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俺は最強の魔剣《ロキ》?

 ダンジョンの奥には神が住む。

 退屈した神を喜ばせることが出来たら、一つ願いを叶えて貰うことが出来る。

 己の欲望を満たすも良し、誰かの幸せを願うも良し。

 全ては全人間に告げられた天啓から始まった。

「祈りの時代は終わりだ。願いは己の力で勝ち取るが良い」



 階段から落ちたと思ったら、目の前に銀髪の少女が立っていた。

 さらさらの長髪に、人形のように感情のこもっていない琥珀色の瞳、何物にも汚されていない白い肌。

 服装はかなり大胆で、黒いタンクトップとスパッツが黒いマントの隙間から見えた。

 淡い青色の光を放つ水晶が地面や天井から生えている洞窟に、とても似合わない格好だった。

 ここはどこだ? 学校じゃないし、こんな格好をする子なんて見たことがない。


「君は一体……」

「これが私の願い?」

「え?」

「いいや。試せば分かる」


 俺の質問に答えること無く、少女は腰に右手を回すと一方的に黒い剣を抜いた。

 少女は手から肘までの長さを持つ漆黒の短刀を逆手で構えると、俺に向かって飛び込んできた。


「最強の剣なら止めてみて」


 何を言ってるんだと思った瞬間、少女の刃が俺の首に向けて放たれた。

 嘘だろ!? マジで殺しにきてる!?

 俺は間違い無く死んだと思って、目を瞑った。

 その瞬間だった。

 金属がぶつかる甲高い音とともに、少女の手が空中で止まっていたのだ。


「え?」

「へぇ。ペールを止めた」


 少女の剣を止めたのは、宙に浮かぶ半透明の黒い短刀だった。形は彼女のものとよく似ている。


「なら、次。これで死なないでね」


 少女は空いた左手を腰の裏に回した瞬間、黒い影が俺の目に向かって飛んできた。

 止まれ! そう念じた瞬間、目の前の景色が歪み、半透明の刃が現れた。

 刃がぶつかり、赤い火花が散る。

 飛んできた黒刀が宙に舞うと、少女はジャンプして剣をつかみ取った。

 どうやら今回も防げたらしい。

 何だこの力は? 俺は夢でも見てるのか?


「なるほど。メールも止めた。確かに悪くない剣」


 納得したような声音で少女が呟くと、満足したのか二振りの刃を鞘にしまった。

 そして、じぃっと俺の目を見つめながら近づいてくると、無表情のまま口を開いた。


「私はミリア。君の所有者でご主人様。君は今から私の剣」


 ミリアと名乗る少女の言葉に、俺は頭を抱えた。

 何故、こんなところにいるのか。

 何故、襲われたのか。

 そして、何故助かったのか。

 何が起きているのか、一つも理解出来なかった。


「君が俺の所有者……?」

「魔神を倒したご褒美に、最強の剣を神様に願って現れたのが君だった。だから、君は私の剣」

「待ってくれ。俺は人間だ。神坂弘樹って名前もあって――」

「カミサカヒロキ? 聞き慣れない名前。それに長い。ロキで良い」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。意味が分からないって!」

「さっき説明した。君は神様がくれた私の剣。そして、私がご主人様。依頼の報告や清算もある。ダンジョンから帰るよ。ロキ」


 ミリアはそう言うと俺の手を引き、いつの間にか背後に現れた紋章の上に立った。

 巨大な円の中央には複雑な幾何学模様が描かれていて、ぼんやりと青く光っている。


「転移陣。起動」


 ミリアの声で視界が真っ白になり、音も消えた。

 頼む。これは夢で目を開けたら、学校の階段に戻してくれ。

 そう必死に心の中で願った。



「ロキ、いつまで目を瞑ってる?」

「うっ……」


 ミリアの声が聞こえた俺は、思わずうめき声を出してしまった。

 夢は醒めていない。

 今度は何が待ち受けているのかと思い、目を開けるとミリアの顔がドアップで映っていた。

 鼻と鼻がふれ合いそうになるほどに、俺達の顔の距離は近かった。


「うわっ!?」

「ロキ。壊れてなかった」

「いや、だから、弘樹だけど……って、まだ君いたのか……」

「まずは踏破報告から。行くよ。ロキ」


 ミリアは相変わらず人の言うことを聞かず、一方的に俺を引っ張り始めた。


「踏破報告って、うわ……やっぱここ完全に日本じゃない……」


 転ばないように前を向いた瞬間、目の前に広がった光景に俺は目眩を覚えた。

 石畳の道路に馬車が走っている。

 それに街行く人々の中には重そうな甲冑を着ている人がいたり、槍や剣など各々得物を背負っている。

 住宅も木と石を使って作られていて、ファンタジー世界にいるような気持ちになる。


「ねぇ、ミリア。どこだよ。ここ……」

「探検者の街。プロアーズ」

「……そうですか」

「そうです」

「最近の夢は出来が良いなぁ……夢だったら良いなぁ……」


 当然のように応えたミリアに、俺は諦めに似た感情を抱いた。

 夢だったら良いな。と必死に思い込んでみるけど景色は何も変わらない。

 もし、これが夢でないとするならば、俺は何処か別の世界にいる。

 いわゆる召喚という奴だろうか。


「ロキは剣だから何も知らないの?」

「いや、だから人間なんですけど……。夢ならマジで醒めてくれないかな……」

「ロキは自分が何者かすら知らない。どんな剣か鑑定が楽しみ。分かればきっと夢とか言わなくて済む」


 ミリアは完全に俺を剣扱いしているが、周りの人から見るとまさか俺は剣に見えているのか?

 一応自分の格好を見る限り、ワイシャツは着ているし、ズボンもはいているから人の形をしているはずなんだけど。

 そうこうしていると、ミリアは三階建ての大きい建物の前で足を止めた。


「ついた。冒険者ギルド兼、鑑定屋兼、宿屋のワルールカ」


 ミリアが木の扉を開けると、鈴の乾いた音がなった。

 木製のテーブルと椅子が並べられた店内には、お客は一人もいなかった。

 退屈そうに机につっぷしているウェイトレスが一人いるだけだ。

 というか、冒険者ギルドとか鑑定屋とかって当たり前に言ってるけど、俺は大丈夫なのか?


「ルカ。帰った」

「んぁっ!? しまった寝てた。って、なんだミリっちか。おかえりー」


 ミリアの声でバッと立ち上がった少女が元気の良い挨拶をしながら、こちらに近づいて来た。

 赤い髪のポニーテール、ツリ目気味なせいかネコっぽく見える顔で、ベージュ色のエプロン姿が魅力的なウェイトレスだ。


「ん? 出かける時、そんな人連れていたっけ? ってか、ミリっちって友達いないから基本一人じゃなかった?」

「ルカ。何を言っているの? これは剣だよ」


 明るく毒を吐くウェイトレスのルカに、ミリアは無表情のまま小首を傾げた。


「ミリっち……お腹が空いてダンジョンに落ちてた変な物でも食べた? ダメだよ。ちゃんとうちで売ってる物を買って食べてくれないと。私がご飯食べられなくなっちゃうよ」

「ルカ。鑑定」


 大げさなポーズで嘆くルカに、ミリアは銀色の硬貨を三枚ほど渡した。

 ルカはその硬貨を受け取ると、戸惑ったように俺とミリアの顔を何度も見比べた。


「本気? 嘘じゃなくて本当に剣なのそれ?」

「ミリアは嘘をつかない。拾い食いも毒が無い物しか食べない」

「仕方無いなぁ。どれどれ」


 ルカは観念したのか、エプロンから眼鏡を取り出して、くるくる人差し指で回してから耳にかけた。

 今の行動に一体何の意味があるのだろうか。


「んー、今君、何の意味があって眼鏡回したの? って思ったでしょ」

「えっ」

「気分よ気分。鑑定にも魔力を使うから、気合い入れてるの」


 そう言うとルカはジーッと俺の目を見つめてきた。

 驚いたかと思えば、目を細めて睨み付けてくるような感じになり、突然困ったように首をひねり出す。

 表情がコロコロ変わっていて、睨めっこをしている気分になってきた。


「ねぇ、ミリっち。あんたこれどこで拾ってきたの?」

「水晶窟のダンジョン。あと名前がある。これの名前はロキ」

「んー。んなら、次はロキ君に質問。君、この世界の人じゃないよね?」


 ルカはミリアの回答に苦笑いすると、今度は俺に質問をしてきた。


「は、はい。俺の世界にこんな感じの場所は無いし……」

「やっぱりそうか。じゃあ、君にとっては辛い話しになるねぇ。私にとっては面白い話しだけど」


 ルカの鋭い目からは冗談の気配を感じられなかった。

 この人はワザと毒を吐いているのか? それとも天然で毒を吐いているのか?

 どちらにせよ俺にとっては良い話しではなさそうだ。


「君の精神だけがこっちの世界に引っ張られて、魔神の骸に憑依しているわ」

「え……?」

「んー、そうね。有り体に言えば、君は精神だけこちらの世界に転生した。君の世界で何か大きな怪我とかして死にかけなかった?」


 階段から落ちて頭を打ったかもしれない。まさか本当にそのせいで、俺は違う世界に連れて来られたのか?


「心当たりがあるみたいだね。まぁ、原因はどうでもいいや。とりあえず、大事なのは今の君はちょっと特殊な人間であること。まずはそこの説明からかな」

「どういうこと?」

「二十年前くらいからこの世界では、ダンジョンと呼ばれる異界空間が生まれ始めたの。で、そのダンジョンの奥には暇を持てあました神様がいる。私達人間は神様と戦って勝てたら、願いを一つ叶えて貰えるのよ。ミリっちに何か言われなかった?」

「最強の剣を願ったとか言われたような……」


 意味が分からなかったミリアの言葉も、段々と意味が分かってきた。


「うん。ロキ君はミリアの願いで、魔神の骸をもとに作られた剣に憑依した人間だよ」

「俺の身体が剣? でも、俺は武器を持っていないけど」

「君の能力は晶鏡映し。自分の見た武器をそっくりそのまま、魔神結晶で好きな所に複製する力よ。後は自分の手で剣を振らなくても、君の意志が剣を振ってくれる。あら、便利。そう考えると、今の君は意志を持つ剣そのものと言っても過言ではないね」


 ルカは眼鏡の位置をクイッと直すと、より俺に顔を近づけて来た。

 この世界の人達は顔を近づけることに、恥ずかしさを感じないのだろうか。

 ドギマギしているのは俺だけみたいだ。

 それにしても、俺自身が剣か。心当たりがあるとすれば、あれしかない。


「そう言えば、ミリアに襲われた時もミリアの剣にそっくりな剣が、勝手に攻撃を止めたっけ」

「あはは。攻撃されたんだ」

「最強の剣かどうか試すとか言われて」

「ミリっちらしいねぇ。後はもう一つ君には力が隠されているようだけど、まだどうなるかは分かんないかな。さっき伝えた武器を映し、生み出す力は依り代になっている魔神の力。君自身が持つ力はまだ未知数。以上鑑定終わり。あぁ、後、君の素性は隠しておいた方が良い。魔神の骸に命を憑依させているせいか、魔神と同等の存在になってる。君を殺せば願いが叶うっぽいので、ばれたら街中の冒険者が殺しに来るよ」


 眼鏡をエプロンにしまったルカは、さらっととんでもないことを言い残し、カウンターの方へと戻ろうとしていた。

 俺に何が起きたかは分かったけど、肝心なことを聞いていない。

 そんな危険な世界に俺はずっといることになるのか?


「俺はこの先どうなるんだ?」

「さぁ? どうなるかなんて誰も知らないよ。この世界では祈るんじゃなくて、願いがあるなら魔物ひしめくダンジョンに潜って神様の化身、魔神様から勝ち取れる。どうなりたいかは自分で決めて。まっ! 次のダンジョンが解放されるまで三週間はかかるだろうけどね! それまではどうしようもないし、新ダンジョンが解放されても、一番に魔神様を倒さないとどうしようもない。精々頑張りなさい」


 帰りたければダンジョンを一番乗りで踏破して、奥にいる魔神を倒せば良い。

 単純明快な回答に俺は頭を抱えるしかなかった。

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