その 5
「どういうことだよ、それ。笑えない冗談は好きじゃないな」
「そうだね。笑えない冗談だったらいいんだけど、事実だから」
「意味わかんねぇよ」
なんだって悪魔よりユイのほうが危険なんだ? 理解出来ないね。
「本当にわからないの?」
……どういうことだ?
「わかるはずないだろう。どう考えたらわかるようになるんだよ」
「私が危険な理由なんて、少し考えればわかるはずだよ」
「あのな、いくら考えてもわからな──」
ユイが危険? まてよ、ユイの危険なところなら、一つ知っている。
「わかったみたいだね」
「──もしかして、狂人化のことを言っているのか?」
「その通り。それが正解」
「まてまて、正解って」
そんなはずがないだろう。
「ジンも見てたでしょ? 私が悪魔と戦っているところを、私がミオちゃんを殺そうとしているところを」
見た。確かに見た、が。
「それでもユイは止まってくれたじゃないか……」
そう、俺が止めた時に止まってくれた。それなら今回も──
「止まれないよ」
「……どうして?」
「あの時とは、違うから」
「?」
あの時と違うところなんて、たいしてないはずだか。あるとしたら場所と、ミオがいるかいないかくらいじゃないのか? 可能性としてはミオが関係してる可能性が高いかな。
「どっちもはずれだよ」
「えっ?」
「ミオちゃんも場所も関係ないんだ。問題なのは私、私なんだ」
ユイが問題、ね。
「それはそうだろ」
「……そこはどうしてなのかって、疑問に思う所じゃないかな?」
いや、そう言われても、
「元々ユイの狂人化が問題なんだから、特に疑問には思わないな」
「そうだけどさ~、なんか納得いかない」
「そう言われても…………」
どうすればいいんだよ……。
「ま、いっか。話を続けよ。どうして私が狂人化するのか、理由を教えるよ」
「…………え? でも……それって、話してもいいことなのか?」
「ん? どうしたの急に」
「いや、だって……ミオに理由を聞かれた時は嫌がってたじゃないか。それって、ユイが狂人化する理由について話したくないってことだろ。なのにそんな重要なことをまだ会って間もない俺なんかに話していいのかよ?」
俺みたいに数日前まであったこともなかった奴に話すより、ミオとかもっと頼りになる奴に話した方がきっと……。
「それは違うよ」
「──えっ?」
「私はジンだから話したいって思ったんだ。だから『俺なんか』なんて言わないで」
「あ、はい」
「うん、それでよし」
つい返事をしてしまったが、よかったのだろうか?
「よかったのです」
「人の心を勝手に読むなよ……」
「それはしょうがないよ、わかっちゃうんだから」
それは困る! 今はいいがあんなことやそんなことを思い浮かべている時に心を読まれたら、
「大丈夫だって」
「………………」
「どうしたの?」
いや、そうだな。それに──
「気にするだけ無駄だしね」
……今度は思い浮かべてる途中に俺の心を読みやがったな。
「それじゃあ、私はジンだから私が狂人化する理由を話すよ」
「……ああ」
俺なんか、じゃなくて──俺だから、話してくれるのか。
そう言われると案外嬉しいもんだな。
「それじゃあ、話すね。これから話すのは私が子供の頃で──私と、ある悪魔との関係についてのお話」
「おお、なんかそれっぽい話の雰囲気になってきたな」
「茶化さないの」
……すんません。
「それで話の続きだけど……私の村ではね、村の人たちとグラムっていう一体の悪魔とで一緒に生活していたんだ」
「悪魔と一緒に生活してたのか?」
「そ、珍しいでしょ?」
「いや、俺は元々の記憶がないし、ユイと一緒に悪魔退治してまだ間もないから珍しいのかどうなのかはわからないし。……珍しいのか?」
「珍しいよ。悪魔と一緒に生活するなんて普通はあり得ないもん。悪魔といえば性格は野蛮で凶暴、他の種族とは殺し合いしかしないって関係だからね」
そうなのか。確かに今まであった悪魔の性格は野蛮で凶暴だったけどな。
「それでね、私の村で一緒に生活していたグラムだけど、この悪魔は特殊だったんだ。何が特殊かっていうと、性格が悪魔らしくなかったんだよ」
悪魔らしくなかった?
「グラムの性格は野蛮でも凶暴でもなく、穏やかっていうか優しい性格だったんだ」
「優しいって、悪魔が?」
「そう、優しいの。例えば私が重たいものを運んでいるとそれを手伝ってくれたりとか、私達が住んでる村に賊が来たりしたら追い払ってくれるんだ。それはもう村の一員みたいな感じで」
それは、確かに悪魔っていう感じではないな。
「それで、私がまだ六歳くらいでお母さんの誕生日の時の話なんだけど、私はその時、お母さんに何かプレゼントをしてあげようと思ってたんだ。そこでね、友達にどんなものがいいのか相談したんだ。そしたら、私が住んでいた村の近くに森があるんだけど、その森の奥にきれいな花が咲くっていう噂を聞いたんだ。……だけど、そこに一人で行くのは危ないし、不安だったからグラムに一緒について来てくれるようにお願いしたんだよ」
「……その友達と一緒にはいかなかったのか?」
「その友達だって私と同じ年なんだから、危険性や不安の大きさとかはたいして変わらないよ」
「なるほどね」
「そういう訳で、グラムと一緒に森の奥にきれいな花を探しに行ったんだ。森の奥に行くには子供の足じゃきつくてね、あの時はグラムがついて来てくれて本当によかったと思ってたんだ」
「思ってたんだって、過去形だぞ?」
「過去形なんだよ。私があの時グラムに手伝ってなんて言わなかったら良かったって、いまでも後悔してる。私がグラムに手伝ってなんて言ったのは過ちなんだよ」
「それまた、どうして?」
「私がグラムと一緒に森の奥へと行っている間に、私の村は燃えていたんだ」
「──燃えてた?」
「わかりにくかったなら言い方を変えるよ、悪魔に燃やされていたんだよ」
「悪魔にって、……まさかグラムに」
「違うよ、グラムじゃない。それに言ったでしょう、グラムは私と一緒に森の奥に花を取りに行ったって」
「あ、確かにそうだな。でも、そうなるとその悪魔っていうのは」
「そう、野蛮で凶暴な悪魔のことだよ」
「………………」
「さっきも言ったけど、いまでも後悔してるんだ。あの時に私がグラムに手伝ってなんて言わなかったら、あの時にグラムが村にいればって。村が、村にいるみんなが……助かったかもしれないって」
「それは」
「違うなんて言わないでよ。私の──私のせいで村のみんなが、友達が、家族が死んじゃったんだから!」
「ユイ……」
「……それでね、私は悪魔に燃やされている人や村を見て私も殺されると思った。だから私はグラムに願った」
『私は死にたくない! みんなを殺した悪魔から、野蛮で凶暴な悪魔から、私が生き残れる力を貸して! 私を、守って!』
────私は、グラムにそう願ったんだ。
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