第七十六話 「言わねえと分かんねえぞ」
「ねえ赤山、あんた、山吹 家郎と知り合いだったの?」
「え、そうだけど」
結構動揺しているあたしに対し、赤山はさも何でもないかのように返すので、余計に心が落ち着かない。
あたしの中学校での山吹家郎は、文化祭のステージでのギターの演奏が凄まじいことで有名だった。それも、彼より一つ上の代であるあたしも噂程度に知るほどの有名人。
ただし、中学二年の頃のクラスメイトであり、後にあたしと同じ高校に進学する喜多子と寅子は、その当時彼のことを嫌っていた。
直接的に山吹の悪口を言っていた訳ではないのだが、ステージ発表についての彼女らの会話にあたしも混ざった際、不自然にも山吹の発表に関することだけは全く話さなかったのだ。彼女らのバンドや他の出演者のことについては熱心に感想を語り合っていたにもかかわらず、だ。
彼女らと山吹の間で、何か底知れぬ黒いものを感じたため、当時はなぜ山吹を嫌うのかすらも聞くことができなかった。
そんなことがあったので、中学の頃の有名人にして訳アリな山吹と、高校で出会ったボッチだけど真っすぐな赤山の間で、何かしらの関わりがあるのは意外だった。
「もしかして青海さんも、イエローと知り合い?」
赤山は素朴に聞いてくるが、冷静さを保てないあたしにとってはさらに追い打ちをかけるかのようだった。
「知り合い、ってほどでもないけど、確か、あたしの中学の有名人、みたいな感じ」
「有名人っていうと、やっぱりギターのことで?」
「う、うん。 ギターの演奏で一目置かれてたけど」
その時、玄関のドアが開き、中から人が出てきた。
中学の頃から身長が伸びて顔つきが少し変わっているうえに、髪も金髪交じりになっているが、あの頃の面影も感じる。
「どうしたんだよ。 あとその人、誰?」
あの無骨な口調は間違いなく、文化祭のステージにて、喜多子と寅子が所属するバンドを見たついでにたまたま聞いた、彼のものだった。
「その……」
一方の赤山はと言うと、自分のベースの実力を見てもらう本人を前にかなり緊張しているのか、上手く言葉を出せず、背中に背負ったベースも取り出せずにいた。
「なんだよ、用ないなら俺戻るぞ」
「いやっ、ある、にはあるんだけど」
赤山に呆れ、すぐさま家に入ろうとする山吹に対し、赤山は覚えたてのような、たどたどしい日本語でなんとか彼を引き留める。
「あーもう、だからなんなんだよ」
「そのっ、えと」
半ばキレながらため息交じりにセリフを吐く山吹と同じように、あたしも内心赤山がじれったかった。
いっそあたしが言ってしまおうか、なんてことが一瞬脳裏をよぎるが、そんなことをしてしまえば何かが永遠に失われる気がして、寸でのところで口を閉じる。
そんなことをしてしまえば、あたしが信じた赤山は、消える――
ただ、何かして気まずい状況を打開することを、我慢することにした。例えどんなに頭で考えてしまおうが、赤山が一歩踏み出すまで目配せも一切せずにひたすら耐える。
「……言わねえと分かんねえぞ」
山吹が唸るように低い声を赤山に響かせてくる。
それは、時間を奪われていることへの怒りと、何もできずにいる者に対するじれったさが籠っていた。
――さらに、聞く人を後押しするような妙な力も感じた。
「あの! 僕、ベース、練習したので! 実力をっ、みてほしい、んです!」
辛うじて赤山は、変な話し方をしながらも遂に口を開く。
話し方自体は歪だったが、その心は、真っすぐだった。




