第七十九話 「スタジオ練の時間じゃない?」
ゴールデンウィーク最終日の七日目は、叶と共にいつもの駅前にある、とあるビルの前に来ていた。ゴールデンウィーク前に、喜多子と寅子から彼女らのバンドの審査用動画を撮影する手伝いをお願いされたのだ。
「あれ~? 喜多子と寅子、いないね~。 来たの早すぎたかな」
「そうだね。 もしかしたら喜多子と寅子はスタジオ内にいるのかもしれないし、一旦連絡してみるよ」
「ありがと、つるぎ~」
あたしはスマホを取り出し、寅子に電話をかけてみる。多分出るのは喜多子なのだろうけど。
「ごめん、具体的な落ちあう場所については話してなかったね。 私たちは四階にあるスタジオの待合室にもういるから、そこで落ち合わない?」
丁寧な口調と一人称が「私」の寅子が珍しく出たのだった。
もちろん本来は寅子が出るのが正しいのだが。
かくしてエレベーターで四階に上がったあたし達は、待合室の四人掛けの席に座る寅子、喜多子に落ち合うことができた。二人とも赤いデカT、白いフレアパンツ、という装いをしている。
さらに、席にはもう一人座っていた。
黒ぶちの丸い眼鏡をかけた男子が、喜多子の隣に座っていたのだ。顔立ちが程よく整っており、「イケメン」という言葉が似合いそうな彼は、髪型のせいで実写版ハリー・ポッターの俳優とも見間違えそうだ。同級生では見かけたことがない人だったので、おそらく後輩だろうが、不思議とどこかで見た気がする。
「ねぇ~、その人ってどういう人?」
あたしが聴くよりも先に、叶が喜多子に聴いた。
「ああ、コイツのことか? 中学からウチらとバンドやってた後輩のベーシストでさ~」
喜多子の一言で思い出した。彼は中学二年の頃の文化祭、喜多子と寅子のバンドにいたベーシストだ。名前は確か――
「もしかして、楊木くん、だよね」
「さっすがつるぎ~。 ウチらのベーシストの名前よく知ってるね!」
「よく知ってるねって何ですか!? 僕そんなにマイナーなキャラじゃないでしょ!?」
冗談交じりにツッコむ形で、楊木くんも会話に加わってくる。その後、あたしと叶は楊木くんと少し会話を交わし、打ち解けることができた。
彼いわく、先輩であり、ましてや異性の喜多子、寅子と組んだのは、軽音部の新歓ライブ時、彼女らのバンドの雰囲気が好みだった上に、彼女らがベースを募集していたから入ったのだそうだ。さらに、そんな先輩方と引き続きバンド活動をするため、彼女らと同じ高校に入る約束を交わしていたのだそう。なんともドラマチックな絆を感じる。
楊木くんは喜多子と寅子に対し、よく似た双子だという第一印象を抱いたそうなのだが、実際関わってみると話し方や内面は真反対だと気づいたのだそう。あたしや叶も彼女らと出会った当初はそんなことを感じていたので、そのことで結構気が合った。
「誰が真反対な双子ですって~?」
珍しく粗暴混じりの口調で寅子も会話に混じってきた。
「いやウチら、スマホの仕様似てるよ!? なんならたまにお互いのを間違って使っちゃうし」
喜多子は反論したいのか、似てるところを主張してくる。それは面白おかしいもので、あたしと叶は思わず笑い、楊木くんは「先輩方、気を付けてくださいよ」と呆れ半分でツッコむ。
なんて談笑をしていると、時計を見た寅子が会話を止める。
「あれ、そろそろスタジオ練の時間じゃない?」
かくして、バンド練習は始まった。




