第七十四話 「家の前でうろついて」
ゴールデンウィークもいよいよ終盤になり、迎えた五日目と六日は、叶や喜多子、寅子も含めたいつもの友達と共に、夢のテーマパークを泊りがけで楽しんできた。それはもう、何もかもが楽しすぎて、ゴールデンウィーク六日目の昼下がりの中、早めの帰路についたときはかなり浮かれていた。
そんな気分のまま、テーマパークのカチューシャを着けたままの叶と共にあたしは自宅の最寄り駅で降り、他の友達と分かれた。さらに叶とも、途中の分かれ道にて家の方向が違うので分かれる。彼女が手に幾つも提げたお土産の袋は、いかにあたし達がはしゃぎまわることができたのか語っているような気がして、もう終わったことだと思うと少ししんみりするものがあった。
昨日や今日以上の楽しみを、明日感じられないと思うと、怖くも思える。
感傷のような不安のようななんとも言えない気分に浸りつつ住宅街を歩いていると、道の途中で見慣れた人物を見かけた。
彼は時々、何か思い詰めているのか俯きながらとある家の前を歩き回っている。時折搔きむしられて捻じれる黒髪は、彼にとってどれほど拗れた問題なのかを表しているようだった。
「あっ、青海さん」
平凡な赤いTシャツを着た彼は、あたしに気づくと話しかけてくる。まさしく彼は、赤の柄の使用者、赤山だった。
「その、別に変な事考えてたわけじゃなくて……」
先程までの妙な動きを誤魔化したいのか、それとも弁明したいのかよく分からなさそうな説明を、彼は始めようとするが、その前にあたしはこんなことを聞いた。
「いや、どうしたのよ。 この家の前でうろついて」
対して赤山は、返答に困ったのか口を噤んで俯いてしまう。
標札に山吹と書かれたその家は、普通の家より大きめな感じのだが、一体赤山にとってどんな接点があるのかまるで想像がつかない。
考えられるのは、彼はヒトミみたく上手く人間関係を作れないような人なので、もしかすると距離感が少しおかしくなって、友達か、あるいは思いを寄せている人の家の前にいるのかもしれない。仮にも本当にそうだとしたら、さすがに対峙したあたしが止めるべきだろう。
少しして赤山は顔を上げると、彼は小さく口を開ける。
「その、この家に住むヤマブキ・イエローに認められたくて、ベース持って彼の家に来てみたんだけど……」
言われてみると確かに、赤山の後方にはベースが入った袋が塀に立てかけられている。
そして、彼が言ったヤマブキ・イエローと言う名前には、妙に聞き覚えがあった。
どこかで身近な人が、その名前を言っていたような気がしてならないのだ。




