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その 9


 互いの剣が交差する度に、衝撃波が起こる。その衝撃波は俺のいたところにまで届き、そして俺が後ろに倒れてしまいそうなくらいの勢いだった。

しかし、それほどの衝撃波が起っているにもかかわらず、二人は止まらず剣を振り合い、互いに一撃を放つ。


「──っ。なんて戦いだよっ! さっきまでの戦いとは別物じゃねえか!」


 先程のユイと白いオオカミの戦いにも驚かされたが、こちらの戦いはさらに衝撃的だった。

さっきまでのユイは手加減でもしていたのだろうか? 

そう思わせるほどの動きだ。しかし、ミオもミオだ。あの速いユイの動きにあの重そうな大剣を振りながらついていっている。


俺が見る限り二人の力量はほとんど互角だった。ユイは速く、鋭い攻撃を武器としていて、それに対してミオは、力強く、重い攻撃を武器にしていた。

二人の戦うスタイルこそ真逆だったが、互いに武器の長所を生かし、力の差はそれほどなかった。

……しかし、時間が経つにつれ、それほどなかったはずの差は少しずつ、少しずつだが徐々に広がってきていたのだ。


どちらが押されてきたのかというと──


「おいおい」


ミオのほうが押され始めていたのだ。

最初はなぜ? と、思ったが二人の戦い方を見てたぶんだが理由が分かってきたような気がした。

それは、ミオのほうは力を重視するタイプに対して、ユイは速さを重視するタイプ……これがミオの押されている理由だと思う。


力を重視するミオの一撃、この一撃を受ければ今戦っているユイはもちろん、大抵の敵には致命傷を負わせることができるだろう。しかも、レーヴァインの扱いに慣れているせいか、あれほどの大剣にもかかわらず遅いとは感じさせない動きだ。大剣の重心を利用して腕ではなく全身でレーヴァインを振るっている。


──だが、それはあくまでも大剣の割には遅くは感じさせないという程度で、ユイほどの速さは感じられない。


そのせいか、ミオの一撃がユイに簡単に避けられてしまい、ミオはただ体力を消耗するだけになっていた。

一方、ユイのほうはというと、ミオの振るう一撃を確実に、丁寧な動きで避けていた。しかも隙があるとみれば攻撃を与えていき、持久戦にしてミオを疲れさせてから確実に仕留めに行くという作戦できている様子だ。

まぁ、全部俺が勝手にそう考えた理由なんだけど……。


ただ、それとは別に一つ疑問に思うことがある。それは、なぜミオが攻撃の仕方を変えないのか? という疑問。

ミオならユイの作戦に気づき、それに関しての対策を考えるだろう。例えばユイがしていたように白いオオカミに緩急をつけて大剣を振る、なんかもありきたりだが効果的だろうし。

俺なんかじゃこの程度だが、ミオくらいの熟練者ならもっと効果的な作戦なんかもあるだろう。なのに、なぜ何もしないんだ? このままでは運良くミオの攻撃が当たらない限りユイに勝つことはできないだろう。


──そんな戦いの途中で二人の剣が一度重なり、二人はそこから一気に力を入れた後、互いに距離を取った。


「……ミオちゃん、手を引くなら今のうちだよ。今なら私の邪魔をしたことを許してあげるけど──どうする?」


 二人に距離ができ、余裕が出たのかユイがミオに話しかける。

 どうやらユイは、もうミオに勝った気でいるらしい。

……たしかにいま押しているのはユイだが、油断はよくないと思うぞ?


「嬉しい申し出だが、断らせてもらう。それにユイ……、まだ私に勝った気になるのは少しばかり早計だと思うが?」


 ミオも俺と同じことを思ったらしい。


「ううん、早くないよ。だって私次で終わらせるつもりだもん」


「……油断や慢心は敗因に繋がるもとだというのに……まあ、いいか。今から私がそれを教えてあげよう」


 そういってミオはレーヴァインを地面に突き刺した。すると、ミオの足元に紋章というか、魔方陣みたいのが出てきた。

俺にはその魔方陣がどんな意味があるかは知らないが、ユイにはなにか心当たりがあるらしく、


「くっ!」


それを見たユイは急に眼の色を変え、ミオのなにかを防ぐべく攻撃魔法を仕掛けにいった。




「風よ、裂風の刃となり放たれ、そして刻め──ウインディアル!」




あれはたしか、俺のことを殺そうとした悪魔に対して使った、飛ぶ斬撃の魔法だよな?


 ──って、ちょっと待て。あんなのをミオが喰らったら一発で死んじまうぞ!


けど、そこまで徹底してユイはミオを止めに来たということは、ミオはそれほどのことをしようとしているのか?

 しかし、ミオは何かをしようとしているのは明確なのだが──いや、それにしてもその何かをする前にやられちまったら元も子もないぞ!


「ミオ! そこから離れろ!」


 俺は荒げた声でミオにそこは危険だということを伝えようとしているのだが、


「…………………………………………」


 ミオのほうはというと、地面に突き刺さっているレーヴァインを両手で握り、眼を(つむ)ってその場から離れる様子はなく、すでにユイの魔法はミオに向かい始めていた。


「ミオ!」


 俺は必死になってミオのほうに向かおうとした。普通に考えたら、どうやっても届かない距離なのだが、それでも俺はミオのほうに向かった。

もし、これでミオを助けようとした俺がユイの魔法で死んだら、他の奴ならなんて考えるだろう? 

愚かなやつと罵倒されるだろうか?

 しかし、俺は……それでもミオを助けたい!


「届け!」


 ──けして、


「届けよ!」


 ────届かないとしても、


「届きやがれ!」


 ──────届かせて見せるっ!





「原初の世界より(つかさど)る炎よ、新たな世界をその炎で埋め尽くせ──ハガル」





「えっ?」


 これから俺がミオを助けに行くという名場面(?)になる気がしたのだが、気がしただけだったらしい。なぜかって? 

ミオの下に描かれていた魔方陣からいきなり真紅の炎が現れたからだ。

その真紅の炎はユイが放った魔法を防いだ後、ユイのほうへと伸びて攻撃を仕掛けていった。ユイはそれをわかっていたかのように真紅の炎が伸びる前から後ろに下がっていって真紅の炎から間合いをとる。


そして真紅の炎は一定の距離伸ばすと、それ以上は伸ばすことができないらしく縮み始め、ミオの元へと戻っていった。


「なんだよ、あれ」


真紅の炎は自由自在に、まるで生きているかのように動く。

あれも、魔法なのだろうか?


「……まさか、ミオちゃんがそこまで本気になるなんてね、ちょっと驚いたよ」


「……私も、相手が多人数ではなく一人のためにハガルを使うなんて思いもしなかったよ──それで、どうする? 形勢は逆転して今度は私のほうが有利なわけだが、大人しく負けを認めるなら許してあげるが?」


「……ミオちゃん、私は許されるつもりもなければ、負けるつもりもないよ」


「ま、そう言うと思ってはいたがな。それじゃあ決着をつけようか」



 ──二人の周囲が急に冷たくなった。



たぶんだが、これから二人は本気で殺し合う覚悟を決めたのだろう。

さっきまでも確かに殺し合いはしていたのだが、本気といった感じではなかった。しかし──今は違う。きっと、次の一瞬で相手を本気で殺すつもりだ。


『………………………………』


 沈黙は数分ほど続いていた。

息の詰まる戦いとはこういったことを言うのだろう。いつもならたった数分なのだが、感覚的には数十分はこうしているような気がする。     

そして、二人が動かないまま時間が経ち。


『!』


 やっと二人が動こうとしたその時、俺はある疑問が浮かんできた。


「なぁ、二人に聞きたいことがあるんだけど」


 俺が声をかけてしまったせいで動くタイミングがずれたのか、二人は動くのをやめて、こちらを見た。

……見た、というより睨んできていると言ったほうが適切だな。きっと、決着を付けられるというところで俺が邪魔したせいだな。

まぁ、それより二人に聞かなくちゃいけないことがあるから、睨まれたことはなかったことにしようかな……うん。


「あのさ、ユイとミオが戦ってる理由って悪魔が問題だからだよな?」


「そうだが、それがどうかしたのか?」


「えっと、言いにくいんだけど」


「さっきからジンは何が言いたいの?」


「そのだな、その悪魔なんだが、とっくに塵になって消えたよ」



『へっ?』



 あっ、二人ともすごい顔になった。


「だから、二人が睨み合ってる時に塵になって消えたんだって。ほら、あの白いオオカミの悪魔がいなくなってるだろ」



『………………』



 あれ、何この感じ? 俺ってもしかしてあれか、空気が読めてない? 

なんてことを考えていると──


「ぷっ、くくく」

「あはは」


 二人が急に笑い出した。


「……いや、つい笑ってしまったな。まさかこんな形で私とユイの戦いを止めるなんて、まいったな」


「そうだね~、私もびっくりしたよ。いままでのことが全否定されたっていうか、馬鹿らしく思えてくるというか、どうでもよくなってきたよ」


「?」


 ……話が見えん。何がどうなったんだ?


「なにを不思議そうな顔をしている? 戦う理由がなくなった、ただそれだけの話だよ」


「そうそう。ジンが私達の戦う理由をなくしてくれた。だから私はミオちゃんと殺し合う必要がなくなったんだよ」




『だから、ありがとう』




そうして、ユイとミオに感謝され、この戦いが終わった。



とりあえず、第一章・完


読んでいただきありがとうございますm(__)m


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