その 7
「じ…ん……? ジンだよ、ね?」
「おう。待たせちまったな」
ユイは俺が生き返ったことを知ると、
「あ、ああ」
驚いた顔をして、泣きそうな顔になり、
「うああぁぁぁぁあぁぁっぁぁぁ」
そのまま泣いて、泣きながら抱きついてきた。
「ジン! ジンっ! ばか、ばか。おそすぎだよっ!」
だから俺はそれを受け止め、抱きかえしてやった。
「だから言ったろ。わりぃ、遅くなったって」
「ううっ。ん、ぐすっ。そ、そうだけど、それでも、遅すぎだよ……バカ」
「そうだな。ごめん」
「…………ん。そこまでいうなら、許してあげる」
「ありがとう」
「貴様! なぜ生きている!」
俺とユイが感動の再会をしているとその再会に水をさすように悪魔が割り込むように叫んできた。
……はあ、まったく。空気が読めない悪魔だな。
「なぜって言われてもな、俺はユイを守るって約束したんだ。その約束した俺が死んじゃったら、約束が守れないだろう?」
「こんな、こんなことがあってたまるかっ!」
無視かよ。ま、いっか。今は、
「あっちゃうんだなあ。な、ユイ?」
俺がユイにそう促すとユイは泣くのをやめて、
「ぐすっ。……うん。それがあっちゃうんだよね、ジン♪」
笑顔で俺の話に答えてくれる。
それで十分だ。俺は、ユイが笑顔でいるために、ユイを守っているのだから。
「さて、ずいぶんと俺の大事な相棒を傷つけてくれたな。今から倍返しでぶっ飛ばしてやる」
悪魔のほうを向き、そう宣言する。そして、
「はっ! そこの小娘ならともかく、貴様みたいな小僧にこの私が──」
「やられちまうんだよ」
俺は持っている黒い刀で、悪魔に斬りかかった。
悪魔のほうはそれを避けようとせず、最初のユイの時と同じように掌で受けとめたが、そのまま後ろへと吹き飛ばされる。
「む?」
悪魔はそのことに驚きの視線を俺に向けてくる。
俺もさっきの三十メートルという距離を一秒で走り抜けた時に気付いたが、この黒い刀、《クロノス》という魔具を持っていると身体能力が上昇するらしい。
いや、もしかしたら身体能力が上昇するわけではないかもしれない。もしかすると、これが悪魔の言っていたこの魔具の能力というやつなのだろうか?
「どうした? 俺みたいな小僧にはやられないんじゃないのか?」
俺が悪魔に対して軽い挑発をするが、悪魔はそれを軽く無視して悪魔自身が疑問に思っていることを俺に聞いてきた。
「……貴様、なぜその刀を扱える」
なるほど。確かにそりゃ疑問に思うわな。
「なぜって、こいつがあんたではなく、俺を選んだからだよ」
「貴様みたいな人間をその魔具が選ぶだと? 馬鹿も休み休みに言え」
どうやら、この悪魔はクロの存在を知らないらしい。いや、もしかしたら俺がクロと会ったこと自体が夢なのかもしれないな。
「ふん、まあいい。それを私に返してはくれないかな?」
「そりゃ無理って話だな」
「そうか。……それなら貴様の身の程というものを教えてやろう」
「?」
悪魔がそういった後、両手を大きく開き、
「渇きを潤すために傷ついた者から血を奪え──ダーインスレイブ」
呪文を唱えた。そして悪魔の後ろに小さな赤い塊が浮かんでいた。
「……何の魔法だ?」
「ふふ。なに、すぐにわかるさ」
「?」
俺は、なにか起こるのではないかと思い一旦悪魔との距離を置く。
「…………………………」
そして何も起こらないことを確認し、悪魔に攻撃を仕掛けよとした時──後ろから誰かが倒れる音が聞こえた。
俺が後ろを向くと、そこにはユイが倒れて苦しんでいるのが見えた。
「うっ、はあ、はあ、くうぅ」
「ユイっ!?」
「小娘の心配をしている場合か?」
そう言って悪魔は俺に殴りかかってきた。
「っ!」
俺は悪魔の攻撃を防ぎ、反撃をしようとするが、俺が反撃をしようとする前にさらに悪魔からの攻撃は続いた。
「この、野郎っ!」
俺は悪魔の攻撃を防ぎきるので精一杯だった。
……確かに、いまユイのほうへ向かおうとすれば俺はこの悪魔に殺されてしまうだろう。だが、だからといってユイを放って行くわけにはいかない。
「邪魔をするなあぁぁぁ」
「はっ、咆えたところでなにも変わりはせんわ!」
少しでもユイの元へと行くため、多少無茶だったが悪魔の攻撃と同時に突っ込んで斬りにかかった。
「む?」
俺は悪魔の拳による風圧で少しばかり腕の皮がむけて血が流れたが、それによって悪魔の懐に入ることに成功した。
「らあぁ!」
そして俺はそこから一気に斬りかかった。
タイミングは完璧だった。しかし、
「あまいな」
やはり悪魔に傷がつくことはなく、ただ後ろの方へと下がらすことしかできない。
「くそっ!」
だが、俺の攻撃がまったく無意味というわけではない。悪魔を俺の攻撃で下がらすことができたのだ。だから俺もそれと同時にユイの元へと行くことができた。
「はあ、はあ」
ユイの様子は見ると、息遣いが荒く、身動きができなそうだった。
「ユイ、大丈夫か?」
「はあ、う、うん。はあ、なんとか、大丈夫かな?」
「そうか……」
ユイが無事なのを確認し、少しほっとする。
しかし、あの魔法はいったい何なのだろう?
ユイは悪魔があの呪文を唱えた後に倒れた。つまり悪魔が何かをしたのは間違いがないのだろう。
結局、何の魔法かわからず仕舞いに終わるかと思った時、俺は自分自身の体の異変に気づく。
「?」
それは、腕から何かが抜かれる感覚。俺は自分の腕を見てみると、そこから血が一滴も流れていないことに気付く。そして、ユイのほうの腕も見てみると、やはりそこからも血が一滴も流れていなかった。
あの悪魔は、呪文の時に何と唱えていた?
あの時、あの悪魔は呪文で『渇きを潤すために傷ついた者から血を奪え!』そう唱えていた。ならば、いま俺の体から抜けている感覚というのは──
「血かよ! どんな仕組みになってやがるんだ!」
つまり、あの悪魔の魔法はたぶんだが……相手が傷を負い血を流すと、そこから血を触れることなく吸い取ってくるて魔法なのだろう。
その証拠に悪魔の後ろにある赤い塊……血の塊が、大きくなっている。
「させてたまるかっ」
そのことに気付いた俺はすぐに行動に移った。
このままではユイと俺の体にある血がすべて抜かれて、二人とも死んでしまう可能性がある。それを止めるにはあの悪魔を倒し、魔法を消すしかない。
都合がいいことにあの悪魔は右腕が無く、左の眼も失っていて弱っている。
それなら──
「私を倒せるとでも思ったか?」
「な!」
こいつ、いつの間に俺の前まで来てたんだ?
「気付かないのも無理はない」
「この、野郎」
俺は、がむしゃらにクロを振り回した……いや、振り回すしかなかった。
俺にはユイやミオみたいに自分の持っている剣を、刀の扱いを知っているわけではない。
「私の魔法は、傷を負った者の傷口から君らの血を直接抜いているのだよ」
んなこと知ってるっつーの。
「そして血を抜かれることによって思考能力が低下し、身体能力が下がるのだ」
それも一応知ってる!
「そしてすべてを抜かれた時お前達の存在は消える。いや、血を抜かれている途中に抜かれた血が致死量まで行けばお前達は死ぬと言ったほうがわかりやすいかな?」
そうかよ。それなら──
「その前にお前を殺せばそれで俺の勝ちだろがっ」
「……くく、くははは」
俺が言った言葉は悪魔にとっては戯言に聞こえ、それを滑稽にでも思ったのだろう。
「ちっ、気分悪い笑い方をするな」
「いや、すまんな。あまりにも非現実的なことを言うものだから、ついな」
「馬鹿言え、かなり現実的だ、よ」
一拍置いて悪魔が見えないはずの左側の死角を突こうとしたが、
「そうか、それなら頑張りたまえ」
簡単に避けられてしまった。
あたり前だが、魔具のおかげで身体能力が上がっていたとしても、相手の魔法によって血が抜かれている今、あの悪魔が言っていた通り身体能力が下がってきている。それはつまり戦いの時間が経つごとに俺は不利になっていくということだ。
ならどうすればいいんだ?
俺には一発逆転の策なんてない。この魔具の使い方は知らず、魔法を使うことができない。
「どうした、手詰まりか?」
「さっきから──ごちゃごちゃとうるさいんだよっ!」
威勢良くしてはいるものの、やはりきつい。
俺ではこの悪魔を倒すことができないのか?
ここで、終わるのか?
「くっそおぉぉぉぉ」
……俺には、ユイを守ることができないのか?
「言っとくけど、私は守られるだけなんて御免だよ」
「え?」
「ぐわっ!」
急にユイが現れて、悪魔を蹴り飛ばした。
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