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その 6




~ユイ編~




 信じたくなかった。

 私は彼が急に走り始めたところを見て、何をしようとしているのかと、悪魔との戦いの最中ということを忘れそちらに目がいってしまった。が、それがいけなかった。彼のことを目で追ってしまったことで悪魔に少しの、ほんの少しの時間を与えてしまったのだ。

途中で悪魔のことを思い出してそちらに目を向けたが、その時にはすでに遅く、悪魔は自分が持っている黒い刀を私にではなく、彼の方へを投擲(とうてき)する構えを取っていた。

 私は悪魔が彼を狙っていることに気づき、咄嗟に──


「ジン! 危ないっ!」


 そう伝えた。けど……それは意味をなさなかった。


「え?」


 ──悪魔の投げた黒い刀が彼の腹部を刺さったのだ。


「くく、なにをしようとしたかは知らぬが、私はこの戦いを楽しんでいるのだ。その楽しみを邪魔されたら迷惑なのでな、死んでもらうぞ。小僧」


 私は悪魔に後ろから一撃を加え、さがらせた後にすぐに彼の方へと向かった。

そして、嘘であってほしかった。

彼の傷は私の魔法では治すのが不可能なほどに酷かったのだ。


「ジン! ジンっ! 起きてよ! ねえ起きてよ、ジンっ!」


 こんなの嫌だ、こんな結末は信じたくない。こんな、こんな結末──


「ジンは、ジンは私のことを守ってくれるって、約束したじゃない!」


 信じたくない。


「死んじゃったら、私のこと……守れないよ。だから、だから……」


 私が彼のことで悲しんでいると、


「かかっ、どうした小娘。私は君が全力を出せるように君を縛っていた鎖を外してやったのだぞ?」


 なんてことを悪魔は言ってきた。


「……え?」


 ──いま、この悪魔は、彼のことを、なんていった?


「こんな邪魔な鎖がなければ君も本気で戦えるだろう。さあ、楽しい戦いを続けようではないか」


 私を縛っていた、鎖? 

この悪魔は彼のことを鎖といったのか? 


「ち、がう」


「ん?」


 違う、彼は私を縛ってた鎖なんかじゃない。

彼は私にとっての……鍵。

私が私でいるのための、幸せを、自由を得るための、鍵。


「もしや、そんな小僧のために悲しんでいるのか?」


 だったら、だったらなんだっていうの!


「やめておけ、時間の無駄にしかならん」


 ブチッ!


 その言葉を聞き、私の中の何かが切れた。


「あは」


なぜ、彼は死んでしまったの?


「あははは」


……悪魔が殺したから?


「あは、あははは」


────そうだ。


「あはは、あははははははは」


………………悪魔が殺したから、彼は死んでしまったんだ。


「あは、あはは、あははははははははははは」


……………………それなら、悪魔がいなければ彼は生きていただろうか?


「あはははははははははははははははははははははははははは」


──────────そうだ。悪魔をすべて殺そう。そうすれば……──


「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」




──ならまず、この悪魔から──




「殺そう」


「ぬっ!」


 私は悪魔との距離を瞬く間に詰めた。そのことに対し、悪魔は驚いているらしい。だけどいま驚いて体を硬直させてると、こんなふうに──


「がぁぁあぁぁああ!」


──眼が抉られるよ?


「あは♪ どうしたの、それでお終いなの? ほら、あなたが楽しいって言った戦いだよ?」


「き、貴様ぁ!」


 威勢がいいなぁ。

そうだ、鳴かせてみよう。威勢が良い分、いい声で鳴いてくれるはずだ。


「いい声で鳴いてよ?」


 私は悪魔の右腕を斬り飛ばした。少し前までは傷つけることさえできなかったが、今は違う……。


「いぎゃぁあぁあぁぁぁぁ」


「あはは、汚い鳴き声。もっと綺麗に鳴けないの?」


 今は、グラムの意識がほとんど出ている。だから身体能力はもちろん、魔力の扱いも格段に上がり、何もかもがうまくいく。

 そんな私の豹変に悪魔が疑問の目で私のことを見てくる。


「──くっ、……何者なんだ、貴様は」


「何って、ただの人間だけど?」


「何が人間だ。……貴様の、いまの顔が悪魔でなく、何だというのだ。そこらの悪魔より、よっぽど悪魔らしいではないか」


「心外だなあ、悪魔にそんなこといわれるなんて、ショックだなあ。ショックすぎて、笑いたくなっちゃうかな。あはっ♪」


 私はそのまま悪魔を蹴っ飛ばした。


「がっ!」


…………こんな悪魔では、だめだ。

こんな悪魔では悪魔を殺したという実感が持てない。


「もういいや。死んでよ」


 そしてエンリルを振り上げ、振り落とそうとした瞬間──


「待て、待ってくれ、殺さないでくれ!」


 悪魔が命乞いをしてきた。


「待つはずないじゃん」


 だけど私はその命乞いを無視して、そのまま振り降ろそうとして──


「あの小僧を生き返してやるっ!」


 ──止まった。


「……そんなこと、できるはずがない」


「何を言っている、ここは儀式の塔といわれる場所だぞ。その効力は君も知っているだろう?」


「知ってるけど……それは」


「君は人間だから、この塔の使い方がわからないだけだ。悪魔なら誰でもこの塔の使い方を知っておる」


「そんなはずは、ない……」


 しかし、そうわかっていても、すがりたかった、


「できるはずがないんだ」


 彼ともう一度会えるかもしれない希望に……。


「……本当に」


「ん? なんだ?」


「本当に、彼を生き返せることができるの?」


「ああ、できるとも」


 その言葉を聞き、私が喜ぼうとすると、


「嘘に決まっているだろう」


 ──不意を突かれ、腹を殴られた。


「がはっ!」


 気付くと、私は膝をついて腹を押さえていた。


「本当に人間はくだらんな、そんなありえもしないことを信じるとは」


「ぐぅ、あ…………か、かれは、彼は……生き返らないの?」


「かかかっ、こいつは傑作だ。まだ信じられないのか? あの小僧は死んだ、もう生き返ることはない。生き返すことなどできるはずなかろう」


 先ほど、彼が生き返ると聞いて、私の意識がグラムの意識より前に出始めた。そして、さっきの悪魔による攻撃により、完全に私の意識が前に出てしまった。


「形勢逆転だな、小娘」


──死にたい。


「私は君のように愚かではないのでくだらないミスはしない。完全に息の根を止めてみせよう」


 彼がいなくなったのなら、私はもう生きたくない。


「それでは、さようならだ」


──けど、すぐに思い直した。

……生きたい、と。

だって、彼は私にこう言ってくれた、


『俺がユイを守ってみせる』


 だから、守られる私は生きていなくちゃいけないんだ。

 だったら──


「私の」


 だったら私のことを── 


「私のことを守ってよ! ジン!」


「ふん、最後までくだらない希望にすがるか……つまらん。もうよい、死ね」


 そう言って悪魔は拳を握り、それを振り降ろそうとしていた。

私はそこで目を瞑って、彼のことを信じていた。

きっと助けてくれると、彼なら私を守ってくれると、信じた。





「………………………………」





 どのくらい経っただろう、正確な時間はわからないが、私には永遠にも匹敵するくらいの時間がたったような気がした。

そして……目を開けると、私の前に彼はいた。


「わりぃ、遅くなったな。約束通り守りに来たぞ」


──ジンが、私を守ってくれた。






 ~ジン編~






 目を覚ますと、俺は塔の中心で倒れていた。

……俺は、生き返れたのか?

変わったところといえば、魔具である一振りの黒い刀、クロノス──通称クロを右手に持っていたことだろう。

これって確か俺の腹に刺さってたはずだよな?

 俺は自分の状況を確認し、周りの状況を確認していると、


「私のことを守ってよ! ジン!」


 ──ユイの声が聞こえた。


守ってよ? ということは……ユイがピンチなのかっ!


「ど、どこだ?」


 周りをぐるっと見て、ユイと悪魔を確認した。悪魔がユイに何かを言っている。俺はユイの状況が分からなかったが、ユイが俺に助けてと言ったのだ。

 そしてすぐに状況を理解した。悪魔が拳を握り、ユイを殺そうとしている。本来なら殴られた程度で死にはしないだろうが、相手は人ではなく悪魔だ。きっとそれだけで人を殺せてしまうのだろう。


「やば──」


 俺はすぐにでも助けに行きたかったが距離にして約三十メートル、ユイやミオならともかく、俺ではどう考えても間に合わない距離だ。

しかし、だからといって諦めるわけにはいかない。

とにかくユイのもとへ走った瞬間、俺は、三十メートルはあるだろう距離をわずか一秒足らずで駆け抜け、そのまま悪魔に持っていた刀、つまりクロノスで一撃を喰らわせ、後ろに下がらせた。


 あまりにも無我夢中でなにをどうやって悪魔を下がらせたのかはもう覚えていない。が、どうやら俺は……悪魔からユイを守れたらしい。

それが嬉しくて、つい──


「わりぃ、遅くなったな。約束通り、守りに来たぞ」


 なんて格好つけて見た。



ヤンデレ? いいえ、純粋な愛ですww


読んでいただきありがとうございますm(__)m


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