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剣色の夢  作者: チャカノリ
ディープ・イエロー「黄の炎」
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第六十六話 「誰も一人にしない文化祭」

「どうしようか……」


 自室のカレンダーを見つめながら、あたしは途方に暮れたような独り言を吐く。


 沢山予定が入った明日からのゴールデンウィークまでに、文化祭実行委員会のメンバーになる応募用紙を書き終わらせたかったのだが、片手で掴んでいるそれに、氏名以外は何も書けていなかった。


 A4という大きさに残された白さを視界に入れるたび、いかに自分がまだ何も踏み出せていないのか思い知らされる。


 この一週間のうち水曜日の放課後に行われた、生徒会による実行委員会募集の説明会によれば、ゴールデンウィーク明けに応募用紙を提出、そしてその後の臨時生徒総会で立候補者によるスピーチが行われ、投票で選ばれる、という流れだそうだ。


 焦燥感に駆られたあたしは勉強机に向かい、改めて応募用紙を見つめる。


 一番上には「委員長」「副委員長」「役員」と書かれている。どれか一つをまるで囲って選択する形式だが、未だにどれも丸で囲めずにいた。


 そのすぐ下には「志望動機や公約」という名目の広い欄がある。特に、文化祭で何を改善したいのか、どんな文化祭にしたいのかを書くのが望ましいだろう。加えて自分がそれを達成できる根拠として、過去の経歴や友達から見た自分のことを書くことができればもっと良いはずだ。


 これに対し今のところ、過去のクラス委員の経歴、中学の部活の後輩や友達から見た自分は真面目で面倒見がいいという事など、根拠は書けるが、肝心の改善したい事やどんな文化祭にしたいのか、ということは思いつけなかった。


 改めて、あたしがこの紙を掴んだ理由を思い出してみる。


 あの時、ヒトミの笑顔が思い浮かんで、遂に応募用紙を取っていった。


 そして当時、ボッチだったヒトミはあたしに対し、最後まで相手にしてくれた人として、恩義のようなものを感じていた。


 赤山のことといい、何かとボッチな人と縁がある気がする。


 もしかすると、あたしが志望した理由はこれなのかもしれない。ヒトミのようにボッチな人も、皆と同じように笑顔にしたかったのだ。


 例えば、あたしの志望動機や公約を一言でまとめるとしたら、こうなるだろう。


「誰も一人にしない文化祭」


 別にボッチでない人からすると、一人にならず、常にだれかと笑い合っているなど当たり前だろう。


 そんな当たり前を、真の意味で皆と分かち合えたら――


『つるぎらしくて、いいと思う』


 スマホ越しにヒトミは褒めてくれた。


 以前の清掃イベントの際、彼女とチャットアプリの連絡先を交換したのだが、こんな風に通話をするのは初めてだった。


「もしヒトミが文化祭に行くとして、どんなふうになってたら楽しみやすい?」


『ディスニーランドっぽくなってたら、いいな』


「いやさすがに無理があるって」


 ヒトミの提案にたいし、思わず笑ってしまう。


「でも、たしかにディズニーっぽくなってたらいいよね。 企画がそれぞれ豪華だったり、キャストの方が話しかけやすい雰囲気とかだったり」


『そうそう、何でも話せたりとか』


 それはキャストと言うよりかは、もっと距離が近い人同士でやることな感じがする。


『つるぎが実行委員の文化祭、行ってみたいなぁ~』


「ありがと、そう言ってくれて」


『じゃ、じゃあ、おやすみ』


「おやすみ」


 そう言うと、あたしはスマホを切り、静かにスマホの電源を落とした。


 ヒトミと話を交わし、前よりも頭の中の霧が晴れてきた今なら、書けそうな気がする。


 あたしの理想の文化祭が、想像できるようになってきたのだから。

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