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その 4



 ん、んん? 周りが暗い。ここは一体?



「あ、起きた?」



「えっ?」


「おはよう、というのも変かな? まだ周りは暗いし日が昇るまで時間があるし」


「ユ、イ?」


 俺が起きると目の前にユイがいた。目の前っていうより見上げているって言ったほうが正しいかな。にしても、枕なんてあるはずねぇのに後頭部に柔らかいもんがあって気持ちいいな、このまま二度寝したくなるぜ。


「調子はどう?」


「え、ああ。別段変ってはいないと思うが……」 


──ん、まてよ? 

ユイを見上げていて、後頭部になにか柔らかいものがあるってことは、


「なっ!」


「ん、急にどうしたの?」


「どうしたのって! お、俺の頭がある場所って──」


「? 私の膝だけど」


 なに! もしやこれは、ひ、膝枕なのかっ!


「いや~、ごめんね。本当はもっときちんとしたところで寝させたかったけど、さすがにこの森の中でそういった場所がなかったからせめてもと思ったんだけど、余計なお世話だったかな?」


「い、いや、全然。全然そんなことはないぞ!」


 むしろ嬉しいくらいだ。というか、


「あの、俺はなぜこんな状況になっているんだ?」


 こんな嬉し恥ずかしい状況になった理由がまるでわからん。俺はいつの間に寝たんだ?


「なぜって、ジンがいきなり鼻血を噴き出して、気絶したんだよ。覚えてないの?」


「………………」


 ……あっ、ああ!

 そういえばあの時ユイにからかわれて、そんでもって俺は……。


「ジン?」


「い、いや、なんでもない」


「……私はまだ何も聞いてないけど、なにがなんでもないの? それと顔が赤くなってるけど、やっぱり調子がまだ良くないんじゃないかな」


「そ、そんなことはないぞ?」


 くっ! ……からかわれたことを思い出して顔を赤くするって、俺はどれだけ純情なんだよ!


「なんで疑問形なのかな?」


「そんなことはない!」


「断言されてもそれはそれで困るんだけど……」


 あ、なんかユイが呆れ顔になってる。なんでだろう?


「えっとね、起きたならそろそろ頭をどけてほしいんだけど、足がそろそろ限界で」


「えっ? あ、すまない!」


 ユイの膝に頭を乗せていたことをすっかり忘れてたわ。


「ううん。別に私が好きでやったことだし、ジンが謝る必要はないよ」


「それでも、俺が悪いと思ったから謝ったんだ」


「……ジンって律儀だよね」


「そうか? そんなつもりはないけど、まぁ恩を仇で返したくないだけだよ」


「恩って、いくらなんでもそれは大袈裟だよ」


「そんなことはないっ!」


 女の子に膝枕してもらうなんて、それはもう大恩だぞ!


「俺にできることがあれば何でも言え。できるだけのことはやろう」


「そう?」


「ああ、もちろんだ!」


「それならね……」


 ん? もう言うのか。別に今じゃなくてもいいのだけど、ユイがもう決めているのならいいか。


「私にも膝枕して♪」


「へっ?」


 ──いま、なんていった?


「む、……できるだけのことはするって言ったのに、さっそく約束を破るの?」


「そういうわけじゃないけど、いいのか?」


「なにが?」


「いや、だから、俺なんかの膝枕で」


「うん。私はジンの膝枕がいいんだ」


「そうか、……それなら別にいいんだが」


俺はそう言って足を崩して頭を乗せやすくすると、ユイが頭を乗せてきた。

これは俺がユイに恩を返すっていうより、さらに恩を貰ってるように思える。


「う~ん。これはいいね♪」


「そうか? 男の膝なんて硬くて頭が乗せにくくないか?」



「……そんなことないって、私は結構気に入ったよ。これ」


「そんなもんか?」


「そんなもんだよ」


 ユイの顔を見る限り幸せそうだから嘘を言ってるわけではなさそうだけど、やっぱり信じられないな。


「……そういえば夜が明けたら塔の調査に行くんだよな?」


「そうだけど、それがどうかしたの?」


「どうかしたって、俺は調査しに行く塔についてはまだ何も聞かされてないぞ」


「あっ、そういえばそうだね。私はもう説明したつもりでいたよ」


 やっぱりか。


「そのやっぱりか──っていう顔は、私が馬鹿にされている気がする」


「違うのか?」


「……違わない」


 そこは肯定しなくても……まぁ、否定もできないだろうけど。


「──で、塔について教えてほしいんだが」


「そうだね。ただ私も詳しくはわからないよ」


「? 依頼書に書いてあるんじゃないのか?」


「それが塔の調査に行け、それと塔に関する情報を近くの村にいる人に聞くこと。としか書いてないんだよね」


「それは、なんというか……」


 ……ご愁傷様だな。


「ううん、別段珍しくはないしそんな気を使わなくてもいいよ。それに街にいた時に近くの村に行って、この塔についての情報は聞いたしね」


「そうなのか?」


 それじゃ、街で俺が寝ていた時にユイは街の人に聞き込みをしに行ったってことか? 

……まったくもって俺って役立たずだな。


「さてと、それじゃあ塔についての説明だけどここで調査することは二つあるんだ。一つ目はこの塔が一体何に使われていたか、つまりこの塔の存在理由ってやつかな?」


「塔の存在理由?」


「そ。この塔ってね、数百年も前からあるんだ。いわゆる古塔ってやつだね」


「……なぁ、それならわざわざ調べる必要なんかないんじゃないか?」


「どうしてそう思うの?」


「だって、古塔なんて呼ばれるくらい古いんだから前に誰かが調べたりしてるんだろ? それなのにわざわざ調べに行くなんて無駄じゃないか」


「そうだね。確かにジンの言う通りだよ」


 それならなんで『どうしてそう思うの』なんて聞いたんだろう?


「でもね、この塔については何も情報を得られてないんだよ」


「は?」


「私たち以外にもこの塔を調べた人たちがいるんだけど、誰もこの塔がなぜ建てられたかまったく不明なんだ」


「いや、それこそおかしいだろ。前にも調べた人がいて、結局は何もわからなかったんだろ? なら俺達が言っても同じことになるんじゃないか?」


「まぁそうなんだけどね。それでも数年に一回は誰かが調べに行くことになってるんだ」


「……ああ、そういうことか」


 つまり、はずれくじを引いたようなものか。


「わかってくれたかな?」


「なんとなくならわかった」


「そっか。でも、まだ話は続くよ」


「?」


「実はさっきは塔の存在理由は不明っていったけど、噂はあるんだ」


「噂?」


「そ、あの塔では人を生贄にある儀式が行われていたっていう噂」


 塔で生贄って、ベタな噂だな。


「へえ。それで、人を生贄にすると何が起こるんだ?」


「これも噂でしかないんだけど──生贄にした人間が蘇るんだって」


「はぁ?」


 なんだそれ。


「そんなことして何になるんだよ、わざわざ生贄として殺した後にまた生き返すってことだろ? 意味ないじゃんか」


 俺がそう言うとユイも困っているような顔をした。


「そこなんだよね。私も死んだ人間を蘇らせるために生贄を出すならまだ納得がいくんだけど、生贄で殺した人間を蘇らせてどうするのか、ここがまるでわからないんだ」


 ……そりゃ、わからないだろ。殺しては生き返し、殺しては生き返す、そんなことを繰り返して生まれる利なんてわかるはずがない。


「ま、これはそこまで重要じゃないから二つめを説明しようかな」


「え、重要じゃないのか?」


「そりゃね、これは数十年も前から調べてわかっていることだから、それをここ数日でどうにかするのは、無理ってものだよ」


 そういわれると、そうだな。


「わかってくれた?」


「あいよ」


「それじゃ、二つ目だね。こっちは悪魔の目撃情報について調べなくちゃいけないんだ」


「……悪魔がいるのか?」


「さてね。目撃情報があるからいるとは思うけど、見間違いって可能性もあるから絶対とは言えないかな」


「そう、なのか」


「そうなんです。けど、気を張っていて損はないかもね。今回はいる可能性のほうが高いと思うし、気を抜いてて殺されたら死ぬに死ねないでしょ?」


「そりゃそうだ」


「ま、悪魔より気をつけなくちゃいけない相手もいるけどね」


「は? 悪魔より気をつけなくちゃいけない相手?」


 なんだそれは、悪魔より気をつけなくちゃいけないってことは、悪魔より強いっていうか危険ってことだよな? そんな奴がいるのかよ。


「そいつってどんな奴なんだ?」


「どんな奴だと思う?」


 さて、悪魔より危険な奴なんて想像できねぇぞ。


「ふふ、悩んでるねぇ」


「ん? おい、ちょっとまて、もしかしていないのか?」


 もしや、またしても俺はユイに踊らされていたのか?


「ううん、ちゃんといるよ」


「いるのかよ」


「もちろん。だって」


「だって?」


 そこでユイは俺の膝枕から起き上がり──




「私だもん」




 ユイは俺にそう告げた。


読んでいただきありがとうございますm(__)m


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