その 3
いや、どっちかっていうと、星空から悪魔が降臨した──の方がそれっぽいな。
「……マジですか?」
「おっ、街の人に聞いた通りの時間に現れたね♪」
「いやいや、俺は聞いてないっすから」
「まあまあ、とりあえずジンは離れたほうがいいよ」
「どうして?」
「どうしてといわれても……悪魔がみえてから私の意識にグラムの意識が入り始めて混ざり合ってきてるから、かな」
「あー、わかった。なるべく遠くに離れてユイの邪魔をしないようにするよ」
……はあ、ユイを守るとか言ってきながら俺が守られるなんて、格好悪いにもほどがあるよな。
でも、いまの俺がユイを助けようとしたところで邪魔にしかならない。迷惑をかけるだけになってしまう。それは嫌だ。
俺がそんなことを考えていると、ユイはエンリルを抜き出して、戦闘態勢に入る。
そんなユイに対し悪魔のほうは……ただ立っているだけで何もしてこない。
…………なんでだ?
今まで出会った悪魔はすべて好戦的だった。なのに、この悪魔は敵意をまるで見せない。
…………不気味だ。
姿かたちはいままで出会ったどの悪魔とも違い、悪魔らしい姿をしていないことだ。どちら方というと、悪魔というよりは人と似ている気がする。
違うところといえば、翼や角が生えていることくらいだろうか?
「……………………」
いままで出会った悪魔とは根本的な何かが違うように思えてしかたがない。
「さて、私はここに星を見に来ただけなのだが、どうやら無粋なものたちがいるようだな」
星を見に来ただけ? 本当にそれだけの理由でこの塔に来たのか?
「……へえ、星を見に来ただけ、ね。私はここに来た人たちが食べられたって聞いたけど?」
「その通りだが、それがどうかしたかな? 星を見ながら人間を食うのはなかなかの美味でな、気に入っているんだよ」
あの野郎、ずいぶんと胸糞悪い話をしやがるな。
「そう、なら私達も食べるつもりなの?」
「もちろんだとも。君も食べるし、君の後ろにいる人間も食べる。弱い者が強いものに殺され、食われるのは世の常だろ?」
……確かにそうだな。
「そうだね、その通りだよ」
「ほう、人間が今の言葉を聞くと大抵は怒るのだが。まさか、私の考えに共感できる人間がいるとは、嬉しい限りだな」
「嬉しいの? その考えが共感できるっていうことは」
「いまここで私と君が殺し合うと、そう言いたいのだろう」
「……正解だ、よ!」
そう答えながらユイは悪魔との間合いを詰め、エンリルで悪魔の首を切断しようと斬撃を繰り出した、が──
「なんだ、先手をやったにもかかわらず、この程度のことしかできないのか」
悪魔はその斬撃を避けるでもなく、掌でユイの斬撃を受けとめた。
嘘だろ!? 最初に会った悪魔や白いオオカミの悪魔を切り刻んできた斬撃だっていうのに、それを物や魔法で防ぐでもなく、ただの掌で受けるなんて!
「正直がっかりだぞ、君は口だけなのか?」
「──っつ! 言ってくれるじゃないの!」
ユイがその言葉を聞いた瞬間、
「はあぁあぁぁぁ!」
斬撃を受けとめられた手ごと悪魔を力押しで吹っ飛ばした。
……ユイの細い体のどこにそんな力があるんだろう?
「くくく、やってくれたなあ、小娘がっ!」
「そう? それにしても、喋り方が一気に荒くなったね。もしかしてそっちが地の喋り方なの?」
へえ、なるほど。それを聞くとさっきまでの不気味さが薄れてくるな。
そっちの方が悪魔らしくて、とてもわかりやすい。
「……口の聞き方には気をつけたほうがいいぞ」
「どうして?」
「すぐに殺したくなってしまうだろう。私は君を嬲殺したいのだ。それなのにすぐに殺してしまったら、興醒めもいいところではないか」
「あんた趣味悪すぎだよ」
同感だな。
「それは褒め言葉として受け取ろう」
悪魔の方は勝手にユイの嫌みを褒め言葉として受け取り、いきなり自分の腹に手を突っ込んだ。
「は?」
俺はその悪魔のあまりにも突然の行動に唖然として固まってしまった。
ユイは逆に何かが来るのではないかと予想したのだろう。構えを解かず、悪魔に警戒したままじっとしている。
とうの悪魔は自分の腹に突っ込んだ手を何かを引きずり出すように抜いた。そして、──その手には一本の黒い刀が出てきた。
「さて、これで準備は整った。殺し合いを再開しよう」
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