第七十七話 「黄の柄の、使い手!?」
「あの! 僕、ベース、練習したので! 実力をっ、みてほしい、んです!」
赤山が放った言葉の剣は、張り詰めた空気を遂に切り裂き、赤山自身を前へ突き動かす。一度は二歩下がり、あたしが信じた者ではなくなっていたものの、三歩進んで信じた以上の者になっていたのだ。
「今、ベースで何が弾けるんだ?」
いぶかしげに山吹は聞いてくる。
「ディープ・パープルの、紫の炎なら」
「そうか。 ベースは持ってきたのか?」
「はい」
するとなぜか山吹は後ろへ振り返り、家の中へ戻ろうとする。彼の言動を見ていると、赤山のお願いを聞き入れたのか、それとも拒否しているのかはっきり分からず、あたしにまで緊張が走った。
その時、山吹はこうも口にした。
「俺は今からギターを持ってくるから、お前はそこでチューニングするなりして準備しとけ」
そうして山吹は玄関の扉を勢いよく閉めた。直後、家の外からでも聞こえるほど階段を駆け上がる音が漏れる。直後、緊張がほどけ、あたしは一息ついてしまう。こうして彼の様子を間近で見るのは初めてだったが、つかみどころがなくてミステリアスな人だった。
一方で赤山の方を見ると、見たことも無いくらいに口角を上げながら、いつの間にか赤いベースらしきものを携え終わっていた。
すると今度は、ズボンのポッケから画面が付いたクリップのような物を取り出すと、それをベースの竿部分の先端に取り付けて画面を覗き込み、同じく先端にある大きなネジのパーツをねじり始める。これが、チューニングという作業なのだろう。
そして最後に彼は、赤の柄をポッケから取り出し、自らの眼前に持ってくると、目を閉じて静かに念じ始めた。
何をしているのか訳が分からず、とりあえず注意深く観察していると、柄の刀身部分はだんだん変化してゆく。ただし、それはいつもと違う形だった。5㎝くらいにまでしか伸びないうえに、刃物のような鋭さを帯びないどころか、円柱形のような形状になったのだ。
やがて全体像を見ると、刀身は何かしらの機械のソケットに挿すような端子になった。
赤山は目をゆっくり開き、形状が変化し終わったのを確認すると、なんとそれをベースのソケット部分に入れたのだった。
そしてポケットからピックを取り出した彼は、子気味よく弦を弾き始める。アンプがないにも関わらず音が聞こえてくるのは、赤の柄の能力なのだろう。
にしても彼の演奏は素人目から見ても上手いと思えるもので、内心感心した。まさか赤山にこんな隠し芸があるとは思わなかった。
「やっぱりあの時、アンプとシールド買う必要なかったなぁ」
一通り弾いたのか、彼の手がいったん止まり、小言をつぶやいたその時。あたしは気になって話しかけてみる。
「ベースって、いつからやってるの?」
「ゴールデンウィークが始まる少し前から」
「それって、だいたい一週間ぐらい前から!?」
「うん」
ギターと違って複数の弦を抑える必要がない分、簡単であるとはいえ、まさか一週間で実力をつけているのは、本当にすごかった。
赤山の才能に対して狼狽えていると、玄関の扉が開き、中から山吹が出てきた。彼は目が眩みそうなメタリックイエローをしたエレキギターを携えていたのだが、そのソケット部分にはあるまじきものが刺さっていた。
ソケット部分から飛び出す「黄」の刻印が入ったレリーフは、「黄の柄」であるなによりの証だった。赤山が赤の柄を端子にしたように、彼も黄の柄を端子にしていたのだ。
「あなた、黄の柄の、使い手!?」
「おい赤山、1・2・3・4で紫の炎、弾くぞ」
「うん」
声を上げて驚くあたしをよそに、山吹と赤山は演奏しようとしている。
「1・2・3・4」
直後、黄の柄の能力によってエレキギターの音が空気を切り裂き始め、赤の柄の能力によってベースの音が空気を殴り始めた。
それは、あたしの知らない曲だった。
別に楽器についてそこまで詳しいわけではないので、何が凄くて何が難しい曲なのかはまるで分らない。
ただ一つ確かなのは、彼らは、ともになっていた。




