第六十九話 「やっぱ双子ってかわいいなぁ」
ゴールデンウィーク二日目は塾の講習があってへとへとになったが、その後の三日目にある予定のためならば、張り切ることができた。
三日目の午後にある予定、それは、都心部のとある地域で開催される屋外ロックフェス。
フェスやライブなどの音楽イベントには、元々興味はありながらも行くような性格ではなかったが、バンドをやっているという双子の寅子と喜多子に誘われ、叶と共に行くことになった。
「へぇ~、このバンドの衣装とか『強い』って感じがしてカッコいいなぁ~」
会場へ向かう道中の電車にて叶は、事前に寅子からもらっていたチラシに載っているアーティスト写真を、指差ししながら改めて眺めている。
「「それSHOW-YAだね」」
あたしの右に座る叶の、さらに右の方から双子のハモった声が程よく響いてきた。お淑やかな寅子と気だるげな喜多子は双子ゆえにか、ちょくちょく声が重なるのだ。入学した頃はその頻度に少しびっくりしたが、一年以上の付き合いでなんとなく慣れた。
「またハモった~! やっぱ双子ってかわいいなぁ~」
一方、胸を抑えながら、あたしが座る方へのけ反ってきた叶は、未だに慣れていないようだった。ツインテールの彼女が頭に付けている、イナズマの形をした銀色のブローチの先端が目に刺さりそうなくらいに近づいてきて、思わずぎょっとする。
今日の叶の装いは、ダボっとした黒いバンドTにダメージジーンズ、銀のイナズマの意匠があしらわれたトゲトゲの髪飾りや手首のブレスレット、といった具合で、まさにロックだった。彼女のゆるい雰囲気をもってしても、そのファッションは近づくとケガしてしまいそうな危なさを感じさせる。
「おっ、こんなところに和の姫が!」
あたしの方を振り返るやいなや、今度は寅子の方へのけ反っていく。
いつもの水色の七宝柄の甚兵衛を、今日は黒いフレアパンツに合わせた白いTシャツの上から羽織っていたのだが、それが彼女にとってかなり可愛く見えたみたいだ。さっき会った時にもこの姿を見ているはずだが、車窓から入ってきた昼下がりの眩しい光でさらに輝いて見えたのだろう。
「うおっ、スーパー・バンド・ツインズ!」
寅子と、寅子の右隣に座った喜多子を見るや否や、可愛さにやられて叶は再びあたしの方にのけ反ってきた。このくだり、一体何回繰り返されてしまうのだろうか。
当の本人たちはと言うと、寅子は緩いタッチでドラムのイラストが描かれた赤デカT、喜多子は緩いタッチでギターのイラストが描かれた白デカTをそれぞれ着ており、叶の驚き方に対して二人とも同じように首を傾け、ぽかんとしていた。
それに対し、あたしも思わず可愛さにやられるところだったが、なんとか踏ん張って耐える。もしそのまま叶と同じようにのけ反ってしまい、左に座る普通のOLさんの胸元にぶつかってしまったらとおもうと、かなり申し訳なく思えたからだ。
かくして、電車をいくつか乗り換え、フェス会場の最寄り駅に到着したのだが、大勢の人だかりでフェス会場までの公道が詰まっていた。途中に立っている、順路を矢印で示した看板も人混みよりも低くて見えにくくなっており、あたし達は道に迷いそうになる。
とりあえず人の流れに合わせて歩いていくが、今からフェスを楽しむワクワクよりも、そもそもちゃんとたどり着くことができるのかという不安が、今は勝っていた。
ある時、道が極端に狭くなり、目の前が他の人に遮られる。
それでも三人を見失うまいと、なんとか人混みをくぐり抜け、銀色のトゲトゲとした髪飾りを着けたツインテールの叶へ近づいて行った矢先。
「叶!」
再び人の波にのまれて消えてしまいそうな気がし、思わず彼女を呼びかける声を吐き出した。
しかし、ふとこちらの方を振り返ったその人物は、目元を黒く塗っており、叶と真逆で恐ろしいくらいの目力があった。
あたしが声を掛けてしまった人は、叶じゃなかった。




