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ドラゴン退治

 数日間ミリアと暮らして、こちらの世界の生活にも慣れてきた。

 冒険者として毎日ダンジョンに行っては、魔物を倒しアイテムを回収してくる依頼を受けていた。

 嬉しい誤算は俺の能力がかなり便利で、いきなりベテラン冒険者であるミリアと一緒に戦っても、全然足を引っ張らなかったことだ。

 そんな訳でミリアは今日も水晶窟にいる最強の魔物、晶龍クリスタルドラゴンを討伐する依頼を受注した。

 水晶窟は思ったより広いが単純な構造で、運動場くらいの大広間と、人が四人くらい通れる細い道の繰り返しで出来ている。

 高い天井から突き出た水晶が、ぼんやり光ってくれているおかげで、中は意外と明るかった。


「ロキ、次の広間から敵の気配がする。準備して」

「分かった」


 ミリアの勘の良さは想像以上だった。敵がいると言えばいないし、敵がいないと言えば本当にいなかった。

 そんな芸当を十回以上見せられたら、もう信じることしか出来なかった。

 ミリアがペール・メールの二刀を抜くのに合わせて、俺も意識を集中させた。


「突入」


 小さく合図をしたミリアが急加速し、大広間へと飛び込んだ。

 一歩遅れて俺も大広間に抜けると、中央には巨大な水晶で出来た龍がいた。

 足下から頭までは五メートルほどはあるだろうか。見上げなければならないほどに大きい。

 動いていなければ、巨大な美しい彫刻にでも見えただろう。

 だが、見とれている暇はなかった。


晶龍クリスタルドラゴン。ロキ、ブレスに気を付けて」


 ミリアは俺に注意を言い残すと、一人で龍の元へと走り始めた。

 龍は半透明の翼を広げ、大きく息を吸い込んでいる。


「ミリア!? 気を付けてと言った奴が気を付けないでどうする!?」


 ミリアの後を追うように、俺も龍の懐に向けて全速力で突っ走った。

 だが、ミリアの姿は突然俺の視界から消えてしまった。


「メール。お願い」


 黒い霧が少し漂っている。ミリアが魔剣の力で姿を消したのだ。

 ミリアが消えた今、龍の狙いは俺に向けられていた。


「そうだ。俺を狙ってこい」

 大きく開いた龍の口から、咆哮とともに手の平大の尖った水晶が散弾のように放たれた。

 地面が抉り取られ、砕けた岩が混ざってこちらに飛んでくる。

多くの冒険者に恐れられる龍のブレスだ。


「現れろ。ペール・メール!」

 俺は暴風に向かって手を突きだし、自分の能力と複製する武器の名を叫んだ。

 すると手の前に半透明な黒い短刀が二本現れた。

 二本の刀は柄をくっつけると、高速回転を始めた。

 豪雨のように襲い来る結晶を、刃が次々に弾き飛ばし、俺はゆっくりと前に歩を進めた。

 すると、いつのまにか龍のブレスが止まり、代わりに巨大な足が俺の頭上に振り下ろされようとしていた。


「ペール!」


 その足に向かって俺が指を振ると、放たれた矢のように黒い刃が飛翔し、龍の足を切り裂いた。

 宙に晶竜の細かい破片がばらまかれて、キラキラと空間が輝いている。


「メール!」


 そして、逆の足に向けて、視線を送ると全く同じ要領で刃が宙を飛び、龍の足を切り刻んだ。


「トドメだ」


 最後に龍の首に向けて指を向けると、二つの刃が交差するように龍の喉に突き刺さった。

 毒が効いているのか晶龍が暴れ回り、尻尾で土煙を巻き上げている。

 しかし、それも長くは続かず、すぐに大人しくなった。


「さすがロキ。私が手を出す前に終わらせた」


 ミリアの声が頭上から聞こえる。

 メールの力を解いて現れたミリアは、龍の頭の上に立っていた。


「って、言いながらもミリアも首に刃を刺したのも、ほぼ同時だったか」

「真正面から戦うことは私には出来ない。やっぱりロキは私の最強の剣」


 ミリアはそう言って飛び降りると、俺の腕に全身で抱きついてきた。


「ペールとメールも喜んでる」

「そっか」


 刀が喜ぶというのはどういう意味だろう。

 ミリアの言葉の意味を理解出来なかったけど、俺は困り気味に頷いてしまった。

 ミリアにとっての父と母、その複製品を俺が使って戦うことを拒否するのなら分かる。


「ねぇ、ミリア。ミリアにとってのペールとメールって何?」

「お父さんとお母さん」


 ミリアは即答した。迷いも疑問も感じられない口調に俺は言葉に詰まった。

 ミリアは一体どうやって暮らしてきたのだろう。

 ルカの話を思い出すと、嫌な予感しかしない。


「あ、ロキ。晶龍の尻尾から槍が出てきた」

「あ、ホントだ」

「魔物を狩ると、たまに武器が出てくる。上位の魔物だからきっと良い物」


 ミリアはそう言うと俺の手を引きながら、ピョンピョンと跳ねるように歩き出した。

 ゲームで宝箱を開ける時や新しい武器を手に入れる時はワクワクするけど、ミリアもその時と同じ気持ちなのだろうか。年相応にはしゃいでいるように見えた。


「これでロキが強くなるね」


 槍の横に立つと、ミリアは満面の笑みを浮かべて俺にそう言った。


「ミリア……今笑った?」

「変?」

「ううん、全然変じゃない」


 困ったような表情でミリアに見上げられ、俺は大げさに手を振って答えた。

 無邪気な笑顔が眩しくて、単純に驚いたんだ。

 普段の無表情な顔とは全然違って、かわいいと反射的に思ってしまった。


「ミリアも嬉しいことがあると笑うんだね。もう一度笑ってみてよ」

「ん。こう?」

「ぶっ!?」


 その笑顔をもう一度見ようとお願いしたら、酷い笑顔が返ってきた。

 目に力が入り、頬は引きつり、歯が震えている。

 これは新しい威嚇方法なのだろうか。雑魚モンスターのゴブリンぐらいなら追い払えそうだ。


「変だった?」

「あははっ!」

「むぅ。ロキの意地悪。ロキが笑えって言ったのに、ロキが笑ってる」

「ごめんごめん。うん。でも、そっか。ミリア笑うのは苦手なんだな」


 笑いが止まらない俺に、ミリアは不機嫌そうに頬を膨らませて、俺の腕をつねってきた。

 やっぱり力自体は女の子なのか、つねられた痛みはそこまで強くない。

 俺はミリアをなだめるために、ミリアの頭にそっと手を置いて、さらさらの銀髪をなでた。


「でも、さっきはちゃんと笑えたよ」

「ん。また見たい?」

「うん。次はまた嬉しいことを見つけて、自然に笑おう」

「ん。がんばる」


 ミリアは小さく頷くと、俺の腕から離れてスキップをするみたいに、槍に近づいた。

 そして、槍を地面から引き抜くと、片手で高々と掲げた。

 龍の骨が螺旋状に捻れた槍は、穂先が二股に分かれている。


「おいでロキ」


 ミリアは槍を一回転させて腕で抱えると、手招きをしながら俺を呼んだ。

 相変わらずの無表情ではあったが、嫌われている様子は無い。

 ルカが言ったミリアは人と喋らないのが本当だったとしたら、俺は今それなりに親しい関係になったはずだ。

 これならミリアの本当の願い事を聞けるかもしれない。

 そうやって気を抜いて考え事をしていた瞬間だった。


「っ!? ミリアッ!」

 一瞬何かが反射した光が見えて、俺は一気に前に飛び出した。


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