第五十五話 「じゅんを襲っちゃって」
「へえ、面白い使い方だね。 まあ、僕が言えたことじゃないけど」
後ろからの少年の一言と共に、前にいる先生が駆けてきた。未だに白目をむいたまま向かってくるさまは、ホラー映画で見るようなジャンプスケア以上に迫力があった。
赤の柄が手から落ちそうになりながらも僕は慌てて構え、先生の注目を僕の体から、赤の柄の刀身より吊るされている炎の幕の方に誘導したことでギリギリながらも避ける。
しかし、炎を潜り抜けた先生がこのまま真っすぐ進めば、今度は後方にいるであろう怪しげな少年にぶつかってしまうはずだったので、先生の身を案じて振り返ったその時。
先生は急に止まり、目の前の主人に対して犬のお座りのような態勢をとっていた。先生の大事な何かが失われているさまを見せつけられているようで、気味の悪い光景だった。
他方、その主人である怪しげな笑顔の少年は、夢で見た通り白髪で目を瞑っており、体より一回り大きな白い甚兵衛を着ていた。片手に握られている純白の柄からは、ぼんやり白い光を発する、短剣にも満たない短い刃が生えている。
さらに柄尻のところには、金色でひし形のレリーフがついており、「白」と刻まれていた。紛れもなく白の柄を使う少年であり、青海さんの先祖の、因縁の相手だった。
前に妹の矛子から聞いた話だと、白の柄の少年は金縛りを仕掛け、心を読んでくると聞いた。だが、今の先生がされているように、他人を操ることができるとは聞いていない。
「へえ、この間会った『ほこ』っていう人の兄、『じゅん』っていうのは君だったんだ」
僕の内心を見透かしたセリフが、少年から出てくる。どこか懐かしむ口調が、見下してくるようで鼻について仕方がなかった。
「まあそんなイラつかないでって。 赤の柄を渡せば、君の言う先生っていう人も、すぐに自由にするよ」
柄の力で先生を操るこの危険人物に対して、柄を渡すつもりなんて一切無かった。むしろ僕は、先生というこの地を生きる人を守るため、彼に立ち向かわないといけない。
彼がどんな生い立ちで、青海さんの先祖に対する因縁の相手となり、先生を操って僕に襲わせているのかは分からない。しかし、ただ一つだけ僕がするべき、確かなことがあった。
彼の、人の自由を奪うような想像を止めさせ、自分の幸せを実感するために想像を使ってもらう。
あの言い方から少年はこの後、とんでもないことを先生にするのだろう。それでも先生を守り、少年を止めてみせる。
「へえ~かっこいいね、その独白。 ならそうだなぁ~」
少年と対峙するべく、刀身に付いた炎の幕を消し、燃え盛った刀身を持つ赤の柄を構えていると、少年はお座りをした先生の周りをゆっくり歩きまわり、指を口に当ててわざとらしく考える素振りを見せ始めた。
「ただ刺すだけっていうのはつまらないし~」
何かに媚びるように敢えて語尾を伸ばす話し方に、神経を逆なでされたような感覚を覚える。心を読めるというのだから、あえて人を苛つかせるような仕草をしていると思うと余計に腹立たしかった。
「へへっ、あえて怒らせてるのバレちゃった? あ、そうだ! お兄さんっぽくあんな使い方をしてみよ!」
そう言うと少年は、目の前でお座りしている先生に対し、自らの右手を差し出す。
「先生、お手!」
先生が従順に左手を差し出すと、その手を少年は握りこみ、こんなことを指示した。
「あそこにいる『じゅん』を襲っちゃって!」
溌剌にそう言い放つと、なんと先生に、短剣となっている白の柄を持たせたのだ。
僕を襲おうとしている先生に、さらに白の柄を持たせたということは、もう「あれ」が起きてしまうとしか思えない。
先生がこちらを振り返り、白の柄を振り上げながら僕の元へ走り始めた次の瞬間。
先生の手から柄がすり抜け、地面へ激突。
瞬間、白い煙と共に空気を横に揺らす大きな爆発が起きた。
想像の暴走は、止められなかった。




