第九十四話 「トラコの想像の暴走」
イエローとトラコが遂に和解できたと思った矢先、トラコは背中を抑えて苦しみだし、席から離れるように倒れてしまった。慌てて僕とイエロー、楊木くん、そしてトラコのバンドでギターボーカルをしていたセミロングの女子が駆けつけるが、直後おぞましい光景を目にしてしまう。
倒れたトラコの背中から、白くて鋭い突起が制服突き破って生えてきていたのだ。しかもよく見ると、この視聴覚室の天井についた蛍光灯みたいに白く光りながら、少しずつ大きくなっていた。一センチ、また一センチと突起が高くなっていくたびにトラコは、悲痛によって掠れた叫び声をあげる。
まるで彼女の背骨が呪われたかのような、とても痛ましく、奇怪な様子に僕以外の三人は言葉を失い、固まってしまっていたが、ただ僕だけは周りを見回し、何が引き起こされたのか冷静に思考を巡らせていた。あんまりにもグロテスクな彼女の様態から目を離すべく、他のことを考えたかったがために思考を巡らせていたのだろう。
今の所、僕の知っている中でこんなことをできそうなのは、白の柄の少年や黒の柄の男くらいだ。特にトラコの背骨が変形してしまった物らしき突起は、白色に光っているのでおそらく白の柄の少年の仕業だろう。ただ、見回してもそれらしき人物はどこにも見当たらない。目立つ物である少年の白甚兵衛は、教室内はおろか、窓の外の風景でも見かけないのだ。
一方でトラコの方はというと、もはや生えているのが突起ではなく、一対の白い棒になった彼女の背中から何かが折れる音がし始めた。白い棒はさらに伸びていくとともに枝分かれしていき、羽毛をはぎ取られたような骨だけの翼へ変貌し始めたのだ。
これは少なくとも、何かしらの色の柄の仕業とみて間違いないだろう。いつか僕の赤の柄を盗んだ妹の矛子による想像の暴走とは、骨格が変化している点と、骨格の変化が自傷的な変化の仕方である点で共通していたのだ。
ただし、矛子の場合は想像の暴走が憑依してしまった事で骨格が変化していた。対してトラコの変化の場合、彼女は想像の暴走に憑依されるようなことを起こしておらず、ましてや色の柄を持っているわけでも無かったのだ。あるいはもしかすると、白の柄の想像の暴走を憑依させられているのかもしれない。
とにかく僕にできることが今あるとすれば、想像の暴走に憑依された際の矛子の時のように、赤の柄の力でトラコを治すことぐらいだ。
しゃがみこみ、ベースのソケット部分から抜いた赤の柄を彼女にも握らせながら、目を閉じて念じる。
想像の暴走の力にやられ、彼女が苦しむのを止めたい一心で、願う。
しかし次に目を開けた時、彼女の背中の一対の棒はさらに枝分かれし、まるで翼のようになって大きさを増していた。そのうえ、赤の柄を掴む彼女の右手から流れた赤の柄の力が、背中の翼部分に走る赤い光となっており、トラコをもとに戻すどころかさらに彼女の姿を変えてしまっていた。
そして何よりも、トラコはもう苦しむ声をあげなくなっていた。




