表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣色の夢  作者: チャカノリ
ディープ・イエロー「黄の炎」
47/64

第四十七話 「ディープ・パープルで、紫の炎」

 週が明けた日の放課後。僕は学校中のHR教室を歩き回り、隣のクラスの呉尾、楊木、小野を探していた。というのも、先週友達になったばかりの彼らと、今日こそは一緒に帰りたかったのだ。


 先週は呉尾の用事に確かに付き合わせてもらい、半ば一緒に帰ったが―途中からは僕の妹の件に巻き込む形になってしまったが―その後は呉尾含む彼らと一緒に帰る機会に巡り合えず、本当に自分は友達を得られているのか、疑わずにはいられなかった。


「呉尾、楊木、帰るぞ~」


 まだ見ていないHR教室の方から、小野の野太い声が聞こえる。たまらず心が躍り、教室に入ろうとしたその時。


「今日三人でカラオケ行こうぜ~」


「いいじゃん! ちょうど授業の抜き打ちテストでイラついてたし、行こ行こ!」


 楊木が眼鏡を直しながら提案し、机に座って元気に反応する呉尾が目に入った。


 彼らの頭の中に、僕はいなかったのだ。


 そこに居ることが許されないような気がして、あるいは赤の柄を掴む前みたいに独房にぶち込まれる気がして、さりげなく教室を出た。


 そして、ひたすら走った。


 少しでも早く、あの教室から距離を取りたくて。


 彼らの近くに居ることが大罪だとされ、捕まりそうな気がして。


 昇降口へ逃げ出た。


 昇降口の軒を出て夕日を浴びた時、遂に終わったと思い、手を膝について呼吸を整える。いつの間にかあふれ出ている熱気と冷や汗が混ざったせいで、熱いのか寒いのか分からなくなってしまい、気がおかしくなりそうだ。


 これ以上立っていられない気がしたので、かろうじて近くのベンチへ擦り足になってでも歩き、全ての苦痛をすぐにでも預けたくて腰を下ろした。しかし、あまりの安堵感に腰の気が抜けてしまい、そのまま上半身を右へ曲げて横になってしまった。


 目を閉じていると、低くて艶めかしい声が耳に入ってくる。何を言っているか上手く聞き取れなかったが、直後、体験したことが無い何かが響いてきた。


 クラシック曲のような旋律を奏でる、エレキギターの渋くて疾走感あふれる音。

 

 曲を不思議な雰囲気に彩る、オルガンの高い音程。


 前へ前へと必死に押し出す、手数の多いベースとドラム。


 そして、空気を引っ掻いて切り裂き、世界を展開するボーカルとコーラス。


 英語の歌詞で何を歌っているのか分からなかったが、目に見えるもの全てを怒りで燃やしつくすような、恐ろしくも神々しい曲だった。


 ギターの旋律に導かれ、曲が遂に劇的な終わりを迎えた始めた時。今まで何が起きてしまったのかと気になり、思わず上体を起こして目を開けてしまう。


 そこには、いつの間にかできた人だかりの間をモーゼのごとく二つに切り分けて走り、シャウトしながら曲を〆るためのスライディングを決める、名も知らぬギタリストの姿があった。


 曲が終わった静寂の中、眩く黄色いボディのギターを抱え、両ひざついて肩で息しながら空を仰ぐ彼は、うちの学校の制服を着崩している。


 さらに衝撃的なことに、本来ケーブルを刺すであろうギターのソケットのような部分には、刀身がギターに挿すジャックに変化した黄の柄が挿されていた。


 まさかこんな形で黄の柄に巡り合うとは思わなかった。


 しばらくして彼は息を整い終えると、ありったけの声を張り上げて、叫ぶ。


「どうよ、ディープ・パープルで、紫の炎!」


 先程演奏した曲の名前らしきことを言い終えたとき、黄色い歓声は彼の前後左右からどっと溢れ、その場はある種のライブ会場のような雰囲気になってしまった。


 彼は両手を上げ、満面の笑みで観客の声を満足するまで浴び終えると、観客の間を分けて進み、スピーカーやアンプ、ノートパソコン、マイクスタンドにセットされたボーカルマイクなど、機材が座面に配置された向かいのベンチの方に戻る。先ほどのギターとボーカル以外の音源は、全てノートパソコンから出ていたのだろう。


 座面に足をかけ、他の機材と同じようになんと彼もベンチの上に立つと、


「よう、俺は1-1のヤマブキ・イエローだ。 よろしく」


 笑顔と共に静かに自らを名乗った。


 1-1。それは僕と同じクラスだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ