第四十四話 「「蛇高速射」」
地面から突如として突き出した、黒の柄の男によるものであろう、短剣のような刃。ぎりぎりのところであたしの足は刺されずに済んだが、奇妙なことに、刃はすぐさま地面に引っ込んで消えた。
男にとって水中のようになってしまった地中から、どうやら彼は黒の柄の刃を闇雲に水面に突き立て、何とかしてあたしやヒトミを刺そうとしている。あたし達は男に対して似たようなことをやっていたが、今度は逆に男からやり返されているのだ。
先程の刃に驚いてヒトミに抱きついていたあたしは、敵が見えずに襲われる光景の恐ろしさに対し、外からでも聞こえるくらいに脈を強く打っていた。さらにそれは恥ずかしくも、密着しているヒトミにも伝わっていってしまう。
そんなことを考えていると、すぐさまもう一回、水面になった地表から黒い刃が、ぽちゃん、と切り裂くように生えてくる。今度はヒトミの右足のつま先から少しずれたところに出てきたので、あたしに抱きつかれていたヒトミは驚いて派手に尻もちついてしまった。
つられて一緒に倒れ込んでしまい、さらに体が密着すると、ヒトミがかなり震えているのが分かり、時折叫び声になりかけたような、うわづった声を小さく漏らしていた。地面からいきなり生えてきた刃の鋭さに、彼女は気が動転してしまっている。
もしさっきの尻もちによる地表の振動が、男のいる地中、もとい水中にも伝わるのだとしたら、次の一撃でヒトミが刺される。
予期したあたしは、ヒトミをすぐさまこちらの方に引き寄せた。
二発目の刃が引っ込んだ後、三発目の刃は、ちょうどヒトミが尻もち着いたところから突き出て、すぐさま引っ込んでゆく。思った通り、男は地表からの振動であたしたちの位置を把握しているみたいだ。
あたし達の足音を頼りに突き出てくる刃を避けるためには、一緒に固まって動く必要がある。
そして、刃がどこから出てくるのか分かるように、お互い反射神経を鋭くする必要がある。
そう思いついたあたしは、青の柄を握っている左手をヒトミに差し出し、こんな提案をする。
「ねえ、この手握って」
きょとんとした様子で、ヒトミが震える手で青の柄ごと握ると、こう叫んだ。
「蛇高速射」
柄からはサバイバルナイフのような、ターコイズ色のクリアな刀身が生成される。
「ターコイズって?」
「本来は蛇のイメージの、高速移動技。 だけど、ついでに意識が加速するから、それを活かしてどこから刃が生えるのか察知もできるの」
「へえ……」
いまにも消えそうな、かすれた声で彼女は反応し、握ったあたしの手を見つめる。
この手こそ、今、大事な役割を果たしている。
「蛇高速射」による恩恵は使用者しか受けられないため、ヒトミにも青の柄を握ってもらうことで、ヒトミも使用者になってもらっているのだ。
地面のどこら辺から次は刃が出てくるのか、神経張り巡らせて構えていると、ヒトミは緑の柄を持つあたしの右手も握り、背中合わせになった。
「蛇高速射」
何を考えたのか、彼女の口からも技名が放たれる。すると緑の柄からも、クリアなターコイズの短剣の刃が生成され、いつも「蛇高速射」を使っている時以上に脳がすっきりし、足元の振動に対して感覚が鋭くなっている気がした。
その時、左足の方の地面から、何かが上へ上ってくる気がした。すぐさま左足を上げると、直後に地面から四発目の刃が生えてきた。
もしかすると、同じような系統の技を二本の柄で同時に使用すると、直感力など他の機能が増幅される能力があるのだろう。
引き続き地面に気を配っていると、ヒトミがこんなことを言った。
「この状況、切り抜けられる方法、思いついたかも」




