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 荷車の中で横になって空を眺めていた。雲すらない快晴なもので替わり映えしない。そんな景色に若干飽きつつあったリュウスケに一つの朗報が耳に届いた。


「リュウスケ、そろそろ村が見えてくるぜ」


 知らせ主は言葉通りトカゲの様な人間、旅商人のバジルが荷車を引きながら前方を指差す。

 リュウスケは体を起こして指差す方向を見る。遠くに木で出来た扉の無い簡単に造られた大きな門、その両隣には同じ材質で造られている柵があった。その中には石で出来た家が数件ある。人が生きていくのに最低限な造りではあったが、それがのどかな雰囲気を出していた。

 門の前には槍を持った門番が防衛をしている。その上に着いてあった看板にはこちらの言語で「メルソン村」と書かれていた。

 リュウスケは初めての村を見て感銘を受けた。転生する前の世界で、彼が住んでいた場所にはあまり自然は無かった。ここの世界は沢山の自然がある。しかし地球で見る自然とはまた違う物だ。似ているが若干違う。

 バジルは重要なことを思い出し、足を止めて荷車に乗っているリュウスケに伝えた。


「そうだ、リュウスケ。荷車に積んである白い布をくれ」


 指示を受けたリュウスケは布を探す。どうやら自分の尻に引いてあったらしくて慌てて膝立ちする。それを掴んでバジルに渡した。

 バジルは布を受け取るとそれをローブの様に身体を包んでフードを被って全身を覆った。

 何事かと思ったリュウスケはバジルに聞いた。


「なんで布被るのさ?」

「ここら辺の地域、魔族や魔法にあまり良い顔しない。だからこうやって隠す。その場所の掟に従う。これは世界共通のルールみたいなもんだ」

「なんか面倒だね、でもどうしてそんなルールが出来たの?」



 リュウスケは荷車から飛び降りてバジルの隣に来て言った。バジルは人差し指を立てて簡単にこの世界の歴史を話してくれた。

 話によると昔、大きな大戦があったらしい。この世界には魔法が強い国、剣が強い国と千差万別なもので国によっての絶対悪が違った。そしてメルソン村周辺は大きな魔法の被害に遭ったらしくてそういう類に激しい恨みを持っている。しかし時が流れて平和になった今こうやって憎みは薄れつつある。それでも憎しみや反乱が起きないように各地にルールを作ることにしたということらしい。


「なるほど、じゃあその掟を破らなければ村に入ってもいいんだね」

「ああ、もし破るなんてしたら最悪の場合は敵対することもあるからな? お前もさっきみたいに火をバンバン撃つなんてマネはするなよ?」

「オッケー」


 二人は村の目の前に来て、まずは地面に刺さってある掟の看板に目を通した。そこに書いてあったものはこうだった。



 一、魔法の使用禁止。

 二、魔族はなるべく素肌を晒さない格好をすること。

 三、この先の道に行く場合は通行料10Gを払うこと。

 四、村内では暴力行為を禁止。



 以下の項目を守れない者は村の出入りを禁止する。



 それを踏まえた上で、門番にバジルが話をする。相手の許しを得て二人は村の中に入った。リュウスケは一つ腕を伸ばして固まった身体をほぐした。


「あー、やっと着いたぁ」

「なんとか入れたな」


 バジルは周りを見渡しながら村長に当たる人を見つけて商品を売る準備をしようと思った。すると外に居て仕事をしていた村人の一人がこの村で大きな家の中に入って村長と思われる老いた男性を連れてきた。

 老人は腰が悪いためか杖をつきながらゆっくりと時間をかけて二人の前まで来る。そしてかすれた声で話しかけてきた。


「メルソン村へようこそ。そちらの背の高い方は魔族でよろしいかな」

「ああ、爬虫族だ。今日は商売しに来たぜ。何か欲しいものは?」

「では商品を見せてもらおうかの」


 バジルは後ろにある荷車から木箱を取り出して地面に次々と置いていく。そのあいだに村長がリュウスケと会話をする。


「いやはや、こんな奥地な村によくぞいらした若き旅人よ」

「のどかでいい場所ですね」

「不便なところですが、どうぞごゆっくり」

「はい」


 リュウスケはその言葉に甘えて村のあちこちを探索してみようと思ったはいいがそれほど大きな場所でもないので見渡す限りのところしか行きようがなかった。

 村の中心には大きな木が植えられていて、その周りにはぐるっと囲むように腰をかけるのに丁度いいベンチが設けられていた。

 家の件数は十件ほど、随分と過疎化が進んでいた。

 村の左端には先程村長が出てきた大きな家、その反対側には二つの家が並んでいて特徴的なイラストが描かれている看板が屋根の上に乗っている。片方は葉っぱのイラスト、もう片方は西洋鎧の兜のイラストが描かれている。そしてその真ん中には村を出るゲートがあってその先にもずっと道が続いていた。

 先程入ってきた入り口近くに村人が住んでいる小さな家が八件、どれも同じ形をしていた。

 リュウスケがとりあえず気になったのは葉っぱのイラストの看板がある家、おそらくアイテムショップと思われる家の中に入ってみようと考えた。

 家の木製ドアに手をかけて開ける。少し古い建物なのでギィギィと危なっかしい音を出しながら開かれた。中は外装と同じ石で出来た壁、加工された木材の床と天井。アイテムが置いてあるカウンターは少し斜めになっていて展示用の品が見やすくなっている。その奥には二回に続く階段、倉庫に続くと思われるドア。そして髭を生やした店主が居た。

 店主は暇そうにしてカウンターに突っ伏していたがリュウスケが入ってきたことで身を正して挨拶をして商売を始める。


「いらっしゃい! なにをお求めだい?」

「えーと……」


 リュウスケはカウンターに並べられている品物を見る。一番端には看板のイラストと同じ葉っぱ、その隣にはGという文字が書かれた袋、しなびた怪しいキノコ、そのキノコが三つの束になったセット、よくわからない赤い花の五点が置いてあった。

 リュウスケはRPGなどでお約束の回復薬などの品がないと気づいて店主に問い合わせてみた。


「あの、回復薬とかありますか?」

「そんな大層な物はここにはないよ」

「そうですか」


 それを聞いて自分が買うべきものが決まった。薬草は絶対に買うとして、もう一つはお金を入れる為にあるGと書かれた袋だ。すぐに品物の値段を聞いて買い物を済ませる。ちなみにそれぞれの値段は薬草1G、袋10G、キノコ5G、キノコ×3で15G、花20Gだった。


「薬草十個、袋一個ください」

「はい、合計20Gね」


 リュウスケは言われた金額をポーチの中から出して店主に渡した。商品を受け取って店を出て中心にある大木のベンチに腰かけて荷物の整理をおこなった。

 ポーチの中に散らばっていたお金は全部袋の中へ、薬草はそのままポーチに入れる。途中で拾ったスライムの一部は丁度喉が渇いていたのでビンに入っていた水を飲みほしてその中にスライムを詰め込んだ。

 アイテムショップの隣にあるお店には入らないでおいた。理由は今持っている装備の方がはるかに良い物がありそうなのと、少ない残金で買えそうになかったからだ。

 遠くの方ではバジルと村長が商談をまだしている。まだまだ時間は掛かりそうだ。

 その他に目ぼしい場所はなかったので大木の下でのんびりと横になろうかと思ったその時、遠くの方から若い娘4四人がこちらに向かって走ってきた。そのうち一人の娘の手にはカゴを持っていて中には赤いリンゴの様な果実が山ほど入っていた。

 リュウスケは横になるのをやめてベンチから立って娘たちの方へ歩み寄った。軽く挨拶をする。


「こんにちは」

「こんにちは、これよかったらどうぞ」


 カゴを持っていた娘が中から果実を取り出して手渡しする。リュウスケはその果実を服の端で少し磨いてから口まで持っていってかじった。味はリンゴと似ているが若干酸味が強く、少し柔らかい。噛めば噛むほど果汁が溢れてジューシーだ。


「おいしい!」

「本当ですか?」


 娘たちは顔を見合わせて嬉しそうに微笑む。その笑顔は田舎暮らしならではの素朴で可愛らしいものだった。

 リュウスケは四人の姿をまじまじと見る。カゴを持った茶色い活発そうなポニーテールの子、その後ろにいる黒髪の肩くらいまでの髪の毛が伸びた猫目の子、赤茶色のロング髪でおっとりとした雰囲気の子、焦げ茶色のお団子状に髪を上げた子、どの娘もリュウスケと同い年で美人だった。四人の可愛さにリュウスケはついニヤけてしまう。

 どうして村の娘たちがリュウスケと交流を深めようかと思ったのかというと、村は少子高齢化が進んで中々若い男に会えない。勿論居ないわけではないが外部から来た男の方が村から出たことの無い彼女たちにとっては魅力的なものだったからだ。

 赤茶色のロングの子がリュウスケの隣まで来て腕を組む。その拍子に彼女の胸が腕に当たる。柔らかくて心地の良い感触だ。そしてこの子がかなりの胸の持ち主だとリュウスケは気付く。彼の鼻孔をくすぐる少女の匂いは甘くてとてもそそるものだった。口が開かれる度にフワフワと香りが更に漂ってくる。それに気を囚われていたリュウスケは娘が話しかけていることに気がついた。


「あの、良かったらいろいろお話を聞かせてください」

「えへへ、いいよ」


 五人はベンチに腰をかけた。配置はリュウスケを挟んで両サイドに女の子が二人ずつ座る。日本に居たときこんな女の子に取り囲まれるようなことはなかった。あったとしてもアニメや漫画の中でしかなかった。所謂ハーレム、初めての経験だがこれは良いものだと彼は思った。

 黒髪で猫目の子が話しかけてくる。少し緩い服を着ているのでスレンダーなボディがチラチラと見える。胸は小さいが肌は白くて滑らかだった。目線をそこから外そうにも中々はずせなくなって嬉しいことになったが相手に失礼だと思ってなるべく顔を合わせて会話をする。


「ねぇ、どこから来たの?」

「ニホンって場所だよ」


 お団子ヘアーの娘が身を乗り出して彼の手を掴みながら話した。人生初めて異性の手を触ったことでリュウスケの興奮は更に高まる。理性が壊れそうになるも頑張って堪えようとしたが顔は崩れていく一方でどうしようもなかった。


「へー、そんな国があるんだ、ねぇねぇもっと聞かせてよ!」

「えへえへ、いいよぉ」


 リュウスケと娘たちの会話は小一時間ほど続いた。





=〇〇〇〇=





 バジルが商談を終えて村長に今日ここに止めてもらえないかと頼むと「空き家が一つあるから自由に使っていい」と言われた。それをリュウスケに伝える為、彼を探す。

 リュウスケは大木の下で若い四人の娘と楽しく会話していた。非常に声をかけにくい状況だが話に割ってはいろうとバジルは決意した。


「おい、リュウスケ」

「でへでへ、なんだいバジル?」


 リュウスケがバジルの方へ顔を向けるとそれは見るに堪えないほど鼻の下を伸ばしきってだらしのない顔になっていた。バジルは内心、顔立ちは良いのになんか残念な奴だなと思うが言うのも億劫になるほど呆れたので言わないでおいた。


「ここの空き家に泊まっていいってさ。中に入って休もうぜ」

「うん、わかった」


 リュウスケは立ち上がってバジルと共にその場を後にした。去り際にリュウスケが後ろを振り返って娘たちに手を振ると、黄色い歓声が沸いた。

 バジルは空き家の外に自分の荷車を留めて、中に入る。中は少し埃に被っていたが使えないというほど酷いものではなかった。

 石の壁に木の天井と床、真ん中には二つのイスとテーブルが置いてあった。日当たりがそんなに良くなくて窓から入ってくる光だけでは少し暗かった。

 テーブルの上に置いてあったロウソクに火をつけようとリュウスケは魔法を撃つ構えをしたがバジルに頭を叩かれてそれはやめろと言わんばかりに止められる。バジルがふところからマッチを出してそれで火をつける。二人は向かい合うように椅子に座った。


「あぁ、疲れた」

「なにを売っていたの?」

「野菜の種、結構良い値で買ってくれたよ」

「へー」

「そういうリュウスケは何していたんだよ?」


 リュウスケは薬草などを買った後、娘たちとイチャイチャする経緯を話した。しかし後半ほとんどがハーレムの素晴らしさについて語っていたのでバジルは半分聞き流すようにして適当に相槌を打っていた。

 バジルはタイミングを見計らって明日からの予定を話す。


「明日この村を出て、約束通り近くの街まで連れていってやる。でもその後どうするかも決めておいた方がいいぞ」

「うーん、そうしたいけど場所を知らないから目途が立たないなぁ」

「じゃあ、あそこ尋ねるといいさ。グーンニャって場所」

「なにそれ?」

「魔法使いたちの集落。次の街よりずっと北西の方向へ進むとでかい都市があってそこ辺りにひっそりと存在しているって噂。もしかしたら例の紙にかかっている魔術が解るかもしれないぜ?」

「じゃあ、そこ目指してみるよ」

「途中までしかお供出来ないがまたどこかであったらよろしくな、ってまだ街に着いてないけどよ」

「へへっ、最初に出会った人がバジルで良かった」

「そうかい、ありがとさん」


 二人で話していると外から微かに人々のざわめきが聞こえる。不穏に思ったバジルは壁際に行って耳を立てた。そこの会話で自分たちの話題ではないことを確認してからリュウスケを手招きして一緒に家を出た。

 村人たちは真ん中の大木の近くで集まって話している。その集まっていた村人の一人にバジルが声をかけて何の騒ぎかと聞いてみた。そこで村人から告げられた言葉はこの世界では当たり前のことだが、転生したばかりのリュウスケにとっては大きな大事件に聞こえた。


「近くでモンスターの群れを発見したらしいよ」




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