その 5
目を覚ますと、俺は白い四角型の空間に閉じ込められていた。
「どこだ、ここ?」
まったく何も分からないのもあれなので、なにか、俺がここにいる理由がわかる手掛かりがないか探そうと立ち上がったその時に──
「ほう、わしの部屋に客が訪れるとは、珍しいこともあるものじゃな」
「は?」
急に後ろから話しかけられた。俺が声をしたほうに向くと、
「誰だ、おまえ?」
そこには、黒い髪に、黒い服を着た少女がいた。というよりむしろ幼女って感じだな。
「うむ、わしの名前か? わしの名前はクロノスという。親しみを込めてクロと呼ぶがいい。よろしくの」
「え? ああ、俺の名前は黒野ジンだ。ジンとでも呼んでくれ」
──じゃなくて、
「誰だよお前?」
「? クロノスと名乗ったであろうが」
「違う、名前じゃなくてだな、その」
「?」
こういう場合なんて言えばいいんだろう?
「聞くことがないのなら、わしから話してよいか?」
「え? ああ。……いい、かな?」
まあ、言い方もわからないし、別にいいかな?
「それでは言わせてもらうが、軽々しく死ぬではない」
「……………………は?」
「ん? なんだ、聞こえなかったのか? それならもう一度言ってやろう。軽々しく死ぬで──」
「聞こえてる。聞こえてるから!」
「なんじゃ、聞こえておったのか」
あれだけ近くで声を出されたら普通聞こえるだろ。
──って、まてまて、そうじゃない。こいつは今何て言った? 死ぬんじゃないだと? 誰が死んだんだ?
「誰って、おぬしじゃよ、おぬし」
「?」
「後ろを向いても誰もおらんわ」
「???」
「上を向いてもおらんな。というかだな、上に誰かいるとでも思ったのか?」
「……ということは、まさか、オレ?」
「さっきからそう言っておるだろ」
「………………嘘だろ?」
「嘘ではない。死んだ時のことを覚えておらんのか?」
「死んだ時の、こと?」
『ジン! 危ないっ!』
『くく、なにをしようとしたかは知らぬが、私はこの戦いを楽しんでいるのだ。その私の楽しみを邪魔をされるたら迷惑なのでな、死んでもらうぞ。小僧』
『ジン! ジンっ! 起きてよ! ねえ起きてよ、ジンっ!』
「そう、だ。俺はあの時」
俺はあの時、悪魔に腹を刀で刺されて──
「死んだ……のか」
「その通りじゃ。おぬしはあの時、悪魔によって殺されたのじゃ」
「はぁ……ということはなんだ、ここは天国とか地獄みたいなところか?」
「違うはどあほぅ」
「どあほぅって」
「ここは死と生の狭間みたいなところかの」
「?」
「……つまりだな、おぬしは完全には死んでおらんということじゃ」
「は? いや、でも」
さっき俺は悪魔に殺されたとかなんとか言ってなかったか?
「それは肉体の話じゃな。今言っておるのは魂の話じゃ」
「はあ……?」
だめだ。何を言っているのかまるで分らない……。
「わからんという顔をしておるの」
「ああ、まるでわからん」
「……まったく、おぬしは頭が悪いのう。一から十まで全て説明せないかんのか」
「……わるかったな、俺の頭が悪くて」
「本当じゃな。さっさと頭を土に下ろしたまま座って謝罪しろ」
「………………」
──それは土下座をしろと言いたいのか?
「ほれ、さっさとせぬか」
「む……」
抵抗はあったが、状況が状況なので仕方なく……仕方なく、土下座をした。
「そこは土の上ではないじゃろうがっ!」
「そこって怒られるところなの!?」
……無茶苦茶だ。周りに土なんてないのにどうしろというんだ?
「まあ、今回はおぬしの頭の悪さ加減に免じてしかたなく許してやろう」
「全然免じてねえよ!」
「それでは説明するが」
無視かよ! ……最近、俺って無視されることが多いよなあ。
「おぬしは自分がいた塔にどんな効力があったか、知っておるか?」
「俺がいた塔の効力? あの塔の効力は確か……その場で死んだものを蘇らせる、とかいう塔じゃなかったっけ?」
「その通りじゃな」
……ん? いや、まて、俺が死んだ場所って──
「まさか、俺はまだ生きているのか?」
「半分正解で半分不正解じゃよ。さっきも言ったであろう? 肉体は死んでおるが魂は生きている、と」
「あ~、そういやそうだったな」
「今はその魂も死にかけておるけどな」
「──っておい!」
「安心せい、今すぐ死ぬわけではあるまい」
いやいや、安心できねえから。
「だから、塔の効力があるじゃろうが。つまりおぬしが言うべき言葉は、生きているのか? ではなく、生き返るのか? が正解じゃ」
「なら聞くが、俺は生き返ることができるのか?」
「できる」
マジかよ。魔法ってなんでもありだな……。
「この塔には全部で三十階あるが、その一階一階に魔方陣が仕込んであるのじゃ」
「魔方陣が?」
「うむ。その魔方陣を組み合わせ、最上階の中心でのみ蘇生魔法が発動するようになっておる」
そんなはずはない。俺とユイは塔の隅々を探し回ったはずだ。それなのに魔方陣はおろか、落書きの一つだってなかったはずだ。
「そりゃそうじゃろ」
「? どういうことだよ」
「塔の上の階と下の階の間……つまり一階の天井と二階の地面、その間に魔方陣を仕込んでおる。普通に調べただけでは見つかるはずがなかろうに」
「……そうだったのか」
なるほど、それなら誰も見つけられねえな。というか、
「この塔は何で創られたんだ? 確か生贄にした人間を生き返すためとかなんとか聞いたんだけど」
「ん? ああ、かなり昔にそんな事をしていた奴がおったの。しかし、この塔が創られた理由はまったく違うぞ?」
「そうなのか?」
「うむ。……実際のところは病気や怪我を負った人間を治すために創られた塔なのじゃ。ちなみに結果は怪我を治すことに成功したが、病気は治すことには失敗したといったところかの。本来ならば病気のほうも治せるはずなのじゃが、どこかで魔方陣を書き間違えたのだろうな」
へえ、そうだったんだ。
──って、何でこいつそんなことを知ってるんだ?
「まあ、今はそんなことどうでもよかろう。それよりじゃ……おぬし、早く戻った方がいいと思うぞ?」
「は?」
「おぬしの魂が死にかけておるといったであろう?」
「いや、でも塔の中心にいれば生き返れるんじゃ……」
「肉体はな。魂までは蘇生できん」
「……………………」
「どうした?」
「よし──今すぐ生き返してくれ」
「……せっかちじゃなあ」
「生きるか死ぬかの瀬戸際にのんびりできるか」
いまさらだが、こんなことをしている間にもユイとあの悪魔は戦っているはずだ。なら、俺だけここでのんびりするわけにはいかない。
「わかっておる。じゃがな、わしがどうこうしておぬしを生き返すわけではない」
「?」
「おぬしが生き返りたい、そう強く念じればすぐにでもおぬしの肉体は再生され、魂が肉体に戻り生き返ることができるということだ」
「それを一番最初に言えよ……」
それなら生き返りたいと強く念じれば、すぐにでも生き返れるのか?
「いや、すこし時間が必要じゃ。しかし、時間が経てば後は勝手に生き返ることができるはずじゃよ」
「そか。……一応礼を言っておくよ」
塔の存在理由もわかったし、生き返り方も教えてもらえたしな。
「……………………」
「急に黙るなよ」
「いや……やはり、おぬしはおもしろいなと思っただけじゃよ。それと、わしはおぬしのことを気に入ったぞ」
「はいはい。ありがとう」
それと、やはりってなんだよ。
「さてと……」
そういって、クロは自分の胸に手を突っ込んだ。
「──って、おいっ! 何やってんだっ!」
「ん? なんのことを言っておるのじゃ?」
「いやいや、何の事って……胸に手を突っ込んでいることを言ってるんだけど」
「突っ込むとかエロいの~」
「それはもういい!」
俺がそんなことにツッコミを入れていると、
「さて、冗談はおいといて、と。本当はこいつをおぬしにあげようと思ってな」
クロは胸から手を抜きだしていた。
──その手には一振りの黒い、何の装飾もされておらず、何も知らない子供のような、とても純粋な黒い刀があった。
それにこの感じ──
「それって、もしかして、魔具、なのか?」
ユイやミオが持っている魔具と同じ感じがする……。
「よくわかったのう、正解じゃ。正解ついでにこいつをおぬしにくれてやろう」
「え、いや、でもいいのかよ?」
魔具って確か、貴重な道具だったような……。
「なにがじゃ?」
「いや、なんでもない。クロがいいなら、貰っておくよ」
「うむ。それでよい」
そうして俺はクロから黒い刀を受け取った。
俺が黒い刀を手にすると──
「……あ、それはそうと」
と、クロが何かを思い出したらしい。
俺がどうしたのかと黒い刀からクロの方へと顔を向けると、
「言い忘れたいが、あと少しでおぬしの魂が完全に死のうとしておるぞ?」
なんて爆弾発言をした。
「…………は?」
「このままじゃとおぬしは肉体と魂、両方とも失うといっておるのじゃ」
さすがにこのまま死ぬのは嫌だぞ!
俺は必死になりクロにどうすればいいか慌てて聞いた。
「えっと、お、おい! どうすれば生き返れるんだったっけ?」
「生き返りたいと念じれば生き返れるわ」
「あ、そうだったな」
ええと、戻りたい。そう、俺は生き返って、ユイのもとへと戻りたいんだ。
〝生き返してくれ〟
そのことを強く念じると、俺の体は徐々に消えていく。
「これって……」
「うむ。それでよい。それでおぬしの体は再生され、魂が肉体へと戻るじゃろう」
「そうか…………色々と、その、ありがとうな」
そこで、俺が礼を言うとクロは複雑そうな顔をして、
「……………………」
「どうした?」
「いやなに、ワシの方こそすまなかったのう」
逆に謝ってきた。
「?」
俺はなんのことを謝ってるかわからずにいると、クロが俺の腹を刺していたのワシだという。さらに俺はクロが言ったことが分からず、困惑していると途中で俺はあることを思いついた。
っておい、まてよ。クロに言われて気付いたが、この黒い刀ってあの悪魔が持っていた黒い刀じゃねえか──
「おまえ、まさか?」
この黒い刀自体がお前なのか?
「うむ、その通りじゃ。ワシこそがその黒い刀、魔具自身じゃ。つまりワシはあの変態悪魔よりおぬしを選んだ。そういう意味でおぬしにワシをくれてやったんじゃぞ」
そういってクロは俺が持っている黒い刀に指をさす。
「だから……ワシのことをうまく扱ってくれろよ、おぬし。いや、御主人様よ」
俺はその時、何かをクロに伝えようとするが、どうやら生き返る時間がきたらしく、俺はクロの前から消えていった。
読んでいただきありがとうございますm(__)m




