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逆ハー畑でつかまえろ☆  作者: さや@異種カプ推進党
本編

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第15話 お父さんお父さん魔女王が来るよ



 許可証騒動から早数ヶ月。

 苺花は今までと打って変わってナメクジのようにジワリジワリとゼニスの心を解し、何とかハーレム入りさせることに成功していた。


 決め手は、彼女が亡くなった妻を愛したままの彼を欲したことにあった。


 良き商人になろうと誇りをもって働く己の姿を好んだ妻。

 その妻に恥じぬよう、彼女の死後、ゼニスは前だけを向きがむしゃらに働いた。

 結果を求め、ただただしゃにむに働いた。

 そうしていつしか、彼は世界をまたにかける商人となり、強大な名誉と富を手に入れたのである。


 だが、苺花の何気ない言葉に彼はようやく思い出したのだ。

 かの妻の愛は、常に彼を暖かく包み込むひたすら優しいものであったことを。

 けして彼を急き立て追い詰める重苦しいかせではなかったことを。

 長く忘却の彼方にあった妻の本当の姿を思い出したゼニスは、どこか肩の荷が下りたような、視界を覆う霧が晴れたような、清々しい気持ちで苺花を心の内に迎え入れることを決意したのである。


 彼女が若くして未亡人となる可能性が高いことを理由にゼニスが婚姻を望むことはなかったが、彼が自身の商会の従業員に広く存在を知らしめたため、今では妻とほぼ同義の扱いを受けている。

 はっきり言って、逆ハーレムを築いている苺花に未亡人がどうとか全くもって気にする要因ではないように思われるが、商王はどこまでも真面目な人間であるようだった。

 また、彼の息子たちからは最初こそ敵意のようなものを向けられていたが、やがて彼女が財産目当てでないことを理解した3人は、ようやく自身の幸せについて考え出した父とその父を変えた苺花を祝福した。

 ちなみに、初見で末息子が苺花に一目惚れしかけたが、あまりの残念発言連発劇に恋心の芽が一瞬にして粉々に砕け散ったというエピソードもあったりする。

 果てしなくどうでもいい話である。


 そして、大なり小なり出張の多いゼニスに本当に逆ハーメンバー全員でつきまとっていたのだから、周囲の認知はすこぶる早かった。

 初の邂逅で発された突飛すぎる彼女の宣言が全て真実であったことに、いつだったかゼニスが抽象画のごとく顔面を崩れさせてしまったのだが、それも仕方の無い流れだったと言えよう。

 ついでに説明すれば、ヤンとピ・グーは護衛として、タマちゃんは、その類稀なる美貌で高貴な身分に見えなくも無い苺花の傍仕えという形でゼニスに雇い入れてもらい、結局揃いで彼の住む館の世話になっていた。

 ある意味全員でゼニスのヒモにでもなったかのような状況だが、少なくとも律儀なヤンとピ・グーは報酬以上の働きを見せていたし、タマも苺花の頼みさえあれば稀有な魔法を無償で使いまくってくれる。

 見た目はともかく誰も大きな態度を取らないこと、ゼニス本人が納得していること、そして、その存在が間違いなく有益であること。

 館の使用人たちは、そこそこあからさまな苺花の態度から彼らの特殊な関係性に気付いてはいたが、前述の点もあって完全に黙秘を貫いていた。



「ゼニー、質問ーっ。あ、今大丈夫?」

「ん? あぁ、構わんよ」


 そんなある日のこと。

 仕事部屋で報告書類をさばいていたゼニスと護衛よろしく背後に控えていたヤンの前に、彼と同じく背後にピ・グーとタマを連れた苺花が厚さ数十センチにもなる紙束を抱えて歩いてきた。


 2人も男を携えながら自ら荷を運ぶ苺花に首を傾げるゼニスだったが、いつだったか同様の場面で尋ねた際に「こういうどうでもいいもので手を塞いで、いざという時に守ってくれるための動きが遅れちゃったら困るでしょう? そりゃあ、重い荷物なら逆に任せないと移動速度が落ちちゃうし、疲れてその後の作業効率が悪くなるから、今もし襲われたらなんて可能性の低い考えは切り捨てて頼るけど。ていうか、ハーレム作ってるからって、ただ傅かれてダラダラしたいわけじゃないしさ。いや、そりゃいつだってイチャイチャベタベタふひひ良いではないかハァハァ馬鹿お前やめ……っあー! とか、そういうアレはしていたいけど現実的に無理だし……あ、ちなみに今のはヤンバージョンだから、ゼニーだったら、イチャイチャベタベタもうここがこんなになってるぜ? な、何を……クックッ年甲斐もなく大きくさせちゃって、いやらしいな……違っ! 違わないだろ? ホラ? ああっ! みたいな感じでーって、ヤダもうゼニーったら何言わせるんですかー。セクハラだぞっ。ちなみにピーちゃんなら、やらないか? ブヒッいい女ってなって、すぐアッーになるし、タマちゃんなら、ターマちゃーんのーちょっとイイとこ見てみたいー……ってアレちょっとゼニーどこ行くのー。ねー、どこイッちゃうのー」という色んな意味で酷い逆セクハラを受けた過去を思い出してゲンナリと口を噤んだ。


 部屋の主の了承を得た彼女は空きテーブルに紙束を置き、そこから数枚の用紙を抜き出してから、ヤンに下ネタをかまして怒られたあと、流れるような動作でゼニスの膝の上に座った。

 ハーレムメンバー全員の呆れたような視線は当然スルーした。

 一応、他人がいる場面ではそういった行動を控えるのだから、常識があるのか無いのか悩ましいところである。


「いやね?

 暇だったから、ここ数日色んな支部の過去5年の損益計算書と貸借対照表を作ってたんだけどさー」


 言いつつ、苺花は机に広げた数枚の用紙の上をトントンと指差していく。


「2年くらい前からこっちの支部の租税公課が変な上がり方してんのよ。

 あと、ここの支部は3年前から完全に用途不明の雑費が増えてるでしょー。

 で、そこは去年なんだけど接待交際費がいきなり2倍になってるの。

 まぁ、そっちのこの辺とかこの程度の不明金なら商会の規模も大きいし必要悪として見逃してるのかなーとは思うんだけどさ、一定の割合を超過したとこは入れ替えてるっぽいし締め付けすぎても人が集まらないもんね。

 でも、この3つは明らかに目に付くのに捨て置かれているじゃない?

 なんでだろって、理由が気になっちゃって」


 簿記用語については、勉強熱心かつ頭脳派なゼニスにすでに説明済みであるので、通じるものとして躊躇無く口にする苺花。

 彼女から示された事実を前に、彼はむっと眉間に皺を寄せ目を細めつつメガネのツルをつまみゆっくり前後に動かした。

 老眼だった。


「……ふぅむ。

 とりあえず、この税については王の代替わりに伴い税種が増やされているからして。

 それぞれ費用や売上から計算しても妥当な金額と言えるの。

 あと、こちらの接待費用も、さる貴族を招いた際に私が指示して出させたもので、不明瞭なものではないわい。

 ただ……この雑費は知らんな。すぐに調べさせよう」


 他人行儀な敬語が取れれば彼の口から飛び出したのは意外にもジジイ口調で、それが無駄に苺花を萌えさせる結果になったのは言うまでもない。

 真剣な顔つきに変わる彼を頬染めつつ見つめながら、彼女は両腕を組みうんうんと頭を揺らす。


「なるほどなるほど。

 じゃあさっ、その不明金の正体がもし不正だとかそんなアレだとしたら、それを見抜いたご褒美として緊縛プレ痛いっ!

 もー! いきなりゲンコとか何するのゼニーっ!」

「教育的指導だが何か問題かね?」

「女神にもぶたれたこと無いのに!」

「あったら逆に驚くわ」

「ナぜ、咄嗟にソんな選択肢が出てくるのか理解に苦しむナ」

「そも、どの女神のことを述べておるのだ?」


 それまで苺花たちの話がいまいち理解できない戦士組は無難に黙り込んでいたのだが、もはや恒例とも言える彼女のボケ発言に、つい律儀にツッコミを入れてしまうのだった。


『期待してるとこ悪いけど、業務規定に引っかかって上司に怒られちゃうから無理よー?』

(誘拐は怒られないのに!?)

『長時間協議の末に特典の上乗せを条件に承諾した身でありながら、それを誘拐とおっしゃる?』

(返す言葉がない! だが謝らない!)

『アンタって……いや、もういいわ』


 しかし、男衆が思わず口を開いたおかげで、ゼニスの指導は苺花のみならず彼らにも飛び火してしまう。


「お三方も、なぜイッカの非常識すぎる言動を放置しておくのか。

 いつも言っているでしょう、甘やかすばかりが愛情ではないと」


 そう告げて、ゼニスはハーレムメンバーへ順に鋭い瞳を向けた。

 ちなみに、最年長かつ権力者でありながら、ゼニスは他の男達に敬語を貫いている。

 会社の先輩後輩的なノリに近いもので、先に逆ハーに入った3人を無条件に上の立場に置いているらしかった。


「ヤン殿?」

「いや、俺もさんざ言いきかせては……」

「相手が聞いていないことを知っていて、ただ口にするだけでは注意とは言えないのでは?」

「う……面目ない」


 目に見えて項垂うなだれるヤンに、ため息をひとつ吐いてゼニスは次へと視線を移す。


「ピ・グー殿」

「え、ア……と……サすがに女に手ヲあげるのハ、5強士としての矜持ガ……」

「だからといって、ろくに口すら出さぬ理由にはなり得ないでしょう」

「…………スマン」


 気まずげに頬を掻くピ・グー。


「タマ殿」

「そもそも、先ほどの言動の何をもってして悪しきものと判断したのか理解が及ばぬのだが」


 ゼニスは平然とそう言い放ってくる精霊に、苦い表情で自身のコメカミを押さえた。


「……タマ殿もイッカと生を共になさるおつもりならば、いい加減に人間の機微というものを学んでいただきたい」

「ふむ?

 些少は把握しているように認識していたが……まぁ、善処しよう」


 彼の前向きな返答に少しばかり気を落ち着けたゼニスは、小さく頷いてから、己の膝の上に座っている苺花を降ろして子供を相手にする時のような声色でこう告げる。


「ともあれ、イッカ。

 今から人を呼ぶから大人しくしているように」

「はぁーい」


 彼女が反射的に「交換条件はー?」と聞こうとして止めたという事実はここだけの話だ。

 さすがの苺花も彼の仕事の邪魔をしたいわけではないし、それで己の株が下がっては困るというイヤらしい女の打算もあった。


『しっかしまぁー、しっかりしてるというか。

 さすが三児の父ともなると違うわねぇ』

(ねー、惚れ直しちゃいますよねー)

『アンタの恋愛基準って、どこまでいっても理解不能だわ』


 とりあえず退室は促されなかったので、苺花は不要な紙束を置いたテーブル前の椅子に腰かけて、暇をもてあますかのように女神との会話に興じ始める。


『聞いてもいいかしら?』

(内容によります)

『何でそういう時だけ無駄に慎重なのよ、素直にハイって言いなさいよ。

 とにかく、苺花。あなた最初に目標人数は4人か5人と言っていたけど、今からまだ増やすつもりはあるの?』


 そう尋ねられて、苺花は脳内でポンと手のひらを叩いて納得顔で頷いた。


(っあー、なるほど。

 確かに最近は館で大人しくしてましたし、逆ハー観察が主な目的のフェロモニー様としては最もな疑問ですよねぇ)

『変なところで察しが良いわよね、アンタって』


 すでに聞きなれた女神の呆れ声は無視して、彼女は己が思考に耽る。


(……ええとー、個人的には現状で充分満足しています。

 天女守りし双頭の竜に、擬似神の大精霊、そして武無き覇王。

 愛のアスリート四聖獣としては申し分ないですよね。バーニングソウルですよね)

『ごめん、ちょっと何言ってるか分からない』

(が、ワキガのスタンド使いも言ってたように4は不吉なので、もう1人くらい増えてもいいかなとは思ってます)

『周知の事実みたいに話してるトコ悪いけど、誰よそれ』

(必死こいて探そうとは考えてませんけど、今後イイのがいたら捕まえる予定です)

『いいかげん人の話を聞きなさいと……ちなみにイイのって具体的には?』

(あぁ、それはですねー)


 その後、苺花の説明を聞き思わず絶句してしまうフェロモニー。

 たっぷり1分をかけてようやく再起動を果たした彼女は、未だどこか混乱したようにこう呟いた。


『………………マジ?』

(マジマジ)


 さんざ苺花に翻弄させられてきた女神がなおも絶句する第5の男とは一体どんな人間なのか……。

 とりあえず、後日の調べにより不明金が賄賂として消費されていたことが明らかになったのだが、苺花の望む緊縛プレげふんげふんッが実行されることはついぞ無かったという。




「せっかく荒縄を煮つめたのにぃ……」



※簿記用語解説?

損益計算書そんえきけいさんしょ…企業のある一定期間における収益と費用の状態を表す。

貸借対照表たいしゃくたいしょうひょう…企業のある一定時点における資産、負債、純資産の状態を表す。

租税公課そぜいこうか……租税といわれる国税・地方税、また公課といわれる地方公共団体に課された賦課金・罰金。


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