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「次」


 そっけのない、呼び声がかかった。僕はその声に促され荷物を抱えて前に進み出る。もう夕方だ。鳥たちがしきりに木々に群れてせわしなく鳴いていた。東の方からはもう夜の気配さえ漂う。僕は昼間から何も腹に入れておらず、ひどくひもじい気分だった。それは前にいる通門官たちも同じだろう。心なしか彼らの表情もあまりよくない。


「名を名乗れ。」

 無表情にそういうと、僕の向かいにいる通門官は手にした紙にペンで何やら熱心に書きつけ始めた。肌は浅黒く、毛深い。それに比べて薄いハシバミ色の瞳が印象的だった。何をそんなにたくさん書いているのだろう。僕がまじまじとその様子を見つめていると、男はさも不愉快そうに眉をひそめた。

「何か面白いとでも?余計なことは考えないことだ。さあ、早く。名を名乗れ。」

 急かされ仕方なさそうに答えると、通門官は何もいわずに記帳を器用にぱらぱらとめくる。しかしとあるページに目を通すなり、その表情はさっと変わった。

「…おまえ。前に幾度となくここを通っているだろう。未成年でありながら、何をうろちょろしている。」


 見上げれば、さっきの通門官がいぶかしげにこちらを見ている。

 そんなことを言われても。予想外の事態に僕はうろたえた。別に怪しいことをしている訳じゃない。だが国を超えてうろうろしているとあっては怪しまれるのは当然か。抵抗すればややこしいことになりそうな気がしたので、僕は神妙な顔をしてやり過ごすことにした。

 しかしどうもそれがまずかったようだった。男は急に記帳をそれとはっきり分かるほどバンと置きこちらへつかつかと歩み寄ってきた。不穏な空気があたりに漂い始め、僕の後ろに並んでいる人々もざわめきながら、気遣わしげにこちらをみつめている。


「答えられないのか!ますます怪しいな。お前。」

 そういうと男は僕の腕をがっとつかんだ。と間も持たせずすばやく後ろ手に回される。

「うっ!」

 思い切りひねりあげられて、思わずうめき声がもれた。

 離せ!僕は抗う。しかしその力は思った以上に強く僕はそこから逃れることができそうにない。それどころか力はどんどん強まっている気がする。後ろ向きに男の足を蹴ったり、じたばたもがいたりと情けない抵抗を続けていると、背中から男の野太い声が降ってきた。

「答えろ!それともお前がそのスパイとやらではないのか。」

 くそっ!さっきのは答えてやるべきだったか。違うと真っ向から否定すると男はけん制するかのように力を強めた。痛い。この男衛兵上がりか?恐ろしい腕力だ。もう一つ力を加えるだけで肩が外れてしまうだろう。僕は抵抗をやめた。


 ああ、もうじき夜だ。いつもはすんなり通してもらえるのに…なぜよりによってこんなやつにつかまらなきゃならない!心の中で舌打ちをしていると、助け船が出された。

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