第九十六話 「なってやるよ、電流に」
次の瞬間、トラコだったモノは翼をはためかせ、2メートルほど離れて間合いを取っていたこちらの元へひとっとびで飛んできた
対して僕は赤の柄の剣を振るい、一瞬モノの翼を切り落とそうと考えたが直感でやめておき、代わりに攻撃をいなすため、こう叫んだ。
「吾火衣炉!」
直後、モノは赤の柄から伸びる炎の剣に驚くと、すぐさま器用に翼を動かし、吹き飛ぶように後方へ引き下がった。白の柄の少年が差し向けたケルベロスと対峙したときといい、白の柄によって生み出された想像の暴走は炎が弱点のようだ。
ただ、次襲ってきたときにこの炎で翼を切り落としていいものなのか、疑問に残る。
先ほどは直感で切り落とすのをやめたが、今、切り落としてはいけない理由が思い浮かんだ。もし翼が彼女の背骨を変化させることでできた物だとしたら、切り落としてしまった上で彼女に憑依する想像の暴走を止めた場合、彼女の背骨に何らかの影響が残る可能性がある。実際、羽毛が付く前は背中から生えた骨のようなものが枝分かれして絡み、翼の形を成していたのだ。
それにこの炎の剣で切り落とす際、楊木くんたちだった羽毛を燃やしてしまっては、事態が収まった際に彼らにも影響が残るだろう。
どうも僕では、トラコたちに影響を残さずにモノに立ち向かうことができそうにないようだ。
「なんで翼、切り落とさないんだ……?」
後ろから、イエローの恐怖が伝わってくる、一瞬振り返って彼を見ると、壁際で縮こまっており、エレキギターを思いっきり抱きしめていた。
「お前も見ただろ! 羽になっちゃうんだよ、あれに触れた物が!」
さっき僕がポケットティッシュを使い、モノの翼で実験していたのを見ていたのだろう。特にモノの翼に対してかなり怯え、パニックに陥ってしまっていた。
その時、イエローを見てあることを思いついた。
「ねえイエロー、前に白いケルベロスと対峙した時のこと、覚えてる?」
「バラード系がお好きなクソデカい犬のことか? でも、何で今それを?」
「あの時みたいに電流になれば、あの羽に触れることないんじゃないかな」
翼に触れてしまったら羽毛に変えてくる敵に対し、”触れられない者”が向き合えば相性がいいのではないか、というのが僕の作戦だ。
「分かった。 なってやるよ、電流に」
イエローは試しに、トラコ達の前で披露した曲である、ディープ・パープルで紫の炎を弾こうとする。しかし、出だしのメロディーを奏でようとするその指は震えており、あの時は打って変わり雑音なく綺麗に弾けなくなってしまっていた。
あの時は「良い音を鳴らすために電流と一体化しないといけない」と言っていたものが、これでは電流になれずに触れられてしまうだろう。
他方、先程トラコだったモノは音に反応したのかイエローの方を向き、突進する狙いを定めていた。
彼女がイエローの方へ飛び立つのは、時間の問題だった。




