第九十九話 「ギターボーカルの、エレキギターの音」
「ベース! ベース! ベース!」
トラコだったソレが何度も叫ぶたび、楊木くんだった深緑の羽毛を纏う彼女の片翼から、さらなる重低音が放たれる。まるで楊木くんのベースがさらに暴れ狂ったような音であるせいか、地面にしゃがむ僕の頭がフワフワしだした。
どうやらソレは、羽毛に変えられてしまった者の力や音を、翼に纏わせることで使用できるようだ。イエローが立ち直るまでの間に僕がソレとせめぎ合っていた際、もしも何かの拍子で羽毛に変えられ、赤の柄の力がソレに使われるかもしれなかったと思うとぞっとする。
もう耐え切れず、僕は床で横になってしまう。
見上げた先にあるイエローは、脚をふらつかせながら二番のサビを奏で終えようとしており、かなり苦しそうだった。
「ベース! ベース!」
ソレが相変わらず視聴覚室中に重低音を放ち続ける中、イエローがサビを奏で終えたその時。彼は遂に跪いてしまった。
だが、手は止まらなかった。
先ほどの勢いのあるサビから一転し、落ち着いた曲調になったギターソロを正確に弾き始めたのだ。ソレが放ち続ける音により、おそらく僕と同じように頭が眩んでいるというのに、彼は右手のピックを繊細に動かして弦を弾き、一音一音を大切に作り上げては黄の柄を通してこの空間に生み続けている。
彼の体勢はソレに屈しているとも言えるのかもしれないが、魂はまだ屈していなかったのだ。
やがてギターソロが激しさを増してくるにつれ、イエローは地面から膝を離していき、再び立ち上がっていく。緊張が走るような旋律が奏でられていき、遂にそれが最高潮に達したころには、魂が腹や胸から体を引き裂いてぶちまけているのかと感じさせるくらい、後ろの方にまでのけ反ってきていた。
ソレが放つ音などものともせず、彼は三番のサビを奏で始めた。そのギターはベース以上に重く、荒々しい音で、その歌声は音よりも素早く突き進む。
「ベース、ベース」
対してソレは、イエローの音圧にベースの音では敵わないと悟ったのか語気を弱めていく。深緑の方の翼から放たれるベースの音も、だんだん小さくなっていったが、逆に別の音が放たれ始めた
「ベース……ギター……ベース、ギター、ギター、ギタァー!」
ベースの音を放っていた方の翼を閉じるとともに、もう片方の黒い縁取りがなされた茶色の翼をだんだん広げていき、ベースよりもうんと高い音をイエローへ真っ直ぐ放ち始めた。
「ギター! ギター! ギター!」
それは、トラコのバンドに所属するギターボーカルの、エレキギターの音に似ていた。ただし、ソレの力によって元の音より一層強く歪んでおり、鋭く鼓膜へ突き刺してくる攻撃的な音になっていた。




