第七十八話 「一緒に文化祭のステージ、出ない?」
「1・2・3・4」
山吹のカウントから始まった、赤山いわく「ディープ・パープルの、紫の炎」という曲。
そこではただ、柄の力によって外に放たれしギターの音とベースの音だけが、共に鳴っていた。
否、赤山と山吹は音を通して友に成っているようにも見えた。
山吹は演奏中に赤山の方を見ては、白い歯を見せつける大きな笑みを浮かべてギターを弾いているし、赤山は演奏中ずっと手元を見ていながらも、山吹が彼を見た際はそれに応えるかのように少し口角を上げていたのだ。
それは誰にも邪魔することのできない領域で、相手に対する不安や怒りなどといった不機嫌な感情なんて、一切含まれていない。
二人はこの家の前にて、お互いの音を重ねられる喜びをただただ噛み締めていた。
あるところで山吹がギターソロらしき所を弾き始めたとき、彼は、先程以上に満ち足りていた。エレキギター独特の攻撃的な旋律を弾くたび、そこにベースの音が一層力強く押し出され、まるで現実に干渉するかのような力が旋律に帯びてゆく。きっと山吹にとって、ギターソロがさらに気持ちよくなった瞬間なのだろう。
一方の赤山はと言うと、相変わらず手元を見ていてヤマブキの様子など一切視界に入らないにもかかわらず、山吹に吊られて口角がさらに吊り上がっていた。
これが終わる頃、二人はとんでもない快感を知ったばかりに、もう互い無くして演奏できなくなってしまうだろう。
曲を締めくくる旋律がロマンチックに奏でられ、最後の一音が鳴りやんだその時、空気が抜けるように二人は立つ力を失てしまい、ギターやベースを抱えつつ地面で横になった。案の定、あまりの快感に演奏できなくなるどころか起き上がることさえままならなくなったようだ。
息を切らしつつ、イエローは赤山にこんな質問をしてくる。
「お前、いつからベース始めた?」
「ゴールデンウィーク前あたり」
同じく息を切らしてそう言う赤山は、誇らしげだった。
「いつもどんなベースの練習、してんだ」
「メトロノーム鳴らしながら、特に苦手な所とか、何度も繰り返し練習して、っていうのを毎日7時間やってる」
「こりゃたまげたな」
山吹の言う通り、狂気を感じる努力量だった。その甲斐あってか、赤山はどうやら、遂に山吹に認められたようだった。
「ねえ、一緒に文化祭のステージ、出ない?」
引き続き青空を見ながら、赤山は提案する。
「いいね。 気に入った」
赤山とともに同じ空を見上げる彼は、二つ返事で応えたのだった。
赤山と山吹が口に出して互いの意思を伝え合う中、内心思うことがある。
彼らの友情のように、文化祭で言葉なく、あるいは言葉で誰かと共に在ることができれば、どんなに良いのだろうか、と――
その日の夜、あたしは自室のベッドに寝っ転がり、文化祭で誰かと共に在るための企画を一人考えた。中学の頃の文化祭を思い出し、彼らのような瞬間がなかったか探った時、ある光景が脳裏に浮かんできた。
「野球部のお前ら、これからも、よろしく~!」
それは、名も知らぬ坊主頭の男子が、文化祭時の中庭で叫ぶ光景だった。当時中庭では、自分の好きな物に対して思いを叫ぶ、という企画が催されていたのだ。不思議なことに、こういうので本来はありがちな「好きな人に対して告白する」ということを誰もしなかったが。
あの時、坊主頭の男子が想いを叫び終わると、野球部の仲間であろう他の男子たちが壇上に現れて彼を囲み、なんと胴上げを始めた。
他にも思いを叫ぶ人はいたはずだが、坊主頭の男子だけが、いつの間にか印象に残っていたようだ。
ベッドから起き上がると、あたしは公約を書くためのメモ書きに「思いを叫ぶ企画を考案」と書いていた。




