その 7
戦闘シーン書くのって難しいですね……。
その後、宿から歩き続けること数時間、どうやら目的の場所に着いたらしい。
「依頼書によるとここら辺で悪魔が現れるらしい。くれぐれも気をつけるように。それとジン、分かっているとは思うが」
「分かってる。勝手な行動はしないように、だろ」
「そうだ。それがわかっているなら他に言うことはない。ユイはジンを守りながら私の援護をしてくれ」
「それは反対。私が前衛でミオちゃんが後衛だよ」
「いや……しかし、ユイはジンを守ると──」
「攻撃こそが最大の防御で、敵を早く倒すことこそがジンを守ることに繋がるんだよ。これが最善の策ってものだと私は思うのよ」
……すごい言い分だな。
「……………………」
どうやらミオも俺と同様でユイに面喰っているようだ。
「……はあ、わかった──もうそれでいい」
「さすがミオちゃん。わかってるぅ」
「しかし危険な行為は控えてくれ」
「わかったよ。でも……多少は許してね」
「ユイの多少は危険すぎだ」
「そのくらいのリスクがなければ勝てないかもしれないじゃん」
「何を言っても無駄、か。まあいい……そのぶん私が援護すればいいだけの話だ」
ユイとミオの悪魔に対しての役割が決まったらしい。ユイが前衛でミオが後衛、そして俺がお荷物。
──いまさらだが、俺も少しくらいは役に立ちたい。
……けど、無理をして邪魔になったら余計にユイとミオを危険にさせるだけになってしまう。
はあ、もし俺に魔法が使えれば、役に立てることができるかもしれないのに。
「来る」
そんなことを考えているとユイが何か気配を感じたらしい。
「ジンは後ろに下がってて、万が一巻き込まれでもしたら大変だから」
「ああ、わかった」
俺はユイにそう言われおとなしく後ろに下がった。男としてここに残りたいとは思うが、やはりユイ達の邪魔をしたくないという気持ちのほうが強い。
そうしてユイ達から十メートルほど離れた時、
「ふむ、良い匂いがすると思うたら人間がおったのか」
白いオオカミが現れて、喋り始めた。
……もしかして、この白いオオカミが悪魔なのか?
「ひぃ、ふぅ、みぃ、三人か十分腹が満たせる量だな。今日は良き日だ」
どうやらこの白いオオカミの悪魔は俺たちを食うつもりらしい。
「最近は食糧不足で困っていてな。こないだこの森をうろついていた痩せた人間を食べたが、食べれるとこが少なく腹も満たされなかったわ。しかし、今日は食べるとこが少ない人間と違って食べれるとこが多く、肉も柔らかそうだ。ああ、今日は本当に良き日だ」
「………………」
確かに腹が減れば生物を食べたりするが、それでもこの悪魔の言うことは癇に障る。
そして、俺だけでなくユイやミオも白いオオカミの言葉に対し怒りを覚えたらしい。特にユイなんかは雰囲気が、がらっと変わって殺気だっているように感じる。
「ねぇ、あなたはいままでどれだけの人間を食べたの?」
「そんなことをわざわざ覚えていられるか。お前たちも自分がいままで食べてきた物をすべては覚えてはなかろう。それと同じことよ」
「……そう」
「安心しろ、小娘。貴様らもすぐに食い殺して……最高の日にしてやろう」
「そうだね、あなたにとって今日は最高の日になると思うよ。忘れることができないくらいにね」
そういってユイは腰に提げてある剣を抜き、そのまま剣の切っ先を白いオオカミに向ける。
「ふむ、やる気か?」
「あなたは後悔する──ううん、後悔させて見せる」
──離れているはずの俺でさえ体が震えた。
それほどの冷たい空気がユイの周りで流れている。
そして、その冷たい空気に気づいた白いオオカミが驚いていた。
「ほぉ──それほどの殺気を出せる人間など久しいの。……しかし、残念なことに相手は人間、か。いくら殺気がすごかろうと、今までわしが食べた人間とさほど変わりはせんのだろうな」
その言葉を聞き、ユイが白いオオカミに攻撃を仕掛けようとした──
「ユイ、冷静になれ。あんな安っぽい挑発に乗るんじゃない」
が、そこにミオが止めに入った。
「……私はいたって冷静だけど?」
「その状態でよくそんなことが言える」
「私は事実を言っているだけだよ」
どうやらユイはミオの言葉を聞くつもりはないらしい。
「まったく…………わかったよ、もう何も言わない」
ミオが止めるのをあきらめた瞬間、ユイが一瞬で白いオオカミとの距離を詰めエンリルで斬りかかった。
「単純すぎるわ」
しかし、それをいとも簡単に白いオオカミは避けた。
「くく、相変わらず人間の思考は読みやすい。少し挑発した程度で動きが単純になるのだからな」
白いオオカミがユイに対しさらに挑発する。しかしユイ自身は、
「そうだね」
まるで興味を示さなかった。
ユイはそんなことはどうでもいいと言わんばかりに連続で斬撃を繰り出す。
「なんじゃ、つまらん。せっかく楽しめると思うて助言してやったのに。これでは興醒めじゃ」
そう言って本当につまらなそうに白いオオカミがユイの繰り出す斬撃にタイミングを合せて、牙をむける。
「あぶな──」
それに気づいた俺がユイに向かって危ないと言おうとした時に、
「邪魔」
──一閃。
今までに繰り出していた斬撃とは比べ物にならないほどの速さでエンリルが振るわれた。
「がっ!」
エンリルにより放たれた一閃をまともに食らいはしなかったものの、白いオオカミはユイを食らおうとしたその牙に当たり、牙が砕かれた。
「……これが、この世界であたり前のように起こる──戦いなのか?」
記憶喪失になってから俺が持っている知識と多々違うところがあるとは感じてはいたが、こういった悪魔との戦いを見ていると、恐怖さえ覚える。
「く、くくく……なるほど、そうか。相手を油断させるためにわざと手を抜いていたのということか。確かに相手が慢心している時に緩急をつけた一撃を放つ。これほど効果的なものはないわな」
「うるさい」
「つれんな、少しくらいは話を聞いても」
白いオオカミが喋っているにもかかわらず、ユイはまた攻撃を仕掛けた。
「……本当につれんな。まぁ、よい──わしも本気で殺るか」
そういうと白いオオカミは──
「触れ振れば、厳し硬化を、爪牙につける──グランドクロウ」
何らかの魔法を唱えた。
その魔法を唱えた瞬間、牙や爪が輝いているように見える。
「……………………」
その変化を見てユイの手が止まり相手の出方を窺うことにしたらしい。
「ふふ、安心しろ。この魔法は単純にして明快、唯々己の持つ武器を強化するという魔法だ。この魔法によってわしの牙や爪がお前に砕かれることはなくなった。ただそれだけのことよ」
白いオオカミの言葉が真か嘘なのかはわからないが、相手の魔法がわからないにせよ、ここで引くわけにはいかない。
「ふむ? 来ないのか? なら、こちらから行かせてもらおう」
そうして白いオオカミの爪が迫るのに対し、ユイはエンリルを振るいそれに対抗する。ユイのエンリルと白いオオカミの大爪が交差した。
そしてそれが何度も繰り返され、白いオオカミの魔法が近づいても大丈夫な魔法と判断するとユイは守りから攻めへと体勢を変え、互いに一撃必殺と言っても過言ではないほどの攻防が繰り広げられた。
それは、とても恐怖する光景であったと同時に、とても神秘的な光景だった。
読んでいただきありがとうございますm(__)m