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剣色の夢  作者: チャカノリ
ディープ・イエロー「黄の炎」
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第五十話 「一緒にヘドバンしてくれたしな」

「……俺がここに居たなんて、先生に言うんじゃねえぞ」


 他に誰もいない昼休みの音楽室にて、僕と目が合うや否や、彼は冷たく言い放った。先ほどまで四本弦の長くて赤いギターを、それも夢中で楽しそうに弾いていただけに、ギャップが凄まじい一言だった。あまりに早い気分の切り替えに、思わず後方へ躓き、尻もちついてしまう。


 臀部の痛みを堪えつつ、近くに置かれていた机を掴んで立ち上がるが、その間ずっとこちらを見つめてくるので、思わずここから逃げ去りたいと思ってしまった。


 だが、そんなことをするわけにはいかない。ここに来て、彼と会ったことに意味が無くなってしまうのだから。


 クラスの男子がくだらない話や弁当のおかず交換で盛り上がるように、僕は彼と二人ででも盛り上がりたくて、彼を探した。


 昨日直感で感じた通りに、本当に彼と仲良くなるため、ここへ来たのだ。


「ねえ、ここで一緒にお昼、食べていい?」


「……ジャマしたり話しかけたりしないなら別に。 それと俺、もうお昼食べ終わった」


 昼食を通して仲良くなるための手段である、くだらない会話、おかず交換がつぶされ、端の机に座って静かに食べることしかできなくなってしまった。


 僕が弁当箱を開けて食べ始めたとき、彼は妙な赤いギターのソケット部分に挿した黄の柄をいじりながら音楽室の真ん中に立ち、そこの机の上に置かれていたベースアンプと再び向き合い始めた。


 瞬間、悪魔に乗っ取られたかのようになってしまった彼から、目を離さずにはいられなくなった。


 ウルフカットの彼が、金髪混じりの黒髪を激しく振り回しながら口角を吊り上げるさまを見ていると、もう内面がまともな人間じゃなくなっている気がしてならないのだ。


 しかも右手に摘まんだピックを残像残して素早く動かし、部屋中にこの世にあるべきでないおどろおどろしい低音を響かせているので、彼のみならず、その周りの風景も人間が住んでいいような雰囲気じゃなくなっていた。スピード感溢れる演奏で時を加速させ、現世の終焉を無理くり早めようとしていたのだ。


 もしも本当に彼を乗っ取っている悪魔がいるとしたら、きっとそれは現世のどんな場所も終わらせ、地獄へ変えてしまうような侵略的な奴だ。


 だから、こんなのを見てしまっていては、いつ命を獲られたり、乗っ取られたりするか分かったもんじゃない。


 分かったもんじゃないはずなのに。


 やっぱり目を離せなかった。


 それは、ただの好奇心か。


 あるいはボッチとして生きることになってしまったこの世から、知らないうちに連れ出してほしいと懇願しているからか。


 それとも、この世を壊してほしいからか。


 自分でもよく言葉にできない気持ちだから、なぜ見入ってしまうのか分からないのだと、部屋中を満たす重低音と共にひたすら頭で思い込みつづけた。


 気が付けば、弁当を食べることなどそっちのけで、席に座ったまま高速で首を振り散らかしていた。しかし席すらも狭く感じてきてしまったので立ち上がり、そのまま引き寄せられるように彼の元へ引き続き首を振りながら近づく。


 一瞬、彼と目が合うときがあった。


「一緒に楽しんでくれてるか!」


 四本弦のギターが放つ重低音が、僕へ叫ぶように語りかけた気がした。


 時には、彼とタイミング合わせて一緒により大きく頭を振り、あるいは一緒に跳ね、あるいは一緒に屈んで時計回りに首を高速で振った。立ち眩みとか眩暈とかなんて気にならないくらい、僕の頭の中もこの音楽室みたいに地獄に変わってくれたのだ。


 ある時、いきなり彼の演奏がぴたりと止むと、僕のことは全く気にせず、お腹に抱えたギターを静かに見つめ始めた。


「……リッケンバッカーベースほしいとか思ってたけど、このエスジーベースも捨てたもんじゃないな」


 黒魔術の材料のような言葉をつぶやいているが、演奏中で見せた悪魔的な笑顔とはまた違う、彼の第一印象から想像つかないような、透き通る無邪気な笑顔がそこにあった。


 さらにその顔のまま振り向いた彼は、こんなことを言ってきた。


「なにより赤山が、一緒にヘドバンしてくれたしな!」


 僕を喜んでくれる言葉に、肝心の僕はどんなリアクションをするべきなのか、分からなかった。中学に上がってから、かけられたことの無いような言葉だったのだ。


 こんなにたまらなく虚しい自分だったせいで、彼に対し、申し訳なさを一気に感じ始めてしまう。


 彼も、僕も、楽しくてたまらないこの状況を保とうと、せめてなんとか言葉を探すが、見つからない。それどころか必死になって探せば探すほど、どんどん闇に消えていって余計に見つけられなくなる気がした。


 このまま彼の笑顔が放つ光に照らされたままだと、彼を傷つけて罪が深くなる気がしてしまうと思い、彼が肩を組もうとしていたところを避け、何も持てずに音楽室を逃げ去ってしまった。

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