。

 あのビンタにも、脅しにも意味があったのか。ちゃらんぽらんに見えて実はルカって凄い人なのかも知れない。

 そんな風に俺がルカを見直した時だった。


「何てことをしてくれたんですか!?」


 アイリスが声を荒げながらルカに詰め寄ったのだ。


「へ? なんで?」


 さすがのルカもこれは予想していなかったみたいで、決めポーズをとったまま聞き返している。


「僕の呪いが消えたことが知られたら、お母さんが殺されちゃう!」

「あー……ロキ君、ミリっち。緊急の依頼。アイリスのお母さんを何とかしてあげて。料金は宿代と食事代で払うから」


 ルカが頭を抱えながら、俺達に依頼を出した。

 さっきまで見せていた出来る女の雰囲気が台無しだよ。

 それにしても、今日の俺達はとことんまでこのアイリスという少年に付き合わされることになるらしい。

 お母さんが殺される。悲壮なアイリスの叫びに、責任を感じた俺は依頼を拒否することが出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ