第六十八話 「委員長になっちゃってよ」
翌日の朝、あたしは色生神社の最寄り駅である色生ニュータウン駅にて、ある人と待ち合わせをしていた。
「ごめ~んつるぎ! ちょっと遅れちゃった!」
「ううん、大丈夫」
ちょっと抜けてるところがある友達、叶だ。
銀のメッシュが入った黒髪をツーサイドアップに結わえ、かわいく見えるよう、いつも以上に工夫を凝らして銀色の装飾を施したブレザーで来ていた。
うちの高校の女子の制服はセーラータイプとブレザータイプを選択できるのだが、彼女いわく「制服でいろいろおしゃれできそうだから」という理由でこの高校に入ったらしい。まさに生粋のおしゃれ番長だ。
「うわぁ~! 今日めっちゃカワイイよ!」
「へへ、ありがと」
照れくさそうにそう返すあたしは、彼女に負けじと、いつものセーラー服に水色のメタリックな装飾を施し、水色の厚底シューズとルーズソックスを履いてきた。そのせいか、普段なら彼女と目線の高さが同じはずが、今日に限ってあたしが見下ろすような形になっている。
特に厚底シューズは、色生神社でのお手伝いで稼いで買ったお気に入りだが、今日履いてきたのは少し余計だったのかもしれない。事前にお互い制服でお出かけするとは話したが、厚底シューズを履くか否か揃えるところまでは考えていなかった。
「にしても目線高~っ! けど、負けないよ!」
そう言うと叶は、パステル調な灰色の通学鞄から足跡のような形の黒い物体を二つ取り出し、両足の黒い靴それぞれにボタン付きの帯で取り付けていく。
「これで同じ目線だね!」
なんと彼女の靴が厚底シューズに早変わりした。底が取り外せるタイプの厚底シューズで今日は来ていたみたいだ。
「へえ、さすが叶だね」
「でしょ!」
その後、あたし達は電車を乗り継いで都心部の方へ行き、インスタ映えするスイーツを堪能したり、最近流行している服をふんだんに取り入れたセレクトショップの、ウィンドウショッピングを楽しんだりした。
帰り道の車内。二人で今日撮った写真をスマホで見せ合い、他愛のないことを話しながら思い出を振り返る。このスイーツってあれに似てて可笑しい、ウィンドウショッピングで見つけたあの服はあのアイドルが着てそう、など、どうでも良くて、だけどかけがえのない時がそこに在った。
誰かと笑い合っている状況の中、思い出したことがあった。
こんな笑顔を、ヒトミにも――
不意にあたしは、呟いていた。
「文化祭で活かせるかな」
「文化祭? 確かに今日見た服とか、衣装として経費で買えたらいいな!」
そういう意味で言ったわけではないが、ファッションのことにうるさい彼女らしい誤解の仕方で、愛らしさも相まって憎めなかった。
「……そういうつもりで言ったわけじゃないけど、まあ、確かにね。 けど去年の文化祭の予算一万円じゃ、厳しいよね」
「ほんとそれ~。 企画の『ぽさ』っていうのを作るなら、いい服欲しいのに」
彼女の言う「ぽさ」は、企画の世界観や完成度のことだろう。
「実は、文化祭実行委員の公約とか今考えてるんだけど、やっぱり予算拡大って必要だよね」
「うんめっちゃ必要……って、つるぎ実行委員やるの!?」
「うん」
「たしかにしっかり者のつるぎっぽい~! そしたら委員長になっちゃってよ」
軽々とそう言っちゃう彼女にたいし、一瞬取り乱して前のめりに転びそうになってしまう。厚底シューズの不安定さも相まって、叶が受け止めてくれなかったら結構危なかった。
だが、想像してみると確かに委員長も良いかもしれない。
自分のやりたい公約を、最大限にできそうな、そんな立場。
そして叶や、みんなや、ヒトミを最大限喜ばせることができそうな立場。
その日の夜のあたしは、応募用紙に書かれた「委員長」「副委員長」「役員」という志望する立場の選択欄のうち、「委員長」を丸で囲っていた。




