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短編盛りだくさん(予定)

受験人生

作者: 城田寺 皓

 あるところに、日夜勉強に励む一人の少年がいた。

 その少年、たいそう優秀で学校では常に一番の成績を収めていた。あまりにも優秀なため、時にはその聡明さに指導する教師の方が舌を巻くほどだ。

 そんな少年の背景には、たゆまぬ努力もさることながら、両親の熱心な教育方針があった。

 幼い頃から親の厳しい教育を受けてきた少年は、物心がついた時にはすでに文字の読み書きと、簡単な数字の計算ができるようになっていた。

 当然、神童だと周囲の人間は持て囃す。この頃から彼は両親の期待を一身に背負っていた。

「勉強をしていい学校に入って、いい会社で働いて、立派な人間になれ」

 親は口を酸っぱくして少年に言い続けた。

 少年はそれに応えるように、しかし周りの賛辞に対し決して驕らず、勉強に明け暮れる日々を送った。大きくなった少年は有名な進学校へ行き、そこでもやはり最高の成績を収め続けた。

 

 時は経ち、やがて少年は受験生として大事な時期を迎えた。

 そんなある日のことだ、少年は些細な間違いにより、惜しくもトップの成績を逃してしまう。

 それでも充分な成績であることに変わりはない。周りからしても文句のつけようのないできだ。

 しかし、彼の両親はこれを許さなかった。少年を激しく叱責し、反省させるためその日の夕飯を与えなかった。

 少年はひどく悲しんだ。両親に怒られたこと、そしてなにより単純なミスをしてしまったことが悔しく、自分を責め立てた。

 この日を境に、彼は必要以上に失敗や間違いを恐れるようになってしまった。そんな不安と焦りがさらに失敗や間違いを生み出し、さらに恐れるようになる悪循環を生み出す。

 今まで壁にぶち当たることのなかった少年は、ここにきて受験のストレスと、期待と言う名のプレッシャーに押しつぶされそうになった。

 それでも両親の叱責はやまず、彼の心は一層擦り切れ衰弱していった。


 受験本番も間近に迫った頃、追い打ちをかけるように、さらなる不幸が襲いかかる。

 心も体も疲弊しぼろぼろになった少年は、登校中誤って赤信号へと飛び出し車に轢かれてしまった。

 すぐに少年は病院へと運ばれたが、状態は非常に危険だった。

 わずかに残った意識と、かすかに聞こえる外の音からしても、自分が生死の境をさ迷っているであろうことは、少年にも理解できた。

 そんな中、聞き慣れた声が彼の耳に届く。両親のものだ。

「お願いします。どうか、どうかこの子を助けて下さい」

 懇願する親の声。しかし少年はここで耳を疑った。

「来週には大事な試験があるのです。それを受けられなければ、この子は一体どうしたら」

 その言葉を聞いた瞬間、少年は絶望した。

 自分の命より、受験の心配をする両親。そしてなにより、自分から勉強をとったら何も残らないという厳然たる事実。

(ああ、俺の人生はなんてつまらないんだろうか。生きたところで結局はまた、あの胃が締め付けられるような張りつめた空気の中に放り込まれるのだ。ならばいっそ、このまま死んでしまいたい)

 生きる希望を失った少年は、やがて意識を閉ざし、そのまま静かに息を引き取った。


 少年が目覚めたのは、白い壁と天井に囲まれた部屋の白いベッドの上だった。

「ああ、やっと起きましたね。さあ、起きたのなら早速行きますよ、ほら」

 少年の傍らには、見たことのないスーツを着た若い男が立っていた。神経質そうに眉間にしわを寄せる男は、少年を促すと部屋にあった白い扉の方へさっさと歩いていく。

 慌てて少年は、男の後を追った。部屋の外は一面真っ白な世界が奥まで続く、長い廊下だった。

「ここは天国です」

 きびきびと廊下を歩きながら、男はついてくる少年を振り返ることなく言う。

「あなたは死にました。色々な疑問や戸惑いはあるでしょうが、まずはそこをご理解ください。ご質問はまた後ほど受け付けます。つきましては、あなたに再び地上へ戻ってもらうための転生をしてもらいたいのです」

 少年に発言の機会を与えず、一方的に男は喋る。

「とはいっても、そのためには然るべき準備が必要です。健全な魂であることの証明とでも言いますでしょうか」

 男は一つの扉の前で立ち止まると、少年の方を向いた。

「まずはご覧になるのが手っ取り早いでしょう」

 そう言うと、男は扉を開ける。大きな部屋の中では、老若男女大勢の人間が机に向かい、懸命にペンを握った手を動かしていた。

「これからあなたにも、転生試験のための勉強をおこなってもらいます。試験は一次、二次とあり、最終試験に受かれば晴れて転生となります。また試験の出来によって地上の人生を左右しますので、くれぐれも怠けることのないように」

 呆然と立ちすくむ少年に、男は続ける。

「何をしてるのですか、さああなたも席に着いてください。勉強をしていい成績をとって、いい人間に転生し、立派な人生を歩むのです」

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― 新着の感想 ―
[一言] 生きてるときに勉強。 死してなお勉強。 あるいみホラーですね。笑。 この少年はどんな気持ちで転生試験に挑むのでしょうか??笑
[一言]  はじめまして。読ませて頂きました。 常にトップであれが口癖っぽいエリート両親の子どもでしょうか(勝手に想像) 1度のほんのわずかな失敗でノイローゼ(?)で死んでしまいましたか…… 転…
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