表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣色の夢  作者: チャカノリ
五月病
88/106

第八十八話 「来たね、イエロー」

 翌日の放課後、楽器を背負った僕とイエローは、軽音楽部の部室でもある視聴覚室の前にやってきた。イエローへの伝言を頼んできた女子と今朝、昇降口でばったり会った際に、もしイエローが受けて立つ気になったらそこへ来るように言ってきたのだ。闘争的な昨日と違って素っ気ない口調が、かえって怖かった。


 この分厚い扉を開いた先にあの女子と再び対面すると思うと、取っ手を開く僕の手が震える。どうやらイエローも同じみたいで、僕の背中に隠れるように背を丸めていた。昨日掘り起こされたトラウマが、今になって圧し掛かってきているようだった。


 昨日は、共に彼女と向き合おうと決心したというのに。



『やるしか、ないよな。 けど』


 一瞬覚悟を決めたイエローのインターホン越しの言葉が、不穏な接続詞と共にさらに続く。


『またあれが起きると思うと……』


 ギターを壊されたことはもちろん、理不尽に無視をされたり、あるいは飛び掛かってくるかもしれないことを、彼は未だに怖がっていた。


 そんな彼がどうもらしくないと思えてしまい、勇気づけようと、こんな約束をした。


「僕の赤の柄で守るよ。 ギターも、イエローも」


『え?』


「それなら、怖くないでしょ」


 しばらく沈黙したのち、インターホンのスピーカが震えてイエローの声が再び出てくる。


『確かにそうかも』


「じゃあ一緒に乗り越えようよ。 あの時のこと全部を」



 こんなことを昨日交わしたにも関わらず、情けないことにお互い扉の取っ手を掴めずにいた。すると僕の背中に隠れるイエローがこんな提案をしてくる。 


「なあ赤山、一旦ちょっとだけ開けて、中見ようぜ」


 いつもギターを演奏するときのカリスマ性をまるで感じさせない、小さな声だった。


 確かにイエローの言う通り、いきなり扉を開けていきなり目が合うよりかは、中の彼女の様子を伺ってからの方が良いと思えた。


 蝶番を軋ませて音をたてないように、視聴覚室の扉をゆっくり開ける。隙間からは、部屋の長机に腰掛ける二人組の背中が辛うじて見えた。片方は長めの髪をポニーテールに結って整えており、今朝会った彼女の髪型に似ている。その隣には、セミロングの髪型をした女子らしき人物がいた。二人とも互いの背格好がよく似ていた。


「なあトラコ、なんか変だぞ」


 セミロングの人物が、ものぐさな感じでポニーテールの人物に話しかける。イエローと因縁がある、今朝会った彼女はトラコというみたいだ。


「私は、いつも通りだけど」


「じゃあなんでそんなカッカしてるんだよ」


「別にそんなでもないでしょ」


 そう返す彼女は荒っぽい口調になっており、貧乏ゆすりをしていた。対してセミロングの子は、けだるげに言葉を続ける。


「今までアイツのことなんて考えないって決めたはずなのに、いきなりどうしたんだが」


 そういいながら彼女は、手にしたペットボトルのジュースを掲げると、照明の光に透かして眺める。


「トラコさ、昨日演奏見てイラついたって言ってたけど、アイツが中庭で演奏してるなんて何回か見かけてるじゃん」


「あの時はなんかこう、イエロー見つけた瞬間に、今までに無いくらいにめっちゃイラついたんだよ その……」


 トラコがさらに言葉をつづけようと言葉を探していると、温かいながら細かく震える何かが、背中に圧し掛かってくるのを感じた。部屋で二人が何を話しているのか聞こうと、前のめりになったイエローの胸部が当たっていたのだ。


 その時、僕は耐え切れずバランスを崩し、前のめりに倒れる形で扉にぶつかってしまい、そのまま思いっきり扉を開けてしまった。


 いきなり扉が開いたことに、部屋で腰掛けていた二人はすぐさまこちらを振り返る。


「来たね、イエロー」


 トラコが、視聴覚室の床に倒れた僕たちを睨みつけてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ