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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

「交錯する投影線」

作者: aisernameko
掲載日:2026/04/01

2010.09.05 のものから。


・内容

夕刻の徐々に暗くなっていく空の色とか影が長くなって消えていくという雰囲気的なものから、タイトルをつけた。夕陽の影は長くて重なり易いから、というのもある。

知人の自殺、という事実の共有。

 茜空は暗み掛かり、東の藍色が其の鮮紅を侵してゆく。夕陽に染まった雲は黒く、生温い風は冷ややかに、少しずつ私たちの周りを変えてゆく。髪が風に靡き、背後の地平線の彼方に沈んで緩やかに成った橙色の光が、煌びやかな茶色に染めた。

 二つの影は長く伸びて重なり、軅て消えた。西の空は僅かに緋色を残して暗い藍色に染まり、夕焼け雲は重々しい灰色に変わった。風は僅かに冷気を帯びて居る。もう私たちは互いの表情を視る事は出来ない。其処に居る事だけが、黒い塊として浮かび上がる丈だ。


 上空で啼いていた鳥の群れは何時の間にか無くなり、耳鳴りにも似た静寂の音が響く。呼吸の音も、自分のものでさえ小さ過ぎて聴こえなかった。其処にあるのは浮かびあがる二つの屍体であるかと謂う程に。

 時計は此処には無いから、人工的に造られた空間からは隔絶されている。背景だけが、視覚を通して時の流れを報せる。それはあの時だって同じだった。


 ―だから私は、貴方は、あの時からずっと「此処」に留まって居た。凡ての流れに逆らって、磐の様に其処に居て、変わる事は無かった。変わったと云えば、苔がこびり付き、流れに僅かに磨り減らされた。それだけだろう。


 何処にも行けやしない。目の前で飛び立った其の後ろ姿を見送った時も、私は唯立ち尽くしていた。眼球に焼付き、脳裏にこびり付き、だから如何という訳でも無かった。

 唯その時に肢の力を喪った。動く術を、人と同じ様に時間の漂流の上に浮く術を喪った。息継ぎも、身の委ね方も、突然に解らなくなった。それだけだった。


 其れは余に無意味で、現実とは無関係で、苦痛とも悲哀とも、愛執とも煩悶とも付かない、此の世の感情の持つ意味のどれもが不適合な、「無」という際限の無い感情だった。

 ―目の前に居る貴方だけが、それを持っていた。だから出来るだけ近くに居たかった。其れを持っている私たちは、現実に適合して居るモノに囲まれて過ごすには、余に息苦しかったから。


「帰らないの?」

 もう空は夜の訪れを明示して居た。どれ程の沈黙があったのか知れない。唯それが今破られて、其れは直ぐに虚空に、この大気と同じ様に真黒く渦巻く過去に消えた。

「そうだね。何時の間にか、夜になった。…帰るべき、なんだろうね。」

「まだ此処に居る、の。」

「そうなんだろうな。いや、居たいから、かもしれない。能動的なもの、なんだろう。」

「能動…。そう、だね。動けない訳じゃ、無いんだ。私…は。」

 同じだと解って居たけれど、孤立させて言った。空気が少し震えた。隣で小さく、貴方が笑ったから。

 ―貴方はもう其れに、気付いて居る、から。


「囚われているフリをして、足掻いて居るフリをして、現実に融け込もうとして居る自分を示さなきゃ、赦されないからね。」

「可哀想で、馬鹿馬鹿しい。愚かな被害者、なんだろうね。」

「現実の言葉で形容されるなら、有難いな。少なくとも其れは現存している事を、認めてくれている事が前提、だろう。」

「うん。でも其れが、息苦しい。認識されると、其処に造られる事だから。」

「でも、消えたくない。」

「どこまでも矛盾してるね。」


 その矛盾の中だからこそ、"生きて"居られる。


「全部、一緒に消えた。感情も、私の存在も。現実の視点で言えば。…もう誰にも、何の感情も抱けないんだ、ね。」

「僕は君の事が、好きだよ。」

―嘘。


「私も、貴方の事が好き、だよ。」


 交わし合う嘘の詞は、逃避の意味を表して、此の無意味で無感動な"現実の言葉"が装飾するのは存在ではなく、「所有品」で。あの時貴方も、私も、それら総てを葬って、今も墓標の下に埋まっている事を、知っている。

 傷の嘗め合いでしか無くて、同じ傷に互いの姿を見て、実感するんだ。恐怖も安堵も、其れを抱く事が出来る自身も。


「貴方は、余にも私と似てない、から。」

「そう、だね。」

 顔も、身体も、居る場所も、互いの"映し身"にしては、余にも―。


 其れが、無性に哀しくて、焦燥を産む。

 其れ丈が、共有する別個体の存在への安心を与えて、私を救う。


  決して交わらない影は、二つの存在を証明する。

・解説

殆ど本文に書いてある気がする。

男の子の方、はその友人を好きだった。女の子の方は、その友人が唯一の親友だった。

存在では無く所有品、というのは「誰かが生きているという事実の認識」ではなく「誰かが死んだというひとつの事実・感覚的なもの」という塊、という意味…だった気がする。

あと最初の文の「背中」は実際に見届けた訳では無く、想像的なものです。想像でも回想の上で焼付く、という意味で。

「帰らないの?」は私と同じ様に此処から動かないのか、という意味でもある。「変えるべき~」なのはそういう理由だったり。

二人の会話が交互に並んで続いているのは、共有の意を強めたかったからというだけ。


・反省点

話が気持ち悪過ぎた。語尾の変化が面白くない。

考えもなく書いたところが悪かった。自分の心の文章を入れ過ぎて煩わしい文章になった。

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