第七十一話 「神社とステージは違うじゃない」
ゴールデンウィーク四日目は、父が神主になっている色生神社での、巫女のバイトだった。いつも通り白衣と緋袴で身を包むと、事務所に向かい、各種書類の確認をしたりして準備を整える。
うちのバイトの場合、業務内容は至って単純で、事務所にて御守りを頂きたい方の対応をしたり、人が少ない時に石畳をほうきで掃いたり、あるいは稀に現れる、白昼堂々と行うタイプのお賽銭泥棒を通報したりする、といった具合だ。
赤山と初めて会った日の翌日みたいに、この巫女のバイトを平日にするときもあるが、ゴールデンウィークなどの長期休暇時にすると平日とまた違った感じがして、何気に楽しみだったりする。
「今度の練習試合で勝って、部を存続できますように!」
例えば、あそこの方で声に出して願掛けする運動部集団のように、平日は来ないような若者が長期休みになるとよくうちに来るので、人間観察のし甲斐がある。
あるいは、参道の石畳じゃない所の地べたに座り、ご神木を熱心にスケッチするお爺ちゃんも長期休みの時にだけ見かけるのだが、果たしてあの人にお声かけするべきなのか、いつも迷ってしまう。別に人に迷惑をかけていたり、景観を損なったりしているわけではないのだが、どうも不審に思えて仕方がない。
「すみません、あの、御守りを買いたいんですけど」
妙なお爺ちゃんに意識を向けていると、いつの間にか事務所の窓口の前に立っていた少年が声をかけてきた。背格好からしておそらく中学一年生だろう。髪型が、なんとなく赤山に似ているような気がする。
「どちらの御守りを買い……ご希望でしょうか?」
少年に吊られて「買う」などと言いそうになるが、言葉を詰まらせて言い換える。神社の御守りとは有り難いものである以上、細かい言葉遣いも気を付けなければいけないのだ。
「えっと……れん……い……じゅ」
「すみません、もう一度伺ってもよろしいでしょうか?」
少年は下を向いて何かを言っていたみたいだが、彼が口をすぼませているせいで聞き取りにくかったので、思わず少し語気を強めてしまった。
「れんあい……じょう、じゅ」
なかなかウブな少年だった。どうも少し少年のことが気になってしまい、ちょっと絡んでみることにした。
「もしかして、好きな子が居たりするの?」
今までの丁寧語から打って変わって敢えて砕けたような口調にし、からかうように声をかけてみる。
「べっ、べつにそんなのいいだろ……じゃないですか」
つられて少年も砕けた口調になりかけるが、年上のあたしにそんな口の利き方をするのは気が引けたのか、敬語に言い直す。なんだか逆に初々しくて、自然とにんまりしてしまう。
「確かに、それもそうだね。 頑張ってね」
「ありがとうございます、ってだから、別に好きな子がいるわけじゃないですから!」
捨てるようにそんなセリフを言った少年は、事務所から走り去り、境内から降りるための急な階段へ向かって行った。
思えば彼くらいの頃、あたしはヒトミのことがあり、あんなふうに恋愛に興味を抱く余裕すらも無かった。だから、彼に絡んでしまったのはそういう羨ましさによるものかもしれない。
もしも中一に恋愛ができたなら、今頃彼氏がいるのか、なんてふと考えてしまう。
それは、昼休みの時に友達4、5人と恋バナした際、聞いていると楽しいはずなのに、どこか置いて行かれるような感覚に似ていた。
別に彼氏がいないことは、気にしていない。
ただ、彼氏がいると恋バナする友達みたく、もっと幸せになれると思ってしまうと気になることがあった。
などと考えていると、背格好がそっくりな二人組が歩いて来た。
「最近聞いたんだけどさ、色生神社って声に出して願掛けすると、叶うんだって」
一方は、気だるそうな口調。
「へえ、でもそんなことするなんて、ちょっと恥ずかしくて私はできないかも」
一方は、お淑やかそうな口調。
「え~? ウチら、いつもステージ立って人前で爆音出してるのに、恥ずかしい?」
「だって、神社とステージは違うじゃない」
紛れもなく、喜多子と寅子だった。
バイトしているあたしが言えたことではないが、昨日のフェスでかなり体力を使っていたにもかかわらず、長い階段を上ってここに来るとは思わなかった。
とにかく、バイトしている様子を友達に見られるのはあまり好きではないので、あたしに気づいてしまうのではないかとかなりヒヤヒヤした。




